陰に日向に明野に


AM10:15


「ふぅ……ざっとこんなもんかな?」


俺はというとビャッコ姉とオロチが摘まむ料理の数々を一通り作っていた。

その最中『談合坂SA!』の叫び声と共に爆発音が聞こえたけど。


「そういや、つい一週間くらい前からまた観光に来てるんだっけ。あの宇宙人」


このパークには時折ヒト以外にも変わったゲストが来客することがある。

緑の蛙のような彼は、その内の一人だ

(居候先のお姉さんが『ボケガエル』って言ってたから多分蛙。本人ゲロゲロ言ってるし)。


そしてここに来た人間以外の生命体は基本的にアニマルガール化する。無論彼も例に漏れない。なんならパーク内でなら元の姿への解除こそ出来ないものの自力でなれる。なんでだ。

まぁ身長がリンゴ5個分の世界的マスコットの猫の彼女や、最近フルル達がやってるみたいな配信をしてる洋酒好きな悪魔みたいな例外もあるが。


これは縁あって彼のホームステイ先にお邪魔させて貰ったことがあった時のことだけど。

その時にこの星とパークを自分の領土にするのが目的だとか話されたっけ。

まぁその後にパークの所有権を掛けての勝負をふっかけられたから世帯主の娘さんから許可を貰った後に4人全員纏めて伸してやったけど。

あいつの仲間も口から波動砲ぶっぱなしてくるわ、ガチの軍人いるわ、妙に手の内が読めないメカニックいるわで良くも悪くもなかなかに

ヤバかったな。

あともう1人、忍者の格好した水色の子がいたけどその子は基本平和主義らしく、まぁ普通に話し合いで和解。

ただ、直接拳を交えて(?)感じた、戦闘力とか科学技術とか彼らの持つ諸々の能力は、流石は成層圏を越えた遥か向こうの未知の存在とも言うべきか、俺としてもみすみす手放すのは惜しく、流石にパークは渡せないけど此方の発展に協力してくれるならって条件で彼ら小隊と協定を結んだ。

そして彼ら小隊と彼が世話になってるご家族の方々をグランドオープンした時には優先的に招待する事を約束した。


「……って事もあったっけ」


閑話休題おっといけない

そろそろこいつらを運ばないと、

あの蛇神がぼやき始めるからな。


「運ぶの手伝いますよ、園長」


「私もお手伝いします!」


「あぁ祐一、ドール。助かるよ」


少し作り過ぎた為、手伝いを買って出てくれた二人に感謝しながら白虎と蛇神の待つリビングへと向かった。


「おまちどおさま」


「漸くきたかぁ~、待ちくたびれたぞ」


リビングに着いて二人の前に今作った品々を並べていく。

オロチの方を見ると既に持参した酒を一本空けていた。

食前酒にしても飲み過ぎだって。

蛇神だけに蟒蛇ってか?


