第26話 七騎士集合
クローディアとハクアは、森でレオンハルトを助けて王城に行った日の翌日から新しいクエストを受けてこなした。
それは時に王都内の探し物だったり、王都近くの川原で採れる薬草だったり、簡単な魔物退治だった。
クエストをこなし続けていたクローディアは、この世界に来た当初に比べれば体力がついたし、精神的にも大分慣れが生じてきていた。
もちろん走り回ったので、最初のうちは筋肉痛が酷かったし、宿に帰っても夕飯すら食べれずに、シャワーを浴びたら即ベッド行きということもあった。
そのような肉体的な疲れもあったが、成長した部分も多くあった。
召喚獣ブラウとの連携が上手くいくようになったし、新しく契約したハリネズミっぽい召喚獣にグレーと名付けて仲良くなることもできた。
グレーはとても小さく、掌に収まるくらいの大きさだったが、とても賢く、自分の体の大きさを利用して上手に攻撃をする。
そうやって自分よりも大きな魔物を撃退してくれる頼もしさがあった。
また、ブラウとの連携が上手くいくようになり、お互いへの信頼度が深まったことはかなり良かった。
これならば、前みたいにブラウが危険になりそうだとクローディアが不用意に飛び出すこともなくなるだろう。
ただ、一番初めの召喚獣ソールに関しては何ができるのか未だに不明である
ソールは一日の大半を寝て過ごしているし、起きていてもクローディアの肩上で御機嫌に鳴いているだけだ。
ハクアが言うには、まだ赤ん坊みたいなので何もできなくても仕方ない、ということだった。
たしかに赤ん坊にあれしろこれしろと言うのは無茶な注文であるといえる。
クローディアはソールについては見守るという形をとることに決めた。
そんな忙しくとも充実した日々を過ごす中、ついに事態が動きだす。
それは、色々なクエストをこなし始めてから数日経った頃だった。
いつものようにクエストの完了報告をギルドの受付で行ない、報酬を貰っていた時、ハクアの通信機が光り出す。
深緑の森でも使用していた小さな円盤型の通信機だ。
聞くところによると、小さな円盤に通信石と呼ばれる魔石が埋め込まれ、魔力を込めると遠く離れた者とも会話ができるのだという。
通信石の大きさによって通信できる範囲は限られており、ハクアの持っているサイズだと隣町までしか通信できないらしい。
ハクアが懐から通信機を取り出すと、男性の声が流れる。
『蒼騎士、応答お願いします』
「こちら蒼騎士、何か?」
『七騎士緊急召集がかかりました。召喚士クローディアと共に王城へと至急お越しください』
「了解」
「私も、ですか?」
通信機の声は少し離れた場所で待っていたクローディアにも聞こえていた。
七騎士緊急召集がかかり、そこにクローディアも呼ばれている。
何かあったのだろうか、とクローディアは不安になる。
「みたいだね、行こう」
何かが起こったのは違いない。
何が何だかわからないまま、クローディアはハクアと共に王城へと向かう。
前と同様に王城の通用口から入ると、そこには既に白地に金の紋様が入った金剛騎士が二人待っていた。
ハクアに気がつくと、二人の金剛騎士が敬礼をする。
「お待ちしておりました、蒼騎士は会議室へ。召喚士殿はこちらの者がお連れします」
「別々?」
「はい、召喚士殿は別室での待機との事です」
「わかりました。ハクアさん、えと、頑張ってください?」
この後何をするのかわからないので、何と声を掛ければいいのかわからなかったが、とりあえず応援をしておく。
応援が的外れでないことを願うばかりだ。
「……うん」
ハクアは金剛騎士に連れられ、会議室へ向かい、クローディアは別の金剛騎士に連れられて城内へと入っていった。
ハクアとは違う方向の廊下を進んで行く。
「召喚士殿はこの部屋でお待ちください」
金剛騎士に案内されたのは、一つの扉の前だった。
