第28話 七騎士会議
「召喚士クローディア、白火の断罪ギルドマスターシノノメ。以上の四名が国王の名のもとに選出された」
スジンの決定に、各々がざわめく。
「あわわ、ハクアさん、ですか……!」
「クローディア、聞いたことのない召喚士だね」
「白火の断罪って、ギルドのやつが国に協力するんですか」
フィリア、アオイ、シスイが順に言葉を発した。
「皆、各々思うところがあるようだな。だが今回の選出は陛下と私が話し合った結果だ。無論、ギルドの協力については既に取り付けてある」
ギルドマスターの協力を取り付けたということは、ギルド連盟も五大国と協力することを了承したことにほかならない。
これで、物資や輸送経路などの支援は心配がいらなくなり、前回の人魔戦争の二の舞にはならないだろう。
「……一つ質問が」
口を開いたのは、今まで沈黙を保っていたハクアである。
スジンが無言で促す。
「俺はわかります、前々から言われていたので。彼女、クローディアさんが選ばれたのは何故ですか」
クローディアはつい数日前にこの世界に来たばかりの人間だ。
魔族と戦えるほどの力はないし、この世界にそこまでする義理もない。
それに何より、異世界から来たばかりの人間を討伐隊に入れた理由がわからない。
「それについてはまだ言えん」
「スジンさん」
ハクアがスジンの名を呼ぶも、彼は頭を振る。
「言えん。だが、召喚士の力が絶対不可欠なのだ」
「それなら他にも召喚士はいます」
クローディアを隊に入れる理由が納得できない、とハクアが反対の意を示す。
そこで、今までスジンに説得を任せていたホウトクが口を挟む。
「ハクア。知っての通り、我が国の召喚士は召喚士クローディアともう一人だけ。もう一人は既にこの国にはおらぬ」
故に討伐隊に入れることは叶わぬのだ、とホウトクが言う。
クローディアの他にも召喚士はいる。
けれどもその人物は王国のやり方に反対し、国を出奔してしまい、王国ではその居場所を掴むことができていなかった。
「召喚士がなぜ必要なんですか」
引き下がらないハクアに、ホウトクが溜息をつき、折れる。
「……わかった。スジン、どうせ必要なことだ、話そう。他の者も聞け」
ホウトクに皆の視線が集まる。
それぞれの反応から、召喚士を討伐隊に入れることの重要さについて知らないのは、人魔戦争を経験していない四人だとわかる。
「雷竜の力が宿る魔王は、召喚士のみが呼ぶことのできる聖火神スルトによって、魂までダメージを与えることが出来る」
これで、召喚士が重要視される理由は希少ゆえだけではなかったと判明する。
「過去の人魔戦争でも、氷竜と協力し、召喚士が魔王討伐に力を貸し、魔王を倒した」
「過去のメンバーに召喚士はいないのでは」
そこで、黒騎士アオイが口を挟む。
七騎士まで登り詰めた者は人魔戦争について、平騎士よりも多くの情報を解禁される。
ここにいる者は皆、人魔戦争の資料に目を通したことのある者であった。
その中には過去の功労者や戦死者についての記載もある。
「過去の召喚士は兼業をしており、平時の戦いに召喚獣を使うことはなかったため、別の職業として記載されている」
つまり、記録に召喚士は残っていないこととなる。
「異世界からやってきたばかりの女性に、人族の命運を託すとは言わん。だが、彼女には彼女が関わった数少ない人族のために戦ってもらう。無論、ハクア、お前も入っている」
スジンのそれはあまりにも危うい賭けにも思える。
彼女がお人好しであることを前提にした、大部分賭けに入った目論見だ。
彼女が、クローディアが少ししか過ごしていない相手にも情を寄せる相手だとはスジンですら、遠くから見ただけではわからないだろうに。
「最初からそのために、俺を彼女に付けたんですか」
クローディアが初めてこの世界に来た日。
金騎士がクローディアを召喚士だと見抜いたあの日から今日まで、全ては魔王討伐の準備だった。
「そうだ。流石にここまで時期が早いとは思っていたが。彼女には私から話そう。罵られるのも殴られるのも私が受ける、それがせめてもの筋だろうしな」
スジンは激昂したクローディアに殴られることを予想している。
だが、彼女はきっと怒りはしないとハクアにはわかっていた。
