第27話 第六次人魔戦争の前触れ
「紅華皇国から使者が!?」
紅華皇国とは見目麗しい鬼人と呼ばれる種族が住む国だ。
全体的に黒か茶の髪をもち、瞳は金色であることが多い。
鬼人は和服と呼ばれる釦のない服を着ていることが特徴だ。
ルミッドガード王国の西に隣接した国であり、近年はとある事件にて国家間の仲が悪い。
また、空白地帯を挟んで、魔王領に隣接する二国の内の一つだった。
その国からわざわざ各国に使者を出したということはそれだけ重大なことが起きたということである。
「第六次人魔戦争が起きる」
スジンがキッパリと宣言した。
彼の言う人魔戦争とは人族と魔族の戦争のことである。
遠い昔、初代魔王が誕生したその日から魔族が生まれ、人族と魔族は五度の戦争を行なった。
戦争が行なわれるのはいずれも魔王が復活した時であり、魔王が眠っている間の魔族は人族の国への侵略をほとんどしない。
「ま、魔王が復活した、ってことです、よね?」
自信なさげに発言をしたのはシスイ。
第六次人魔戦争が起きると宣言をするのなら、魔王が復活したということだろう。
「魔王が復活したかどうかはまだわからん。姿を見た者がいない」
ならば何故、とこの場にいる者が口に出さずと思っただろう。
それに答える様にスジンが続ける。
「紅華皇国の皇女が魔族によって拐かされた」
「紅華皇国の?」
何故紅華皇国の皇女を攫ったのか。
過去の人魔戦争の時にはなかった行動だった。
「あっ、もしかして……。すみません! なんでもないです!」
思い当たる節があるフィリアが声を上げたが、会議の中断をしてしまった、と申し訳なさそうに口を閉じ、俯く。
しかし、スジンはフィリアに続ける様に促したので、彼女は恐る恐る続ける。
「あの、聞いたことあります。紅華皇国の皇女様は未来を予知する力があるのだと」
未来予知。
鬼人には特殊能力をもつ者が多いと聞く。
その中でも皇族は真祖の最も純血であることから、特殊能力が群を抜いているという。
「その通りだ、フィリア。恐らく魔王復活にあたって、人魔戦争を見越した魔族が事前準備として攫ったと思われる。未来予知の他にも特定の条件下次第では人や物を探すことも可能らしいしな」
「それを魔王復活の兆しと捉えたのは我々だけはない」
口を開いたのはホウトクだ。
その表情は平時よりさらに険しい。
「この中で第五次人魔戦争を経験したのは俺、ホウトク、レンのみだ。この三人は戦争の悲惨さを知っている。特に、第五次は過去最高の死者が出た」
ホウトク、レンがスジンの言葉に頷く。
「それが何故だかわかるか、シスイ」
突然名指しされたシスイは、肩をはね上げ小さく答える。
「過去の人魔戦争では必ず生まれていた“氷竜”がいなかった、からです」
「そうだ。説明するまでもないが、この世界は二匹の神竜によって形作られたものだ。何の因果か、片割れの雷竜が魔王として誕生し、人族の国へと侵略を始めた。それに対抗したのが遅れて生まれた氷竜だった」
この世界スディナビアは神霊と二匹の神竜によって創られた。
生命が育まれ、人族が育った時、双竜はその永き命を終わらせたという。
雷竜が魔王として生まれ変わり、人族を襲うと、氷竜もまた生まれ変わり、魔王に対抗して戦うこととなる。
やがて、魔王が魔族を生み出し、軍勢を作ったため、氷竜が守る人族も戦うことになり、大規模な戦争となった。
これが第一次人魔戦争である。
第一次から第四次までは氷竜の生まれ変わりがいたが、第五次では生まれ変わりがいず、戦争は泥沼状態となり、十四年続いた。
戦争が長引いた事により、戦死者のみならず餓死者や飢餓による強盗により、死者は世界人口の五分の一までに及んだ。
「今回の人魔戦争でも、氷竜の力なければ魔王を倒すのは難しいだろう。しかし、現代の氷竜が未だに不明だ。俺はハクアがそうじゃないかと睨んでんだがなぁ」
スジンがハクアを見ると、他の五人の視線も自然とそこに集まる。
ハクアは無表情のまま、身動きをしない。
「だが、ハクアには氷竜の生まれ変わりとしての兆しが見えない」
氷竜が生まれ変わった人族は瞳に銀の模様が発現し、氷竜が意志をもって中にいることがわかるという。
しかし、現時点での最有力候補であるハクアにはその兆候が一切見られない。
このことから考えられることは、氷竜が生まれ変わっていないか、存在を確認できていないか、はたまた力の発現ができていないかである。
「魔王はまだ完全に復活したわけではないだろう。だが、それも時間の問題だ。よって、ルミッドガード王国は魔王軍との戦いに備える」
魔王軍との戦いは主に空白地帯といわれる、魔王領と人族国家の間にある荒野で行なわれる。
そこに派遣する軍と、自国を守る軍を編成し、戦争準備のための物資を用意する必要がある。
「それに加え、少人数による隊を作る。蒼玉騎士団団長ハクア、大聖治癒魔法士レオンハルト、そして……」
スジンが言葉を切り、そしてハクアの方へと一瞬だけ視線を向けた。
ハクアはその視線に嫌な予感がした。
そしてその予感はスジンが続けた言葉により、的中することとなる。
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