第22話 ルミッドガード王国国王
「よくぞ無事であったな、レオンハルト」
謁見の間に入って正面にある玉座に、精悍な顔立ちの男性が座っていた。
彼こそがこの国の国王であった。
国王はシドルによって連れてこられた第一王子、つまり自分の息子を目にした瞬間、立ち上がらんばかりに歓迎した。
その表情は嬉しさと安堵と喜び、様々な感情が入り混じっている。
「御心配をお掛けしました、父上」
レオンハルトは眉を下げて謝った後、深々と礼をした。
国王は謝らなくてもいいと言ってから安堵の息を深くついた。
「あぁ、お前を守ってくれた護衛騎士たちには感謝してもしきれない。遺族への感謝と補償をしっかりと行わせよう」
「その遺族の方々に面会する時間を作らせて頂いてもよろしいですか」
レオンハルトの申し出に、国王は問いかける。
「それは構わないが、どうするのだ」
「彼らの勇姿、最期の言葉を私からお伝えしたいのです。そして、彼らに救われた命を無駄にはしない、とお伝えしたくて」
レオンハルトの真摯な言葉に、国王も短い考慮の後、鷹揚に頷いた。
「わかった、手配させよう」
「ありがとうございます」
レオンハルトとの再会の挨拶を交わした国王は、謁見の間に入ってすぐ、片膝をつき、右手を心臓に当ててお辞儀をする最敬礼を行なっていた二人に視線を移す。
「面を上げよ。ハクア、そして召喚士。レオンハルトを見つけ、保護してくれたこと、感謝する」
国王の許しが出たため、最敬礼を止めて、顔を上げたクローディアとハクア。
クローディアは謁見の間に入る前、ハクアに教えて貰った最敬礼がなんとか形になっていたことに安堵していた。
「はい」
「は、はい!」
「二人にも後日褒美を与えさせよう」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
淡々と言葉を返すハクアに対し、クローディアは若干声が震え、舌を噛みそうになって冷や汗がでまくっている。
「疲れていよう、レオンハルトと召喚士は退出してくれて構わない。ハクア、お前には森でのことを報告してもらう、残れ」
「はい」
「では、失礼します父上。クローディアさんも、行きましょう」
「は、はい! ・・・・・・失礼します」
レオンハルトに促され、謁見の間を退出するクローディア。
二人が退出し、謁見の間の扉がしっかりと閉まってから、国王が口を開く。
「上手くできていたか、ハクア」
「・・・・・・はい」
「あー、ほんと疲れる、国王モード」
先程の威厳はどこやら、一気に体の力が抜けた体勢になった国王を、ハクアは無表情で見つめる。
「・・・・・・」
「あ、その早く解放してくれないかなこの人、っていう顔やめて」
シュンと項垂れる国王に、ハクアは淡々と報告を始める。
深緑の森にて採集クエストを行ない、その際に魔物と魔族に遭遇。
二週間前に襲撃した魔族が、今も森に残っていることから、安否が確認されていないレオンハルト殿下を探しているのではないかと推測。
金騎士に報告後、召喚士の力を借りてレオンハルト殿下の発見、保護。
その後、魔族二体と十数体の魔族に包囲され、撃破したのち、森を抜けて王都に戻ってきた。
「なるほど。お前が持っていたレオンハルトのハンカチは、随分前に渡された物だったし、匂いから見つけるのは獣人でも不可能だった」
「・・・・・・そうでしたね」
クローディアがやって来る前に、騎士団に所属する獣人に、レオンハルトの捜索を行わせていた。
しかし、獣より人間の方に進化した一族では、森の広さや発覚から一週間経っていた現場から匂いを辿ることはできなかった。
「やはり、召喚獣の能力は桁が違う、ということか」
国王は先程の頼りなさげな召喚士の姿を思い浮かべていた。
異世界人の女性と聞いてはいたが、あまりにもこの世界に馴染みすぎていると感じた。
まるで最初からこの世界に生まれた人間のような。
「・・・・・・魔族を率いていたという存在は確認できませんでした。相手の姿を見たのはレオンハルト殿下のみですので、捜索をかけるのも難しいでしょう」
「一応、特徴を描かせたものを手配させるが、見つけるのは難しいだろうな」
「それに、並の騎士では太刀打ちできないでしょう」
事実、その存在に七つの騎士団の中でもトップクラスの金剛騎士団副団長が敗れている。
そして、護衛にと選りすぐった白金騎士団団員たちも全滅したのだ。
各騎士団副団長レベルではレオンハルトを護りきることすら危ういだろう。
そのことは国王でさえ、百も承知であった。
「それこそ、七騎士に向かわせることになろう。というか、レオンハルトの巡礼はどうすればいいんだ! 折角、私がピンピンしてる内に即位準備進めておこうと思ったのに! 金剛の副騎士団長や精鋭を葬る奴がうろちょろしてる大陸中を回るなんてできるかボケェェ!!」
苛立ちを発散するように、国王が綺麗にセットされた髪を両手で掻き乱す。
もはや、謁見の間に入ってきた時とは別人の姿である。
「・・・・・・」
ハクアはやれやれと言った感じではあるが、口を挟むことはしない。
面倒なことになるのは百も承知だからである。
「あー、でも、各国に訪問の知らせは出しちゃったし、巡礼やんないと即位させらんないし・・・・・・! 護衛には七騎士レベルを一人付けないとヤバいやつじゃん、でもなぁ、金、銀騎士は動かせないし・・・・・・。紅騎士だとうちの子が危険だし、白、黒騎士は王都にいないし、翠騎士は真っ先に逃げそうだし」
国王がブツブツと言い始めた時点で、面倒なことになることを察したハクアは、逃げ出すことを決める。
「報告終わったので、失礼します」
そそくさとその場から去ろうとしたが、目をカッと開いた国王によって、呼び止められる。
「いるじゃないか、強くて安全な蒼騎士が!!」
国王が蒼騎士を呼んだ時点で、ハクアに逃げるという選択肢はなくなる。
頭が狂ったようにブツブツ言った挙句、蒼騎士を大声で呼んだとしても、国王なのだ。
国王に呼ばれて、応えずに退出など有り得ない。
「私には召喚士を護る任務があります」
ハクアが抵抗を試みたが、無意味なことは十分理解していた。
国王が次に言う言葉など予想することは容易い。
「召喚士も共に連れて行けばよかろう! 各国を回ることは異世界人の召喚士にも良い刺激になるしな!」
よし決めた、と国王が控えていたシドルを呼び寄せ、金騎士に決定事項を伝えることを指示する。
一部始終を聞いていたシドルはお辞儀を一つすると、素早く謁見の間を退出した。
これで数分後には、金騎士に伝えられ、受理された後にハクアに指示が出るだろう。
(別に、旅するのはいいけど・・・・・・)
今後の事を考え、国王にバレないように、小さく溜め息をつく。
同僚や部下でもない女性と長期間旅することは初めてだった。
「諸々の連絡はもう少し後になるだろうし、もう退出していいぞ、ハクア」
目下の悩み事を解決した国王は、晴々とした顔でハクアに退出を許す。
「・・・・・・ありがとうございます」
許しがでたので、ハクアはさっさと謁見の間を後にする。
これ以上この場に留まって、他のことまで押し付けられたら面倒なことになるからだ。
謁見の間を出た後、直ぐにお呼びがかかることを予想し、ハクアは金騎士の執務室へと向かった。
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