第18話 尊き人
どうやら、自分たちの探し人はこの人のようだ、とクローディアは察し、なるべく目立たないように気配を消す。
なぜなら、探し人を見つけたとはいえ、クローディアはほとんど部外者だからだ。
(思いっきり先住人かと思っちゃってた・・・・・・!)
加えて、恥ずかしさ故にいたたまれない状態なのである。
あの後、声を聞く限りでは男性である美少年の前に跪いたハクアは、彼の体調を診ている。
美少年はそれに抗うことなく、ニコニコと微笑んで受け入れている。
襲撃があった時から目撃されていないということは、二週間この森にいたことになる。
その間でなにかしら体調不良に陥っている可能性を診ているのだろう。
それほど時間はかからず、確認は終わった。
「大丈夫です、特に問題はないかと」
「それはよかったです。きっと、彼らが守ってくれたからでしょうね。ありがとう」
美少年は傍らで見守っていた動物たちに笑顔で御礼を言った。
動物たちは嬉しそうに鳴き声をあげ、美少年の手に擦り寄る。
「積もる話はありますが、一刻も早く王都に帰還を」
「わかりました。お前たち、元気で」
美少年は順に動物たちを撫で、短い別れの挨拶をした。
その間もハクアは周囲を警戒し、剣の柄に手を添えている。
挨拶をし終わった美少年が、少し離れた場所で一連の流れを傍観していたクローディアに近づく。
「初めまして」
「は、はい。クローディアです、よろしくお願いします」
「クローディアさん、よろしくお願いします」
間近で見るとつくづく天使級の可愛さだと実感させられる。
そしてなにより、自然と従いたくなるその存在感にクローディアはやや圧倒されていた。
「それにしても、よく見つけてくれましたね」
「・・・・・・彼女は召喚士です。彼女の召喚獣に辿ってもらいました」
ハクアに紹介されたクローディアが、ブラウは、と探すも、既に姿を消していた。
「・・・・・・なるほど。では異世界の方でしょうか?」
「!?」
少しの驚きの後、レオンハルトがすんなりと導き出した答えに、今度はクローディアが驚く番だった。
召喚士というだけで異世界人だと言い当てたのだ。
「驚くほどのことではありません。各国の召喚士六人は全て把握していますし、それに該当しない召喚士。かつ、私のことを知らない方は異世界人以外ほぼありえませんから」
その他にも人間であることや、ハクアが護衛に付いていること、この二週間の間に新しく召喚士が現れたことも考慮していると付け足した。
「えー、っと・・・・・・」
つまり、彼はやんごとなき立場の方である。
しかも広く周知されているかなりの地位の。
そして、世界に散らばっているらしい召喚士や、新たに現れる召喚士の素質をもつ者を把握している。
戸惑うクローディアがハクアをチラりと見ると、彼は無表情で空を見つめていた。
そんな彼を知ってか知らずか、美少年は優雅な動作で胸に手を当てる。
「申し遅れました。私はルミッドガード王国次期国王レオンハルト・ディオン・フローライトと申します。貴女とは良好な関係を築きたいものです」
完璧な笑顔で自己紹介をした天使のような美少年は、この国の次期国王であられた。
それなら、今までのハクアの態度に納得がいく。
細かく体調を気にしたこと、生死によって大きく動く国、そしてなにより、ハクアの従順な態度。
(あのハクアさんがきちんと他人の体調管理をしているんだもん)
他人に対してかなりマイペースな態度を見せるハクアだ。
細かく他人のことを気にしている姿は初めて見た。
それに、ハクアがクローディアに探し人について情報をくれなかったのは、探す責任をクローディアに負わせないためだったとわかった。
もしハクアがクローディアに探し人は次期国王です、王国のトップを見つけて下さい、なんて教えていたらその重圧に潰されてしまっていたかもしれない。
実際は無事に見つかったが、知っていた上で無事ではなかった、または見つけられなかったら責任を感じてしまっていたかもしれない。
クローディアはハクアの心遣いに感謝した。
だが、本人に直接言うのはここを抜けて無事に王都に戻ってからだ。
「よろしく、お願いします」
この人を無事に王都に送り届ける。
その重圧を感じ、震えそうになる腕をバレないように手で抑える。
しかし、真正面に立つレオンハルトには隠しきれなかった。
彼はクローディアを安心させるかのように微笑む。
「大丈夫です、ハクアがいますから」
「は、い・・・・・・」
レオンハルトがなんのこともなくそう言うので、本当に大丈夫だと思えた。
(そうだ、ハクアさんがいる。私一人じゃない)
そう認識できたことがどれほどの安堵を生むか、頼りにされた本人はわからないだろう。
「・・・・・・では、森を抜けましょう殿下」
「そうですね。彼らと森で過ごすのも楽しかったですが、私にはやらねばならぬこともありますから」
レオンハルトの表情は本当にそう思っている人のものだった。
王族という高貴な身分であるのに、森で住むことへの苦痛や不便を気にしていないのだろうか。
クローディアは変わった人なのかもしれない、と感想を抱いた。
「クローディアさんも。行こう」
「は」
い、と続くはずの声は甲高い叫び声によって遮られた。
声のする方にはよく分からない虫と虫が融合したような異形の者、魔族がいた。
それも二体。
「あれは・・・・・・、私を襲撃した魔族ですね。気配を完全に遮断する類の能力を持っているみたいでした」
「・・・・・・どうりで」
二体の魔族の出現により、四足歩行の魔物が十数体がクローディアたちの周りを囲うように姿を現した。
気配遮断を持っている魔族によって、気配を隠し、クローディアたちを囲んでいたのだ。
「・・・・・・!!」
多い。
加えて囲まれているため、迂闊に動くとあっという間に取り囲まれ、嬲り殺されるは目に見えている。
(レオンハルト殿下は戦えるようには見えない。そして私も、今はブラウがいないから下手に動けない)
召喚獣のいないクローディアは完全な無力であるし、召喚しようと下手に動けばハクアの負担が大きくなるだけだ。
どうすればいいのか、不安と焦りで頭が埋め尽くされていく。
どうしたらいいのか、そればかりがクローディアの頭を覆い尽くしていく。
「クローディアさん、大丈夫ですよ」
「あ・・・・・・」
声を掛けられ、クローディアがレオンハルトを見ると、彼は一切の危機を感じさせず、微笑んでいた。
その表情にクローディアは力の入りすぎていた肩から幾ばくかの力が抜けるのを感じた。
「殿下」
「はい」
「護衛騎士を手にかけたのはアレですか」
その問いに、レオンハルトは即答はせず、視線を落とした。
が、やがて魔族に視線を向け、返答をする。
「・・・・・・護衛の騎士たちは、魔族に嬲り殺されました」
「・・・・・・」
「皆、私を逃がそうと命を懸けて戦ってくれました」
レオンハルトの脳裏には、その時のことが昨日のように甦っていた。
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