第13話 買い物と防具屋

 


 それから、クローディアはハクアに案内されて、雑貨屋で日用品を買い込む。

 宿屋に設置されている必要最低限のものは自由に使用可能なので、それ以外の物を買うことにした。

 化粧水などのケア用品、髪ゴムなどの雑貨品を購入した。

 ちなみに購入した荷物は、ハクアが持ってくれた。

 クローディアは何度か自分で持てると丁寧に断ったのだが、手持ち無沙汰になるから、とハクアに主張されてしまった。

 最終的にはクローディアが折れる形で、ハクアに購入した雑貨を持ってもらうことになった。

 雑貨品の次は服だ。

 ハクアには店の外で待ってもらい、手早く肌着や衣服などを購入してしまう。

 さすがにこれは、ハクアに持ってもらうのは恥ずかしいので、クローディアが自分で持つことにする。

 そして最後は防具屋である。

 クローディアが今着てる服は一般市民が着るような、防御力などを一切考慮していないもので、これから王都外に出るには少し心もとないとのこと。

 もちろん、いきなり高位魔族や魔物と遭遇するとは思えないが、王都近くの森や平原には低位魔物が出るので、備えておくに越したことはないそうだ。

 ハクアの知り合いがやっているという防具屋に案内してもらい、中に入るとそこそこ人が入っていた。

 防具屋には様々な職業の防具が揃っており、ここなら召喚士の防具もあるのではないかということだった。

 入店してきた二人の客に、カウンターで頬杖ついていた男性が視線を向けた。


「おう、らっしゃい。・・・・・・なんだい、ハク坊じゃねーか」

「こんにちは、ボードンさん」

「おめーが女の子連れてくんなんて珍しいな」


 ハクアの隣にいたクローディアへと目をやるボードンに、ハクアは簡潔に答える。


「一応、仕事」

「あぁ、なるほどな。で、そこのお嬢さんの職業は?」


 仕事ということで、なんの用事で来たのかを理解したボードンは、必要な商品を用意するために尋ねた。


「召喚士」

「ほぉ? 召喚士とは珍しい」

「はじめまして・・・・・・」


 召喚士と聞くやいなや、ボードンと呼ばれた店主らしい男性は、クローディアの下から上まで見てくる。


(な、なんだろ・・・・・・)


 見られていることにドキマギしつつも、防具のサイズを確認してるだけかもしれない、と隠れずに視線を受け止める。

 やがて、カウンターの奥に行ってから戻ってきたボードンの手には、何着かの服があった。


「知ってるだろうが、召喚士は希少でな。王都でも防具を扱ってるのはウチぐらいなもんだぜ。ほら、好きなの選びな」


 ボードンがカウンターに並べたのは三着の服。

 服の他にセットでブーツや手袋などがついている。


「あの、これ、全部女性用に見えるんですけど・・・・・・」


 用意された服はどれも可愛らしい感じである。

 召喚士が女性だけとは聞いていないので、男女別で服があるのだろうか。


「ん、ああ。女性用の服しか持ってきてないぞ。男性用の服だと、お嬢さんには重すぎるからな」


 ちなみに、サイズはフリーサイズらしく、極端な体型でなければそのまま着れるそうだ。

 早速クローディアは三着のうちの一つを手に取り、体に当ててみる。


「こ、これ・・・・・・!!」


 一着目はワンピースタイプの服だ。

 可愛らしい刺繍が左胸の所にあり、小洒落た感じがする。

 それはいいのだが、如何せん丈が短い。

 そう、クローディアの体に当ててみると、膝上までしかスカートの生地がないのだ。

 走ったり、しゃがんだりと、なにかしら動きの激しい冒険者なのに、これほど短いと色々と心配になってしまう。

 というか、普通に脚を出したくないこの気持ちを理解して欲しい。

 クローディアは一着目をそっとカウンターに戻し、二着目と三着目に視線を移す。

 それらはショートパンツ、ミニスカートと脚を出すものだ。


「こ、この世界は脚を出す文化があるの・・・・・・?」

「なんだぁ? 女性冒険者は脚を出して動きやすくするもんだろ?」


 クローディアが思わず零した絶望にも似た言葉をボードンは聞き逃さかった。


「え、でも、露出部分の防御面は大丈夫なんですか?」

「防具を一式セットで着ると体中に防御の膜がはられるもんだぜ?」

「そ、そうなんですか?」

「おう。だから肌が露出してても、その部分は一定の防御膜が覆ってるから、怪我なんかしないもんだ」


 ただの虫による刺されや、草などの切り傷はこれを着ることで防げるらしい。

 それなら機能面ではまったくの問題は無いだろう。


(機能面での心配はないことはわかったけど、脚を出すのは抵抗があるなぁ・・・・・・)


