第14話 Dランククエスト
白火の断罪に着いたのは、防具屋を出てから三十分程度経ってからだった。
時間がかかったのは、一度宿屋に寄ってクローディアが買った物を置いてきたからである。
二人はいつものように正面から入り、受付へと向かう。
受付にイマリがいるのを見つけ、そちらに進んだ。
「こんにちは。・・・・・・元気がなさそうですが、大丈夫ですか?」
防具屋の前でした話のこともあり、二人の間の空気はどことなく沈んだものになっていた。
それをイマリはなにかあったのかと指摘したのだ。
「え、あ、大丈夫です。もうお昼だし、お腹減ったなーって思ってただけで」
「ご飯、食べてないんですか?」
「・・・・・・少しバタバタしてて」
勿論、これはイマリに心配させまいとした嘘だ。
昼食を食べていないのは本当だが、防具屋での件もあり、別段空腹は感じていない。
「蒼騎士。これから王都の外に行かれるのなら、その前に軽食をとってくださいね」
「・・・・・・わかった」
そうとも知らないイマリが、黙っていたハクアに注意した。
王都の外には魔族や魔物が存在する。
戦闘になった場合に力が出なかったら危険だと言いたいのだろう。
ハクアもそれがわかっていたから素直に頷いたのである。
(なんだか、ご飯を催促したみたいになってしまった)
クローディアは二人に申し訳なさを感じたが、二人はすでに切り替えていて、受けるクエストを吟味していた。
「王都の外に行けるクエストの中で、比較的に簡単なものを選んでみました。クローディアさんはEランククエストを規定数こなして下さったので、一つ上のDランククエストを受けれるようになっています」
イマリがカウンターの上に並べたのは、数枚の依頼書。
右上にクエストランクが表記され、該当場所、目的などの詳細が以下に記載されている。
クローディアは字が読めないため、ハクアがクエストを選ぶことになる。
読み上げてもらえば内容はわかるのだが、聞いてもクローディアには選べないので、経験の多いであろうハクアにクエスト選びは任せている。
「・・・・・・この森の西は比較的安全なはず。最近魔族や魔物がここら辺に出たという情報とかはある?」
「そちらですか。いえ、西の方で最近目撃情報はありませんね。森は例の事件がありましたが、そちらは東なので」
「じゃあ、このクエストで」
「わかりました、受注手続きします」
イマリが手元の書類に手早く記入し、後ろにいた事務員に回す。
これであとは事務員が事務処理をしてくれる。
「では、これがクエストの詳細です」
イマリに手渡された書類にはこの世界の言語がびっしりと書き込まれている。
右上のDという文字だけはクローディアにも読めた。
だが他は読めないので、ハクアに説明してもらうことになる。
「今回のクエストは王都東にある、森の入口付近に群生する薬草の採集。王都外だけど、魔族はほとんどいないし、いたとしてもかなり低位の魔物だから、ブラウでも倒せると思う」
クローディアが初めてこの世界に来た日、襲ってきた異形の存在。
この世界には魔族と呼ばれる人族の明確な敵が存在していた。
人族の何倍もの身体能力をもつ魔族。
彼らは人族を襲い、殺戮する。
魔族のほとんどが人語を話すことができないが、高い知能を持ち、魔法を使用することもある。
この魔族の中にも区分があり、知能の低い魔族を魔物と呼称するのだという。
魔族の数は多くはないが、魔物の数は膨大で、魔王領だけではなく、人族の国々に多く生息している。
なので、何処に行くにも魔族や魔物との戦闘を覚悟しなければならないのだとか。
クローディアは魔族についての説明を受け、心を乱さないように努める。
「が、がんばります」
「キュー!」
クローディアの意気込みを真似て、ソールが同じように鳴く。
「うん」
「それでは、クエストの成功をお祈りしています」
「はい、ありがとうございます。行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
イマリに別れを告げ、二人はギルドを出る。
歩く途中で出店に寄って簡単な軽食を買い、手早く昼食をすませた。
パンに挟まれたベーコンとレタスが良い塩梅になっていた。
腹を満たしているうちに、二人の間にあった沈んだ空気はいつの間にかなくなっていた。
向かうは外に出る東門だ。
王都には東西北に出入りする大門があり、魔族が入り込まないように厳しく検問を行なう。
クローディアはどの時か、王都には結界があると聞いていたので、そのことについて尋ねてみる。
するとハクアは、王都の上を覆うように結界が張られていることを教えてくれる。
結界とは、特殊な訓練を積んだ専門者のみが扱える最上級魔法であり、魔族の侵入を阻み、侵入した魔族の力を大幅に低下させるという。
「特殊な訓練を積み、結界士という才能を開花させられる者は少ない。現在、ルミッドガード王国の結界士は百人程度」
百人では王都に結界を張るのが精一杯で、王国内の他の村や街では、簡易結界や駐屯団、現地の人による義兵団で護りを行なっている。
「魔王領は大陸の最西にある。ルミッドガード王国は中央西寄りだから魔族による被害が多い。ついでだからこの世界のこと説明するよ」
ここからは、ハクアが語るスディナビアの話である。
この世界スディナビアには二匹の神竜がいた。
氷竜と雷竜である。
二匹は大地を盛り起こし、緑豊かに彩り、あらゆる生命を育んだ。
生命が朗らかに育つ様を見届けた二匹の神竜は、眠るようにその生命を終える。
神竜の死後、生命が枝分かれ、人の形を成す者が生まれ、やがて七つの種族が大陸を住み分けるようになる。
人間、獣人、鬼人、巨人、魚人、エルフ、ドワーフ。
この七つの種族は神々の使いである精霊とも同調し、その力を行使することができた。
いつの日か大陸の最西、雷竜の眠る地より魔の力を持つ種族が生まれ出る。
この魔族は自らの王を擁し、七つの種族を殺し、大陸を侵略した。
七つの種族はそれぞれ魔族を撃退するも、魔王には勝つこと叶わず、滅亡が予期された。
その時、氷竜の力を持つ者が現れ、魔王を打倒し、ついに聖火神と共に討ち果たした。
魔王を討ち倒したことにより、魔族の勢いは削がれ、七つの種族はその後も繁栄を続けたという。
「というように、このルミッドガード王国もある大陸が“ドラシグール”。七つの種族の国、魔王領も同じ大陸にある」
「全ての国が陸続きなんですか!?」
「うん」
クローディアが驚くのも無理はなかった。
前の世界では、大陸がいくつかあり、それによって国が数多く存在していた。
しかも、彼女が住んでいた国は島国で他国との関わり少なく文明を築いてきた。
尚且つそのおかげで、他国との衝突が少なく比較的平和であったのだ。
「前の世界では、国が百を越えていたんです。この世界の国は七つですか?」
「百カ国以上あるのは凄いね。そう、スディナビアは七ヶ国が正式な国の数。自治国と名乗る正式ではない小さな土地もあるけど。あと、魔王領を国と数えるならまた別」
ハクアもまた、彼女の前の世界に存在した国数に驚きを示した。
もしかしたら、前の世界が異常な国数で、この世界のように数国という方が普通なのではないかと思ってしまう。
「・・・・・・この世界の地図を見てみたくなりました」
「なら今日見せるよ。騎士団基地にあるし」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
どんな形であれ異世界にきたのだから、クローディアは自分が今いる世界のことを知りたいと思う。
「うん。フィンも心配してたから、ついでに顔見せてあげて」
「はい、もちろんです」
そうこうと朗らかに会話してるうちに、二人は東門に着いた。
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