暗陰は散開し、空霽れ渡る


駅の改札を抜け、俺とフルルとホワイトサーバルを先頭にザリ…ザリ…ザッ…ザッ…と、

駅と拠点を結ぶ一本の砂利道を各々が自らの

歩幅で進んでいく。

なんか俺を先頭に団体行動取ってる形になってるけど……、

座ってた位置的に出口に一番近かったのがたまたま俺で、そのまま1列になって抜けた結果こうなってるってだけで、今は自由行動の時間なのだから、別に団体行動を取る必要も

足並みを揃える必要もない。

なんなら俺を追い抜いて先に拠点へ向かったっていいんだよ?

それをしないのは共に並んで歩きたい相手が隣にいるからなのか、はたまた園長さんを抜かして先に行くなんて……と考えてるのか、

はたまたこのまま流れで歩いても余裕で着くのだから特段急ぐ必要もないしまぁいっかになってるのか、それは分からないけど。

まぁ個々人がそれで良いならいいか……。


等と思いを巡らせながらも、ふと後ろ

……もとい、ミライさんから少し離れたところにいるアードウルフと松前くんを見る。


「松前くん、アードウルフとこの2日でかなり親睦を深めてるな」


「初日のぎこちなさは何処へやらって感じだね~」


電車の中でミライさんが松前くんに言ってた通り、アードウルフは良く言えば慎重、悪く言えば臆病な性格で警戒心の強い娘だ。

それは表現を換えれば

『相手の本質を慎重に見極めようとする思考と観察眼を持っている』と解釈することも出来る。

そして、ミライさんからの一言で松前くんを

『信じてみる』方へと彼女の思考がシフトした。

チラッと聞こえた会話の内容的に、松前くんもアードウルフに嫌がられないか、変に思われないか等と考えながら言動や行動のひとつひとつに細心の注意を払いながら行動を共にしていたのだろう。

それが功を奏し、互いに寄り添い合う形になったことで僅か2日であそこまでの仲になった……ってとこかな?

にしても、手なんか繋いじゃってまぁ……


「おアツいねぇ……」


「ねー」


「うみゃっ?すずしーよ?」


君にもいずれ分かるよ、ホワイトサーバル。


「現在進行形でフルルさんとくっついてる貴方がそれ言います?」


「エスコートしていると言って欲しいね」


「物は言い様ですね」


「うっさいよ」


澄禾をちらっと見て悪態をついた。


後で辻褄……合わせとかないとなぁ……。

……でもまぁこのくらいの事なら事情を話せば合わせてくれるだろう『彼女』なら。

……多分。


「おにいちゃん、大丈夫?疲れちゃった?」


「ん……、大丈夫だよ」


どうやら無意識にため息が出てしまったらしい。

不安そうなホワイトサーバルを軽く撫でてやった。


「もうすぐ拠点だから、お昼ご飯食べて元気チャージしよー?」


「そうする」



その後方、継月のやり取りを見聞きしていた

松前ペアとタコペア


「継月さんって、妹さんいるんですね。

それもアニマルガールの」


「いえ、そうではなくて……。

ホワイトサーバルちゃん……というより

小さいフレンズの子は、園長さんの事を本当のお兄ちゃんみたいに慕ってる子が多いんです」


「継月の事をお兄ちゃんって呼んでるフレンズ、割りといるんだよ。じゃんぐるにいる

ミナミコアリクイやマレーバク……後は今回の旅企画に参加してるジョフロイネコとか」


「小さい子が、近所に住んでる年上の人を

お兄さんお姉さんって呼ぶのと同じ感じですかね」


「タコの予想した通りで大体合ってるよ」


「えっ、でもあいつ、ホテルで継月の事

『園長さん』って呼んでたぞ?」


旅館での出来事を思い出し、ロードランナーがコウテイの発言に異を唱える。


「多分、他の方がいるからそう呼んでたんだと思います。ジョフロイネコさんは、少しばかり背伸びをしたがる子なので」


実際、偶々ジョフロイネコが継月さんと二人きりでじゃれ合ってた時に『にぃたん』と呼んでいましたし……とミライが付け足す。


「へぇー」


「ロードランナーさん?それを理由にからかうのはやめて上げて下さいね?」


「わ、わかってるよ……」


🕑️


そんなこんなで歩きながら雑談していると拠点に到着した。


「ついたー!」


「ホワイトサーバル!来てたんだ!」


「おねーちゃん!」


入って早々にサーバルと出くわした。


「サーバル、先に着いてたんだ」


「うん!といっても私とけもちゃんもさっき

着いたばっかりなんだけどね!