「けいづきぃ~……」


並べ終わると同時くらいに横からビャッコ姉が猫なで声を発しながら胴体に抱きついてきた。


「もぉ~、急にどうしたの姉さ……」


姉さんの顔を見るといつもの武人のような風格を持ちながらもどこか愛嬌のある顔つきはどこへやら、目はトロンとして頬は緩みきっている。しかも顔がかなり赤いときた。

所謂蕩け顔ってやつ。


「……ねぇオロチ。ビャッコ姉に酒飲ませた?」


「ん?あぁ、飲ませた。私のよく飲んでるやつ。其奴が興味を示したからな」


それで今の姉さん虎になってる状態なのかぁ……。

興味半分で一口だけ貰った事あるけど、オロチの持ってるやつって結構度数高いからなぁ……。

ていうかビャッコ姉ったら俺と同じで酒弱いんだからあんなの興味半分で飲むんじゃないよ。


※虎になる……酷く酔っ払っている状態の事を指す


「……♪」


すっごい子猫みたいにすり寄ってくる。

しかも上半身全体を擦り付ける感じで。

ビャッコ姉、甘え上戸な絡み上戸なんだった……。

大虎にならないのがほんとに救い。


※大虎……泥酔して暴れる者の事


「ビャッコ様。料理も来ましたし園長さんもそろそろアケノに向かわないといけないので離してあげてください」


「い~や~だ~。けいづきも一緒に居てぇ~」


裕一が声を掛けるも姉さんは駄々を捏ねて離れようとしない。

おまけに酔っていても力の強さは健在なもんだから拘束を振りほどけない状態だ。


「もう……、姉さんったら酔っちゃうとすぐこれだ……」


「う~……」


「はいはい、しょうがない姉さんだ」


こうなった姉さんはとことん甘えんぼになっちゃうもんだから既に対処法は会得済み。

身体をしっかりと抱き返してあげて

顔は俺の胸元まで抱き寄せて……


「ん……♪」


背中と頭……それも猫耳と耳の間の辺りを優しく撫でてあげれば……


「ん~……。……Zzz」


ほら、簡単に眠っちゃった。


「姉さんを寝かせてくるよ。俺がここで寝泊まりする時の部屋使わせてもらうね」


「あっ、はい。お願いします」


一先ず寝室に向かい姉さんを寝かせてリビングに戻る。


「見事な手捌きだったではないか、我が楽園の長よ」


「お見事でした、園長さん。まさかあれだけ

ぐずってたビャッコがあんなにあっさり……」


「あー……」


俺はあれに手慣れた理由を思い出し苦笑いした。


「以前、四神のみんなと集まった時にも似たような事があってね」


「それで手慣れていたんですのね」


勿論その時は咄嗟だったから一か八かだったけど。

後日セイリュウ姉から詳しく聴いたら俺が相手ならさっきの方法でなら行けると思うって言われた。


「さて……フルル達を待たせてるし、

そろそろ俺はアケノに向かうよ。じゃぁ祐一、華、仕込みは終わらせてるから後は手筈通りに」


「はい」


「任せてください」


「おに~いちゃんっ♪」


「っと」


拠点を後にしようと振り向いた瞬間、

何かが俺の腹部ってか胸元目掛けて突っ込んできた。いや、飛びついてきた。


「おーおー。相変わらず元気なこって」


ホワイトサーバルネコ目ネコ科レプタイルルス属


「えへへ……♪」


お返しとばかりに頭を撫でてやるとすり寄ってくる。

俺を見つけた途端飛び付いてきたのであろう

この白猫の名はホワイトサーバル。

俺が妹同然に可愛がっているアニマルガールの一人だ。

アニマルガール化してからは少なくとも

早数年は経つが、まだまだその在り方は無邪気な子供そのもの。

天衣無縫、純真無垢と言った言の葉が命を宿したのがこの娘と言っても過言じゃないと思う。

でもホワイトサーバル、なんで拠点ここに……


「あらホワイトサーバルさん。いらっしゃいましたのね」


あぁなるほど、ミーアの授業の講習に来たのか。

……ん?なんかホワイトサーバルのやつ、

俺とミーアの交互に見てない?

 