扉の両脇に白地に白金の刺繍がされた鎧を着た騎士が控えている。
彼らの右耳にはお揃いの耳飾りが揺れていた。
二人の騎士はクローディアたちがやってくると、扉をノックしてから開けてくれる。
中にいたのはレオンハルトだった。
「先日ぶりですね、クローディアさん」
「こ、こんにちは」
部屋に入ってすぐにレオンハルトがいると思っていなかったクローディアは、思わず硬直してしまいそうになった。
慌てて王族への敬礼をしようとするが、レオンハルトにやんわりと止められる。
「レオンハルト殿下はどうしてここに?」
「七騎士による決定が下されるまで待機するようにと陛下が命じられましたので」
「その、七騎士が何を話し合うのでしょうか?」
「慌てなくても直に分かると思います。私たちは知らせがくるまで待ちましょう」
微笑んだレオンハルトに座るように勧められ、クローディアはふかふかのソファに腰掛ける。
一体何が起こったのだろうか、と会議に向かったハクアを思うと同時に、どのくらい待つことになるのだろうか、と思うクローディアであった。
一方、金剛騎士に連れられ、クローディアとは別方向に進んでいたハクアはその途中で呼び止められる。
「……もしかしてハクアさん? お久しぶりです、今から向かうとこ、ですか?」
「うん、久しぶりシスイ」
ハクアを呼び止めたのは翠玉騎士団団長兼翠騎士のシスイである。
彼はハクアより一つ年上の二十五歳ではあるが、団長としての歴はハクアの方が長いため、ハクアに対して敬語である。
シスイは灰色がかった銀髪に、整っている部類の顔立ちだが、いつも自信がなさそうというか、自分に対しての評価が控えめである。
彼の深い翡翠色の瞳は、今は黒縁の眼鏡によってガラス一枚隔てた向こう側で揺れている。
「よかった本物だ。呼びかけたはいいけど間違ってたらどうしようって後悔しかけたんです」
合っていて良かった、とシスイが息をつく。
「似てる人多いし、間違っても仕方ないよ」
王城内には騎士がたくさんいる。
皆同じような格好をしているので、後ろ姿だけでは間違えてしまうのも仕方ないだろう。
そう思っての発言だったのだが、シスイはフルフルと首を横に振った。
「いいえ、ハクアさんを間違えたら俺もう駄目です、目が終わってます」
「大袈裟」
シスイの言葉にハクアは本気に受け止めずに冗談が過ぎるという風に肩を竦めた。
しかしシスイは、大袈裟じゃないんだけどな、と小さく零す。
同性のシスイから見ても、ハクアは美しい。
他の人と間違えるなんて目が終わっていると言われてもおかしくないのだ。
それぐらい、三百六十度どこから見ても死角がないほどに彼は美しい。
(見たことはないんだけど)
まぁ、本人に自覚がないのもそれはそれでいいのでその話は置いておくことにする。
「ハクアさんは今回の召集理由知ってますか」
「全然」
「俺もです。でも、黒・白騎士が既に王都に着いたそうなので、二人は早めに召集されてるってことですよね」
「だね」
黒騎士と白騎士は王都外に基地を持ち、基本的にそこを拠点にしているため、召集してもも王都へやってくるのに時間がかかるのである。
それが既に王都に入ったとなると、他の七騎士が召集されるより前に召集されていたことになる。
「それにしても、ここでハクアさんに会えて良かったです。だって今、会議室にはあの三人しかいないってことでしょ」
「うん」
黒と白がまだ王城には来ていなくて、蒼と翠がここにいる。
王城勤務をしている金と銀は既に会議室にいるだろう。
残る紅騎士も先に来て、両騎士と議題について話しているはずだ。
「あの年長組だけの中はほんとしんどくって」
「否定はできない」
七騎士の中での金銀紅騎士の歳が近く、黒騎士が離れていて、その下に白翠蒼騎士と年齢が続く。