あっ、ジョフロイネコと雪衣ちゃん、

ペロくんとキタキツネももう着いてるよ!」



「ということは、僕達が最後だったみたいですね」


「まぁ妥当ですかね。僕らの目的地って本土でいう所の呉だったんで」


「園長さん、お帰りなさい」


最終着組で話し合ってると祐一が出迎えてくれた。


「ただいま、祐一。他の皆はもう広間に向かってる感じ?」


「えぇ、手筈通りに。昼食の準備も整ってます」


ここでいう広間というのは、拠点から見える

湖の向かいにあるステージのようなところだ。

探検隊はたまにここでピクニックをするらしい。


「じゃあ俺たちも向かいますか」


「そういえば、園長さんにご報告しておきたい事がありまして」


「んっ、わかった」


一応は俺と祐一だけでの話になるから

流石にここで待たせる必要もないし、

他のメンバーには先に広間へ向かってるように促す。

ミライさんの先導で向かい始めたのを見送ると祐一に向き合い報告の続きを聞きに入る。


「で、なに?祐一。遂にドールと結婚でもすんの?」


「そうなんです。もう挙式の日取りも決まって

……って違いますよ!!」


「なんだ違うのか」


「あからさまに残念がらないで下さい……」


こいつら端から見ても相思相愛なんだからはよ

くっ付けと常々思ってたからてっきり……。

……えっ?

『いつまでもフルルとくっ付かないお前が言うな』って?……うっさい。


「……で、その報告って?」


「キタキツネちゃんなんですけど、遂に探検隊に入ってくれるそうなんです!」


「あー、キタキツネ宛に何度か招待状送られてたってギンギツネ言ってたな。だらだらしてたいからその都度断ってるとも」


「えぇ、でもさっきオオタカとキタキツネちゃん本人からも入隊する旨を伝えられました」


……いったいどういう風の吹きまわしだ?

まぁ実際のところ普段からだらけ癖はあるものの、キタキツネの肉弾戦での戦闘技術がかなりあるのは俺も知ってる。

……あっちもあっちで、ここらを回ってた時に何かあったな。


「……まぁいいや。書面作ってセントラルに送ってくれ。あとはこっちで入隊登録の手続きとかやっとくから」


あとは……、拠点近くの秘密基地に最新の

アーケードを何種か置いとくか。

あとはボードゲーム。

要望にもあったし、キタキツネの息抜き用にも丁度いいだろうからこれを期にな。


ー広間ー


「やー、みんな待たせて悪いね」


「継月……遅い」


「ごめんてキタキツネ。ちょっと祐一から連絡事項聴いてたもんだから」


「園長さん……その、急かすようで申し訳ないんですけど早く音頭取って貰えると……」


雪衣ちゃんの視線の先には食べたい衝動を堪えてるジョフの姿があった。


「雪衣ちゃんありがと手早く済ませるから」


みんな先に食べてても良かったしそれはミライさんにも伝えといたんだけどね?

揃いも揃って行儀良すぎない?


「さて2日目のお昼ですが、今日は探検隊の

みんなが作ってくれました。旨そうなの前に

お預けさせる形になってごめんねみんな。

それじゃいただきます!」


『いただきまーす』


今日のお昼は


・河豚の唐揚げ(山口県)

・呉の肉じゃが(広島県)

・黒田せりとホウレン草のおひたし(島根県)

・タコ飯(岡山県)

・親ガニの味噌汁(鳥取県)


