参邂
パーク旅行も2日目後半。
バスはアンインからサンカイへ入り、
次のチェックポイントであるイナリ大社へと
向かっている。
(ここまで大きな問題やトラブルは
特にこれといって起こってはいない。
至って順風満帆、と言ったところだ。
まぁ、強いて挙げるとするのなら
リウキウでの恋蜘蛛ちゃんの件が1つと……)
チラッと横目で澄禾の方を見る。
(……この人の件、といった所だろうか)
澄禾が視線に気づいたらしく目が合った。
「どうかしました?継月さん?」
澄禾はあっけらかんとした表情で小首を傾げる
「なんでもない」
本来なら澄禾姉さんとは今向かっている
サンカイチホーで落ち合う手筈だった。
それがゴコクで、ヒトの姿に変化している状態で現れたもんだから此方としては少々予定が
狂ってしまった……といったところだ。
とはいえ、アンインのホテルで
『なんだ、
少し予定外な事が起こっただけで手筈通りにはなっているのか』
と気がついた時は、少しばかりこの女狐の戯れに付き合うも一考と思い直した次第だ。
最近は仕事仕事で構う暇もなかったからな。
「それよりもう一度言うけど、バス降りたら
直ぐに正体明かしてよ?」
「もう、分かってますってば」
目の前の女狐は妖艶な笑みを浮かべながら
自身の手を俺の手にそっと重ね撫でてきた。
まるで言葉を冗談半分で聞き流してるかのように。
……ほんとに分かってるのかなぁ。
あとは、仮に懸念することがあるとするなら
時間は少し戻るが、俺たちが来る前
セルリアンがまた出現してたことだ。
オオタカが対処してくれたとはいえ、
この旅でまた出てこないとも限らないからな。
まぁ仮に出てきたらそんときはぶっ飛ばすだけ
……とはいえ招待客を連れてる手前、
派手には暴れられないからな。
杞憂に終わるといいんだけど……。
『園長。ソロソロ、イナリ大社前二到着スルヨ』
「……ん、あぁ。ありがとうラッキー」
なんて考えてると、LBからのアナウンスで
少し向こうにイナリ大社の特徴的な鳥居が
見えるのが確認出来た。
『では皆さん、もうそろそろ次の目的地、
イナリ大社に到着しますので、下車の準備を
お願いしますね』
俺とフルルが下車の準備を整えてる傍らで
ミライさんの車内アナウンスが聞こえた。
🕐
それから数分揺られて、時計の時間は
午後3時。
イナリ大社の玄関口である、千本鳥居の前に
到着した。
本土だと、伏見稲荷大社の千本鳥居と本殿は
直接繋がってないのだが、ここ2つが伏見稲荷大社のイメージとして特に強いためか、
千本鳥居を抜けた先に本殿があるという構造になっている。
「では、ここから本殿までは私がご案内しますね」
「あっ、ちょっ……」
そういって彼女はミライさんの呼び掛けも
気に止めず、そそくさと中へ向かってしまった。
相変わらず自由奔放なやつだ……。
「ごめんみんな、遅れないようについてきて」
まったく、バス降りたらさっさと変身解けって
言ったのに……。聴かないんだから。
⌛
千本鳥居を歩いていくと本殿が見えてきた。
(ここを抜けたら恐らくいる筈だ
……この神社の主が。)
千本鳥居を全員が潜り抜けきったのを目視で
確認し、腕で皆を静止させる。
「……継月さん?」
「継ちゃんどうしたの?」
「さぁみなさん到着ですよ!!」
先頭立って歩いていた澄禾は意気揚々と広間のど真ん中に立ち、こちらに振り向いた。
「ここがイナリ大syァーーーーーーー!!」
直後、地面から突き出た光の柱が澄禾を飲み込んだ。
突然起こったことに後ろに居た皆は阿鼻叫喚、
雰囲気とチラッと見た感じ、驚きの
余りパートナーの陰に隠れたのが
アードウルフとジョフ、
コウテイとサーバル、ロードランナーは
一瞬驚きはしたがそれまでって感じだな。
「はぁ……、だから言ったのに」
「あの結界……まさか」
「その『まさか』……ですよ。ミライさん」
そう言いながら本殿を見据えると、
この現象を起こした張本人の姿が奥から現れた。
「まったく、私を装って継月さん達の旅に
混ざるとは……」
「不届き千万……ですよ?キュウビさん」
七夕の織姫が着ているような装いを纏った
澄禾姉さん……もといイナリ姉ちゃんこと
オイナリサマが姿を現した。
「いったたたた……。ちょっと、幾らなんでもやり過ぎじゃないの?イナリ」
煙が晴れると、先程まで澄禾姉のフリをしていた、
地べたに座りながら不服そうにイナリ姉さんを
見つめるキュウビの姿がそこにあった。
「ったく……。だから言ったじゃんか、
キュウビ。
『サンカイに着いたら正体明かした方がいい』って」
「あら、とっくに見抜かれてたのね」