 前の世界ではこんなに脚を露出した服を着たことはなかった。

 抵抗はあるが、郷に入っては郷に従え、だ。

 これは我慢するしかないだろう。

 だがせめて、スカートではなくショートパンツを選ぶ。

 早速着て行っていいとのことなので、試着も兼ねて着替えさせてもらうことになる。

 店内の試着ブースに入ったクローディアは、召喚士の防具セットを身につけていく。

 トップスは白いブラウスの襟に花のような刺繍が施され、その上から濃いめブラウンのショートジャケットを羽織る。

 ショートパンツは裾の部分がゆったりしていて、全体的にキャラメル色。

 腰周りには同色のベルトが付いている。

 そして最後に踵の低い黒のショートブーツを履く。


(丈の短さが物凄く気になるけど、脚のラインがくっきり出るほどぴっちりじゃないし、慣れればなんとか・・・・・・)


 クローディアは召喚士セットを全て着た後、試着室内の全身が映る鏡で自分の姿を確認した。

 丈の短さ以外は大丈夫だ。

 試着室の外で待つハクアにも確認してもらうためにカーテンを開ける。

 カーテンを開けた瞬間に、クローディアは意識していなかった感情に気づく。

 クローディアは今まで試着して相手に見せることなんてなかったので、それを意識した瞬間にやや恥ずかしい気持ちが湧き上がったのだ。


「おお、いいんじゃねぇか! サイズも大丈夫そうだな!」


 それを知ってか知らずか、ボードンはクローディアの姿を見ると、朗らかに感想を言う。

 そして、店内を見て回っていたハクアを呼んだ。

 ボードンに呼ばれて戻ってきたハクアは、クローディアの姿を見ると、感想を言ってくれた。


「似合ってる、と思う。ごめん、そういうのよくわからないんだけど、変ではないと思う」


「へ、変じゃないならよかったです」


 自分ではショートパンツ姿に違和感しかなかったのだが、一緒に歩くことの多いハクアが変ではないと言うのなら今はそれでいいだろう。

 ほっと胸をなで下ろしたクローディアはお会計を、とボードンに向き直る。

 実は日用品と衣服を購入したので、そこまで潤沢に手持ちがある訳ではなく、内心少し焦りがあった。


(防具はそんなに安価ではないだろうし、手持ちが足らなかったらまた今度か、支払いを分割・・・・・・とかできるのかな)


 なにはともあれ、価格を聞かないことにはどうしようもない。

 そう考えてボードンに価格を聞こうと思ったのだが、それを察したボードンが言う。


「代金ならハクアから貰ってるぜ。召喚士の防具は扶助対象だってよ」

「え? ハクアさん」

「うん、だから払わなくていいよ」

「そういうこった。貰えるもんは貰っとけ! どうせその分働かされるんだしな。で、これと同じものを数着用意すればいいんだな、ハクア」

「うん」

「おうよ。じゃあな、お二人さん。仕事頑張れよ!」

「え、あ。お世話になりました」


 ボードンに退店を促され、流されるままハクアと共に店を出たクローディア。

 先程の二人の会話を順に思い出し、声を上げる。


「ハクアさん、同じものを数着って・・・・・・!」

「? それ一着じゃ不便があるだろうから、あと二、三着作ってもらうことにした。後日宿屋に届くよ」

「ま、まさか、それも扶助対象ですか?」

「うん」

「それは、さすがにそこまで御迷惑をかけるわけには・・・・・・!」


 クローディアの言い分が理解できない、というようにハクアは首を傾げる。

 やがて、一つの結論に辿り着き、彼女の態度に納得がいく。


「なるほど、そういうことか」

「?」


 そういうこと、とはどういうことだろうか。

 クローディアはハクアの言葉を待つ。


「クローディアさん、これに関しては遠慮しなくていい」

「・・・・・・え?」

「国が召喚士を保護対象にするのは、ただ希少だからってわけじゃない」


 あまりにも淡々としたハクアの言い方に、クローディアは彼を見つめる。


「それは、どういう・・・・・・」

「・・・・・・俺にもまだわからない。けど、国は召喚士を必要としている。手厚く保護したいくらい」


 召喚士を必要としている。

 それは前に彼が説明してくれた、精霊と人を繋ぐ存在としてだけではないだろう。

 ハクアはまだ他に必要とされる理由があるのだと、そう言っているのだ。


「だから、国からの扶助は貰えるだけ貰った方がいい」

「わかり、ました・・・・・・」


 クローディアは、ハクアの主張にぎこちなく頷く。

 ハクアは国が召喚士に対して過保護になるのは、重要な何かと関わりがあるからだと言う。

 それはきっと、この世界の人間ではないクローディアには避けようのないこと。

 だから、その分貰えるものは貰っておけと教えてくれているのだ。


「・・・・・・それじゃ、早速ギルドに行こう」

「・・・・・・はい」


 召喚士が国のために何かしなければならない時がくるかもしれない。

 それがなにかはわからないけれど、今はやるべきことをやるしかないことは、クローディアにも理解出来た。

 クローディアはハクアの言う通り、クエストを受注しに、白火の断罪へと向かうのだった。



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