金銀紅騎士は同期ということもあり、他人を弄る時の連携が秀逸だ。
三人が揃っていると主にハクアとシスイが餌食になっている。
「あぁ、着いてしまった、帰りたい」
雑談しながら進んでいたらいつの間にか会議室に着いていた。
シスイはもう既に帰りたそうに肩を落としている。
そんなシスイを知ってか知らずか、扉の前に控えていた金剛騎士が二人の到着報告をしてしまう。
「失礼します、蒼・翠両騎士をお連れしました」
案内してくれていた騎士が扉をノックし、開けてくれる。
礼を言って中に入ると予想していた通り、会議室には金銀紅騎士の三人が着席していた。
赤みがかった桃色の髪をもつ女性が、入ってきた二人を見て微笑む。
「あらー、いらっしゃいハクア、シスイ。やっと来たわね、この二人と話してても楽しくないのなんのって」
無邪気に笑いながら指をさす先には、金騎士スジンと銀騎士ホウトクがぐったりした様子で座っていた。
「う、お疲れ様です、レンさん」
「……お疲れ様です」
ハクアのお疲れ様は誰に向けられたものなのかわからない。
ただ、ぐったりしている二人にも向けたのは確かである。
紅騎士レンが手招きして、やって来た二人に着席するように促す。
ハクアとシスイはそれぞれ、自分の席に着席をする。
一番奥の議長席には金騎士が座り、後は奥から銀、紅、黒、蒼、白、翠騎士と席が決まっている。
これは功績に関係なく、着任の期間が長い順に席が決められていた。
「アオイもフィリアも今さっき王城に入ったみたいだから、もう少し待ちましょ」
レンが御機嫌に仕切り出す。
これから重大な話をするとはとても思えない機嫌の良さだ。
その機嫌の良さに何を思ったのか、ぐったりとしていたホウトクがレンに釘を刺す。
「レン、これは遊びではないぞ」
「あたしがいつ遊び気分になってるって?」
ホウトクの言葉に一転して鋭い表情に変わり、睨みつけるレン。
睨まれたホウトクは、小さく呻き声をあげた。
「レンもホウトクも落ち着け落ち着け! 今回の議題が重要なものであることは先刻承知であろう」
見兼ねたスジンの取り成しにより、レンの表情が緩む。
「そぉよ。これから重たい話するのに、今から重たい空気なんて、って思っただけ。お気楽に見えたのなら悪かったわねぇ」
「……そういうことなら。私も早合点した、すまん」
レンが謝罪したことにより、ホウトクも自らの早合点を謝罪しやすくなった。
これで険悪な雰囲気にならずに済んだ、と他三人がほっとすると扉がノックされる。
おそらく、残りの二人が着いたのだろう。
スジンが入れ、と声を掛けると騎士が扉を開ける。
「お待たせしました、皆さん」
「お、遅れてしまい、申し訳ございません!」
入室したのは二人の騎士。
一人は黒い鎧に身を包み、髪も眼も真っ黒な青年。
彼は穏やかな笑顔を浮かべ、お久しぶりです、と言う。
その彼の後ろからオドオドとした様子で入室したのは、白い鎧に身を包み、腰まである焦げ茶の髪の女性。
美しい薔薇色の瞳は、申し訳なさそうに細められている。
「なぁに、言うほど遅れてないわよぉ」
「あぁ。遠路はるばる御苦労! さぁ座れ、アオイ、フィリア」
アオイとフィリアは促され、それぞれの席に座る。
二人が着席し終えたのを確認すると、スジンが一つ咳払いをする。
これは空気の切り替えだ。
それがわかっているからこそ、七騎士の間に張り詰めるような空気が流れる。
「さて、久方振りに皆が集まり、近況話に花を咲かせたいところではあるが、今回集まったのは別にある」
皆がスジンの言葉に耳を傾け、先を待つ。
先に情報を聞いているはずのホウトクとレンでさえ、真剣な顔で続きを待っている。
皆の視線が集まっている中、スジンが口を開く。
「隣国の
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