「そりゃあね」
俺はキュウビに近付き、手を差し伸べ
キュウビがその手を取ると同時に立ち上がらせた。
「やっぱり、キュウビだったんだ」
「キタキツネも気付いてたのか」
「ん……オイナリサマと、気配違うから」
「てことはつまり『伏城 澄禾』は……
元はオイナリサマの偽名……。
伏見……稲荷……禾……」
「……松前さん……?」
「……じゃあ、みんなに改めて紹介するね。今回の旅企画でここサンカイエリアの出迎えを担当して貰った伏城 澄禾さん……改め
オイナリサマだよ。
……じゃっ、イナリ姉ちゃん。あと宜しく」
キュウビは「こっち来て」と手を引きながら
下がらせた。
……おいどさくさ紛れに腕組むなバカ。
「皆さん、よくぞおいでなさいました。
私はこのサンカイの守護をしております、
オイナリサマ、と申します。
どうやらそこのキュウビさんが皆さんを
惑わせたようで……申し訳ありませんでした」
あーあ、あの稲荷神の分身に頭下げさせちゃったよ。
にしても、お辞儀1つだけ取ってもあの綺麗な
所作、見てて思わず惚れ惚れしちゃうね。
あっ、姉ちゃん頭上げる時
一瞬こっち-多分キュウビを-睨んだ。
イナリ姉も普段優しいけど怒った時はほんと
怖いからなぁ……。
俺?俺はぁ……んまぁ優し~く諭される事が
時折あるくらいよ。ほんとに、たま~にね。
「彼女には後程、私と園長からキツく言って
おきますので、皆さんは心起きなく、
このサンカイをお楽しみ下さい♪
私としてはこのキョウノミヤで和を楽しむのをおすすめしますが、もちろんハンシンで美味しいものに舌鼓を打つ……なんてのも一興ですね。なんにせよ、節度を持って楽しんで頂けるなら、私は一向に構いませんので短い間ですが、ごゆるりと♪」
「では、今から自由行動とします。
皆さん、18:00にこのイナリ大社の中央広間に戻ってきて下さいね」
ミライさんの合図で各ペアが千本鳥居へ向かう中、松前くんとアードウルフだけが残っていた。
「……松前くん?」
「……継月さん、彼の事は私に任せて貰えませんか?」
俺では核心こそ突き止めれなかったものの、
確かに感じ取れた松前くんから発せられる
ただならぬ違和感の正体に、
イナリ姉は感付いたらしい。
姉さん、こういう事は鋭いんだよな。
「……わかった。こういうのほんとは俺が
ケアするべきだと思うけど……、お願いしていい?」
「えぇ。こういうのも、私の務めですから。
寧ろ、こういう時くらい私に任せて、
貴方は貴重な休息を謳歌して下さいな♪」
イナリ姉さんは、俺に安らぎをくれる時に
する柔らかい笑みを此方に向けると
松前くんペアの方へ歩いていった。
「俺たちも、一旦降りよっか」
「うん」
「……私も一緒していいかしら?」
「……しょうがないな。今だけだよ?
フルルもそれでいい?」
フルルが首肯で返してくれたので、
3人で
来た道を戻り麓に向かう。
「それにしても……、貴方よく分かったわね?私がイナリのフリをしているって」
「ホテルで貰ったいなり寿司の味が、
イナリ姉の作ったものとはほんの僅かに
違ったからね」
「……それだけ?たったそれだけで、
私の正体を見抜いたというの?」
「こちとら何個もイナリ姉のいなり寿司食べてるんだぞ?舌が覚えちゃってるんだよ」
昔読んだ漫画に出てきた地の獄の王みたく指で舌を挟んで意地悪なしたり顔をしてやった。
「イナリのレシピ通りに作った筈なのだけど……」
「『いくらレシピ通り作ったとしても、
馴染みのある奴にはその些細な違いが分かるもの』、そう言ったのは
「あら……、一杯喰わされたわね」
一先ず、こっちの化かし合いは俺の勝ち……かな。
「まぁ、キュウビのいなり寿司も悪くなかったよ。……ご馳走さま」
「お粗末さま」
この旅ももう明日で折り返しを向かえる。
集った人々の、募った様々な思惑は、
これからの旅路の中でどんな物語を紡ぐのだろうか。
「取り敢えず、どこへいこうかしら?」
「生八つ橋のお店いきたーい」
「フルルは相変わらずだな」
何はともあれ、この旅がこれ以上何事もなく
終われれば、俺はそれでいい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
タコ氏が諸事情により今回は最後尾となります
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カクヨムユーザージャパリパーク旅行記 継月 @Suzakusaiko
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