第23話 鬱陶しいんだろう
金剛騎士団の詰所は王城外にある。
しかし、団長である金騎士の執務室だけは王城内にあった。
金騎士が国王直属の白金騎士団も管理、統括しているからである。
白金騎士団は王城の敷地内に詰所があり、必然とそれを管理、統括する者の執務室も王城内になるからだ。
国王から解放され、謁見の間から退出したハクアは迷うことなく王城内を進む。
例に漏れず、王城というものはかなり入り組んでいる。
それは敵勢力に襲撃されにくいように、といった理由からだ。
造りの似た廊下やドアにより、自分が今どこにいるかが認識しづらくなっている。
初めて王城を訪れる者は必ずといっていいほど迷子になるため、客人に案内役を付けるのは必須事項であった。
(で、ここを曲がる・・・・・・)
ハクアはかつて白金騎士団団員として王城勤務をしていたため、複雑な造りとなっている王城でも迷うことがない。
今後のことを頭に浮かべながらハクアは長い廊下を歩いていた。
王都を離れるとなると、色々と蒼玉騎士団に指示を出しておかなければいけない。
まぁ、ハクア自身が王都から離れることになっても、直に蒼玉の副騎士団長が戻ってくるので一任すればいい。
予定通りであれば明後日には戻ってくるはずだ。
彼には今後のこともあり、あらかた業務は引き継ぎできているし、そこまで手間は掛からないだろう。
補佐にはフィンもいるので騎士団が回らなくなるといった事態にはならない。
ハクアが一通りの方針を決め終える頃には金騎士の執務室に到着した。
(もう既に色んなとこに話が回ってたみたいだし)
ハクアはここに来るまで、何人もの金剛騎士や白金騎士と擦れ違い挨拶を交わしていた。
彼らには既にハクアの現状が伝わっているらしく、同情に近い激励をかけられている。
まったく、恐ろしい話の速さである。
ハクアは執務室の扉の脇に控える金剛騎士の敬礼を受けながら、数回ノックをして返事と共に扉を開ける。
中には見慣れた中老の男性が二人、話し合うようにして向かい合っていた。
「失礼します」
「おぉ、ちょうど来たな!」
ハクアが入室すると、厳格さが顔に出ている男性が笑いながら声をかけてきた。
彼がこの執務室の主、金騎士だ。
過去に幾多の魔族を葬り去り、魔殺しの英雄と讃えられた男である。
彼の脇には一振りの魔剣が立てかけられ、襲撃にいつでも対応できるように備えられている。
「災難だったなぁ、がっはっはっ!!」
豪快に笑い出した金騎士に対し、向かいに座っていた几帳面そうな男性が眉をひそめる。
「笑いごとではないだろう、スジン」
金騎士スジンを冷たく諌めたのは銀騎士ホウトクである。
彼は几帳面で、わりと豪快に物事を決めがちな金騎士スジンのストッパー役を担っている。
主に騎士団内の財政を担当している玻璃騎士団団長でもある。
「いや、わかってるんだが・・・・・・っ!」
ホウトクに諌められたのにも関わらず、笑いが止まらないのか、スジンは肩を震わせている。
ハクアはそんなスジンを無表情で見つめている。
とても話せる状態ではないスジンに、ホウトクは大きく溜息をついて、代わりに話すことにする。
「・・・・・・ハクア。レオンハルト殿下の巡礼護衛及び召喚士護衛の兼任が受理された」
「・・・・・・でしょうね」
ハクアは特に驚くこともなく、ホウトクの言葉を受け取った。
国王の思いつきが受理されない理由がなかった。
召喚士の成長に関しても王都周辺だけでは限度があり、いずれ大陸を旅する必要があったのだ。
それに決められたルートと第一王子レオンハルトの護衛が組み込まれただけ、ともいえる。
「白羽の矢が立ったな! すまん、ハクア!」
「……」
笑ってるのか謝ってるのか同情してるのかよくわからない言葉をかけてくるスジン。
元々、レオンハルトの護衛には金剛騎士団副騎士団長が任命されていた。
しかし、護衛に任命された金剛の副騎士団長ライアーは、先の襲撃で戦死している。
片腕ともいえるライアーの死に、団長であるスジンには負荷が大きくかかっていた。
それをよく理解してるからこそ、ハクアは白羽の矢が立ったとしても、恨み言を言う気はなかった。
ハクアの意図を察しているホウトクは、さっさと話を進めていく。
「受理されたとしても、スケジュール調整、他の護衛の選抜、レオンハルト殿下の体調調整などに時間がかかる。出発には時間がかかろう。準備が粗方整い次第お前に連絡する。それまでは召喚士の成長を優先して構わん」
「わかりました、それではこれで」
ホウトクに対しお辞儀をすると、ハクアは彼らに背を向けて真っ直ぐに執務室の扉まで向かう。
それを見たスジンが後ろからつまらないと言わんばかりの声をあげた。
「なんだぁハクア、もう行くのか」
「はい」
「つれない奴だなぁ! まぁ、いい。気をつけろよ!」
スジンは、ハクアの淡々とした態度にも慣れた様子で言葉を返した。
ハクアのつれない態度はいつものことである。
「・・・・・・スジンさんも体に気をつけて」
ハクアはチラリと顔だけ後ろに振り返り、小さい声で言葉をかけるとサッと出て行った。
執務室に残った二人は、ハクアの態度に各々の反応する。
「アイツはホント素直じゃねぇなぁ!」
「お前が鬱陶しいんだろう。・・・・・・それより、殿下の護衛は他にどうする。さすがにハクアだけでは手が回らない時もあろう」
さらっとスジンを貶し、話を護衛の件に戻すホウトク。
ハクアが入室する前に話し合っていたことだ。
「おいおいコラ、さりげなく貶すんじゃねぇ」
「事実だ」
スジンの抗議をズバッと切り捨て、ホウトクがスジンを促す。
スジンは渋々だが、その話を置いておくことにして答える。
「・・・・・・他の護衛については俺に考えがある。っても、俺の勘が当たってれば、だがな」
スジンがトントンと机を指で叩き、口角を上げた。
しかし、ホウトクには思い当たる節がない。
「・・・・・・? どういうことだ」
「あと数日しないうちに使者が来たら全てわかるさ」
「・・・・・・魔王領付近に偵察に出した部隊か?」
つい先日、玻璃騎士団から魔王領へと定期偵察を出した。
その部隊が直に帰ってくる手筈だった。
スジンはそのことを指したのかと思ったのだが、ニヤリと笑った顔から察するに、そうではないらしい。
「それかもしれないし、違うかもしれねぇ。来てのお楽しみさ、まぁ待て」
「・・・・・・わかった、お前にこの件は一任する」
スジンがこの手のことで曖昧に答えることはよくあることだ、とホウトクは追及を諦めて席を立つ。
この件についてはスジンに一任して良さそうなので、さっさと退室することにする。
次々とやって来る書類仕事をこなさなくてはならないので、自身の執務室に戻るのだ。
ホウトクは執務室のドアノブに手を掛け、そしてゆっくりと振り返る。
「ところで」
ホウトクの視線の先には、執務机の影から雪崩落ちる書類の一部がある。
「仕事は溜めるな」
パタリと扉が閉まるのとスジンが執務机に崩れ落ちるのはほぼ同時であった。
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