第11話 召喚魔法と精霊魔法

 

「・・・・・・そ、そういえば、魔法と召喚って使う力は全然違うんですか?」


 このまま恥ずかしさを感じさせられたまま、彼と過ごすのは心臓に悪い。

 そう思ったクローディアは、疑問に思っていたことを頭から引き出し、尋ねた。

 ハクアは、うーん、と宙を見て唸ってから答えてくれる。


「俺は知識の上でしか知らないけど、それでいいなら」

「はい、お願いします」


 自分に関係することはなんでも聞いておいた方がいい。

 クローディアは、この世界の情報が0からスタートしているのだから。


「魔法は魔力を通じて精霊の力を間接的に借りる精霊魔法。召喚は魔力と召喚力といわれる召喚士にしか生成できない力を混ぜて、精霊の力を直接的に借りる召喚魔法。ざっくり説明するとこんな感じ」

「魔力と召喚力を混ぜてる、ってそれを私がやれてるんですか?」


 そんな特別なことをやっているとは思えない。

 クローディアは、ハクアに教えられたとおりに感覚で行なっているだけなのだ。


「うん。俺は召喚魔法が使えないからよくわからないけど、召喚士は魔力と召喚力の区切りがないって聞いたことある」

「・・・・・・?」


 区切りがない、とはどういうことだろうか。

 いや、そもそも魔力と召喚力はどこから来ているのか。

 クローディアの疑問がなにか、ハクアは理解したらしく、魔力と召喚力について少し詳しく説明をしてくれる。


「この世界スディナビアの知能生物は、等しく魔力を体内で生成する力と、外界に満ちる魔力を自分の魔力に変換する力がある。で、魔力とは別に、召喚力を体内で生成する召喚士がいる」


 ここで、ハクアがクローディアの反応を待ってくれたため、何度か頷いて先をお願いする。


「さっき言った通り、召喚士は恐らく、魔力と召喚力を別々に生成しているのではなく、元々混ぜた状態で生成しているんだと思う。召喚力が混ざった状態でも、魔法は使えるみたいだし」


 以前聞いた、召喚士は他の職業を兼業している、という話だろう。

 つまり、召喚士として召喚魔法を使う傍らで、魔法を使う召喚士もいるということだ。


(魔法も召喚も使いこなしてる自分が想像できない・・・・・・)


 ハクアとしては、クローディアに召喚魔法と精霊魔法が使用できるようになって欲しいのだろうが、本人には自分が両方を使いこなすイメージができないのであった。

 話がちょうどキリのいいところで、昼食が提供される。

 焼いた卵に具材が包まれたオムレツとクリームソースの香りがするカルボナーラ、だろうか。

 これもまた馴染みのある料理が出てきた。

 その美味しそうな香りに、クローディアの食欲が刺激される。

 オムレツはクローディアの前に、カルボナーラはハクアの前に置かれる。

 その後から細かく切られた野菜と砕かれたナッツ類が乗った皿がソールの前に置かれた。

 ソールを皿の傍に座らせてやる。


「いただきます」

「?」


 クローディアが手を合わせていただきますと言うと、ハクアは不思議そうにしたが、なにも言うことなくカルボナーラを食べ始める。


(やっぱり、この世界にはいただきますと手を合わせる文化がないんだろうな)


 クローディアのいた世界も、主に自分が住んでいた国でしかこの文化はなかった。

 そう考えると、異世界にないというのは納得がいく。


(私の両親は礼儀作法はきちっと、という人たちだったからなぁ)


 もう二度と会うことのない両親を懐かしみつつも、その心は決して暗く沈んではない。

 なぜなら彼女は自分が命を終える時、家族との別れをすでに済ませていたからだ。

 だから、生きることに対しての後悔はあれど、誰かに対する後悔などはなかった。


(美味しい・・・・・・!)


 口に運んだオムレツは、具にしっかりと味がついていて、とても美味しい。

 お店で食べる食事というより、誰かの家で食べる手料理のような温かさのある食事だった。


「ハクアさん。ここのご飯、温かさがあって美味しいですね」

「・・・・・・うん」


 クローディアが隣のハクアにそう伝えると、彼は虚をつかれたような表情を一瞬浮かべたが、すぐにいつもの無表情に戻った。

 どうやら、クローディアが普通に話しかけてくるとは思っていなかったらしい。

 クローディアもクローディアで、こうしようと思って話しかけたのではなく、自然と感想を伝えたかっただけだったのだが。

 しかし、温かさのある食事をとれる喜びで頭が満たされていたクローディアは、ハクアのその表情に気付くこともない。

 夢中になってスプーンを動かし、一気に完食してしまう。


「あの、ご馳走様でした」


 クローディアが、カウンター内にいる店員にそう声をかける。

 店員はその鋭い眼光でクローディアを見やると、頷いてくれた。

 ご馳走様という意味は伝わったのだろうか。

 不安になるクローディアであったが、店員はそれ以上の言葉は不要と言わんばかりに、作業に戻った。

 食べ終わった二人は、店主に代金を支払い、店を出る。

 ちなみに、代金は経費で落ちるから、とハクアが支払ってくれた。

 依頼料を貰ったから、支払えるとクローディアは申し出たのだが、これから日用品が必要になってくるから、それに使えばいいと断られた。

 さすがに申し訳ないというか、いたたまれない気持ちになったのだが、日用品を買うのに、手持ちが足りなくて借りる方が申し訳ないと思い、ここはお言葉に甘えることにしたのであった。






  「うう・・・・・・。疲れたーー!」


 ドサッとクローディアは重たい体を重力に従ってベッドに倒れ込む。

 定食屋から出た後、二人は再びギルドに戻ってきてEクラスのクエストを三件受けた。

 ハクアの宣言通り、どれも配達系のクエストであり、クローディアたちは王都中を駆け回ることになる。

 全てのクエストを終えた頃、クローディアはもうクタクタで、召喚獣ブラウは弱々しい鳴き声をあげて消えた。

 遅い時間になったことだし、ということでハクアはクローディアを宿屋まで送り、明日同じ時間に来ることを告げて去って行った。

 クローディアはその後、遅い夕飯を食堂でいただき、だるい体を叱咤して風呂に入って部屋に戻ってきたところである。

 熱いシャワーで汗を流し、ゆっくりと湯船につかったことにより、疲労を明日に持ち越すことはなさそうだ。

 ちなみに、この世界の動力はもっぱら魔法によるものだという。

 前の世界であった電力などのエネルギーは全て魔力で代替されている。

 例えば夜の部屋を照らす明かりは、魔石と呼ばれるものに光魔法を蓄積し、それを放出することで光る石を使用している。

 この石は少量の魔力で半年分光るため、生活は昔からこれに支えられているとのことだ。

 クローディアが風呂場で使っているヘアドライヤーは、同じような原理で火と風魔法が合成されて使用されている。

 クローディアは身支度を全て終え、ベッドに倒れ込んだのであった。


「明日は、Dランクのクエストを受けるって言ってたな・・・・・・。王都外に出るものをやるつもりだって、ソール」


 ソールはクローディアの隣でよく寝ている。

 それでも構わずにクローディアはソールに話しかける。


「王都の外ってどんな感じなんだろうね」

「ズビー・・・・・・」

「おやすみなさい、ソール」


 クローディアはソールを軽く撫で、目を閉じる。

 明日はまた新しいことに出会うのだろう。

 それが、クローディアには少し楽しみだった。




 

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