ただ、あまりに大きな物を突然背負わされて、不安に潰されそうになるだけだ。
そういう人だと、まだ少ししか共に過ごしていないハクアは思った。
「魔王討伐隊には、各七大国に向かい、聖火神スルトを召喚する際に必要なことをしてもらう」
ホウトクがハクアたちの今後について指示する。
「聖火神スルトを召喚するにあたって必要なのは七大国にある聖魔石だ。その聖魔石から召喚士が力を受けることによって聖火神スルトを召喚することができる。我が国の聖魔石は大聖堂に安置されている。出発前に触れる機会を設けよう」
七大国はそれぞれ国を守護する膨大な魔力を持つ聖魔石を所持している。
それは王城や神殿にて厳重に警護され、平時は国の動力に、人魔戦争の際は訪れる召喚士に力を与える役目を担っていた。
「いいな、ハクア。お前の任務は魔王討伐を第一とするのではなく、召喚士を守り、レオンハルト殿下を死なせないことだ。メンバーのギルドマスターにも話は通しておく、彼と協力し、成し遂げろ」
「……了解」
ハクアにはそう答えるしか術はなかった。
これは提案ではなく、決定なのだから。
「では、メンバー選出に関しては以上だ。次は軍備や人魔戦争における配置などについてを議題にする」
それから休憩を何度か挟み、何時間にも及ぶ会議がなされ、人魔戦争による各騎士団の役割は次のように決定された。
金剛騎士団は王都守護及び司令塔、玻璃騎士団は王都守護及び軍備管理、紅玉騎士団は各団への支援と後方支援。
翠玉騎士団は各団への支援及び国内警護、蒼玉騎士団は国内警護、真珠・黒曜騎士団は国境線の防衛と魔族討伐。
そこから各団への細やかな指示や連絡手段、大まかな動きについてそれぞれの意見を元に決定された。
「……今回の七騎士会議はこれにて終了とする。各自情報を整理し、明日からの指示出しを徹底してくれ」
明日から、としたのは情報統制のためでもある。
人魔戦争が起こると正式に発表するのは、国王が明日の十二時に国営放送で行なうとのこと。
それまでは国王、宰相、七騎士、その他極小数で情報を留めている状況だ。
「では解散。ハクア、召喚士には私から説明する。お前は……今日は召喚士との接触を禁止する」
解散の旨がスジンから出され、スジン、ホウトク、レンが順に立って退出をする。
スジンからは最後にハクアがクローディアと会うことを禁じられた。
ハクアがクローディアに会いに行ったところで、何もできないと判断したのだろう。
残されたのはハクア、シスイ、アオイ、フィリアである。
「ハクア、大丈夫?」
ハクアに声をかけたのはアオイである。
この四人の中では年長にあたる。
「……まあ」
ハクアの返事に、三人は顔を見合わせる。
テンションがいつに増して低い、全然大丈夫ではなさそうである。
「あ、あの!!」
最初に空気の重さに耐えきれなくなったフィリアが声を上げる。
他三人の視線がフィリアに集まったため、フィリアが一瞬言葉を詰まらせたが、そのまま勢いで言葉を出す。
「私、まだ色々と混乱してて、一緒にご飯でもいかがでしょう!」
これがフィリアなりの気遣いである。
彼女は生い立ちも相まって、人を気遣わずにはいられない性格であった。
「いいね、僕は賛成」
最初に賛同したのはアオイ。
いち早くフィリアの意図を読み、かつ年長であるために自分が賛同して、他の二人に賛同しやすくさせるためである。
「アオイさんとフィリアさんが王都に来られるのは珍しいですし、俺も賛成です。今の時点でやれることないし」
シスイも遅れて賛同する。
彼の言う通り、今日の時点でやれることは殆どない。
部下への指示出しさえ、明日の十二時に行われる発表までできない。
そして、三人の視線が自然とハクアに集まる。
さすがのハクアも、三人の視線の意図がわからないわけではない。
「わかった、行く」
どうせクローディアに会いに行ったところで、会わせてはもらえない。
それどころか、スジンが判断した通り、自分が会いに行っても何もできることはない。
ハクアは同僚三人との遅めの食事に出掛けることにし、席を立った三人に続いて部屋を出るのだった。
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