というラインナップだ。


『親ガニ』というのはズワイガニのメスを指す言葉で、まぁ要するにカニの味噌汁だ。

鳥取ではズワイガニが冬によく水揚げされるらしく、冬の味覚としてよく食されてるらしい。

余談だがオスは『松葉ガニ』と呼ばれてるそうだ。


呉の肉じゃがは言ってしまえば肉じゃがなのだが、その具材が

メークイン、牛肉、糸こんにゃく、玉ねぎ

この4つで固定されてるのが特徴だ。

元々肉じゃが自体、当時呉(今の広島県)に

赴任していた東郷平八郎と言う方が

イギリス留学中に食したビーフシチューを

日本でも再現させようとした所、

調理者が赤ワインを当時比較的入手しやすかった醤油で代用した結果生まれた偶然の産物に

近しい料理なのだそうだ。


ほんと、昔の人の試行錯誤って凄いよな。

肉じゃがなんて今や家庭料理じゃ定番中の定番になる料理だがその大元はビーフシチューだったなんてよ。

てなわけで、元々は広島県で生まれた物だからってことで今回メニューに採用させてもらった。

鰹のタタキから続いて郷土料理でメニュー組む際に調べててびっくりした料理パート2だ。


おひたしは黒田せりというセリを使ったものだ。

セリが無い場合は最悪三つ葉で代用可との事。


タコ飯と河豚唐揚げ……これ説明要るか?

要らねぇよな。

地元で水揚げされてるってことさえ除けば

今や全国で食されてるもんだからな。


食事開始の大号令と共に、各々が真っ先に目についたおかずを口にしていく。


(うみゃ……?)


(これは……)


(この味……ボク知ってる……)


(間違いないわね……)


(((((継ちゃん(継月(さん))の味だ……これ)))))


一口食べただけで、サーバル、コウテイ、

キタキツネ、澄禾、ミライ、フルルの6人は

今日のお昼が本当は継月が作ったものだと見抜いた。


「継月さん……。貴方、オロチさんの酒の

つまみ作るついでにお昼の仕込みもしましたね……?」


「……えっ?分かったんですか?」


「分かるよ~。毎日継ちゃんの料理食べてるんだもん。ねぇコウテイ?」


「そうだな。私達には馴染み深い味だ」


普段から食べ慣れてる二人からすれば見抜くのは造作もないことだったらしい。

うーん、完璧な変装を匂いだけで看破された気分……。


⏳️


PM14:00


「うーん……」


「どうしたんですか継月さん?そんな唸って」


「いやお昼の件でね。祐一達が作ったように

見せ掛けられるように、比較的オーソドックスなレシピでやった筈なんだけどあっさり見破られちゃったなぁ……って」


「いくらレシピ通りの作り方をしても、

馴染みのある方にはその些細な違いが分かるものなんですよ」


「……それもそっか」


「みなさーん。そろそろ出ますよ~」


お昼も食べ終わり、皆が少々の食休みをしていた時にミライから出発の合図が掛かる。

各々が探検隊のメンバーへとお礼を言いながらバスへと向かい始めた。


「じゃあ、また何かあったら言ってくれ」


「はい、園長さんもお気をつけて」


ミライと澄禾、継月とフルル、ロードランナーが集団の後ろ辺りで向かい出す。


「そういや、澄禾とは次のサンカイで分かれるんだよな?」


「えぇ、そうですね」


「本来、澄禾さんにはサンカイでの私たちの

玄関口を任せていたんですよ。……まぁ、

今ここに居るんですけど」


「相手をからかうのが好きなところがあるのは相変わらずだからね、澄禾姉は」



俺達五人が最後に乗り込み、点呼の後に

ラッキービーストへサンカイエリアの

イナリ大社へと向かうように指示を出す。


『発車スルヨ』


バスは2日目前半の目的地であるアンインを離れ、サンカイエリアを目指して走り出した。




「……澄禾…姉さん」


サンカイへの道を走っていくバスの中で俺は、

澄禾だけに聴こえる声で話し掛けた。


「はい、なんですか?」


「サンカイに着いてバス降りたら、なるべく

すぐに正体明かした方がいいよ」


「……えぇ、そのつもりですよ」


澄禾は口元を手で隠しながら微笑み誤魔化した。


「どうなっても知らないからね」


……まぁいいや。どうせ、化けの皮が剥がされるのも時間の問題なんだ。

それまでせいぜい……、ちょっとした化かし合いと洒落こもうじゃあないか。



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※この回では話の構成上、予定を変更して

私、タコさん、松前さんの3名が連続します。

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