「どうしたの、ホワイトサーバル?」


「えっとね、ミーア先生とお勉強もしなきゃだけどね、最近逢えなかったからおにいちゃんとも一緒に居たいなって。でもおにいちゃんも

今からどこかに行かなきゃダメなんだよね?」


成る程それで葛藤してるわけか。

確かに俺は、一刻も早く先行して貰ってる

フルル達と合流するためにアケノに向かわなければならない状況だ。

やるべき事を分かってるのと相手の状況も加味して我慢したほうが良いのか考えられて偉いぞ

ホワイトサーバル。

うーむしかし……


「それなら好都合ですわね。

今日は野外学習とする予定でしたから。

今からホワイトサーバルさんには、園長さんと共にアケノに向かってもらおうと思います」


成る程確かに。

それならミーアキャットの授業を俺が引率

として代行すればいいし、

俺と一緒に居たいホワイトサーバルの要望も

同時にクリア出来る訳で効率的だ。

……効率的なのは間違いないんだけど。


「えっ。ちょ待って何それ俺が聴かされてないんだけど」


「本日は園長さんがこちらに来られる日というのは聞いていたのでそのように組んでおいたんですわ。まぁ、行き先に関しては園長さんに 一任する形ですが」


「おにいちゃん……だめ……?」


そんな目で俺を見るな、ホワイトサーバル。

お前ぐらいの娘がするそういう困り顔の

上目遣いに弱いんだ、俺は。


「別に迷惑じゃないよ。ただミーアから事前に一言伝えといて欲しかったなってだけ」


「ん……ふみゃっ♪」


慰めるように頭を撫でてやると頭を俺の喉元辺りに擦り付けてくる。

ホントに可愛いなこいつ。


ミーアの方を見るとウインクでアイコンタクトをしてきた。

まったく……、相変わらず抜かりの無い

アニマルガールだ。


「まぁ、任された以上はしっかりと責任もって面倒を見させてもらうよ。お昼頃には拠点に

戻ってくるから、それまででいいかな?」


「えぇ、お願いいたしますわ」


「オーケー。じゃあホワイトサーバル、

行こっか」


「うん!」


探検隊ご一行と別れて二人で拠点を出る。


さて、二人なら車を走らせるが早い……が。


駐車場を見ると車がミライさんの分も俺の分も

残ったままだったので、歩きながら確認の為

ミライさんに電話を入れてみる。


「……あぁもしもしミライさん?

要件が終わって今からそちらに向かいます。

ところで、ミライさん達ってアケノまで

どうやって……。あぁ電車ですか。

分かりました。今からとなると……」


端末を操作してジャパリ鉄道の時刻表を

開く。

スマホで時間を確認すると今は25分頃……。

次の電車が30分発の快速と35分発の普通だから……。


「40分頃には駅に着けそうです。

……はい、ではまた後ほど」


さて、ここを逃すとまずもって予定通りの到着は不可能。

ここから歩いての経過時間も加味すると……


「ホワイトサーバル」


「んぅ?」


「……ちょいと駅までかけっこしよっか」


走らないと確実に間に合わないな、うん。


「わかった!」


言うや否やホワイトサーバルは駆け出した。


「……まだよーいドン言ってないけどいっか」


元気に駆け出した後ろ姿を微笑ましく思いながら少し出遅れる形で駅へと走った。


⏳️


「ごーる!」


「ハナ差で負けた……」


分かっちゃいたけど改めて思う。

やっぱ速いよアニマルガール。

サラブレッドの娘達やプロングホーンとかともたまに併走するけど、それでも大体1バ身差、

よく行ってアタマ差で負けちゃうし。

まだまだ敵わないなぁ。


「えへへっ♪おにいちゃんとのかけっこ楽しかった!」


「それは何より」


時間を見ると30分頃。

走ったからか5分とも掛からなかった。

とはいえ普通電車の出発5分前だし寧ろ丁度良かったとも言える。

少しだけ乱れた息を整えて券売機へと向かう。


「なにしてるの?」


「切符を買うんだよ。電車に乗るのに必要だから」


「わたし、やってみたい!」


「ホワイトサーバルは買う必要ないんだけどね……」


ヒトの俺は改札を通す必要があるが

アニマルガールは改札途中にあるポータルに 立つだけで通れるからな。

……まぁこれもひとつの経験か。

何かのチケットを機械で買う機会も今後あるだろうし。

俺の知り合いにいる政府のお偉いさんの息子さん、大人になっても電車の切符買えなかったし。



「じゃあ、俺の分を買ってくれるか?」


「はーい!」


隣で操作方法を教えながらホワイトサーバル、

初めての切符購入。


「買えた!」


「ん、良くできました」


彼女が買ってくれた切符を受け取って改札へ。

俺は切符を通し、ホワイトサーバルはポータルに立ってスキャニングされる。


「みゃ……?」


「どした?」


「なんかちょっとピリッてした……ような?」


「……気のせいだよ」


「そう?」


実のとこいうと彼女が感じた気のせいじゃない。

フレンズからはあのポータルでけものプラズムを検出すると同時に生活に支障を来さない量、それも抜き取られた事にすら気付かれない程、極微量のけものプラズム運賃代わりとして頂戴する設計にしてる。

プラズムをどうするか……は様々で割愛するが、少なくともフレンズの害となる事に用いられない事だけは確実だと言っておこう。

パークの運営には必要な事なんだ。


ただ、これでも感じる娘はいるのか……。

それともホワイトサーバルが機敏なだけか。

……もう少し、調整する必要はありそうだな。



        🚈三



AM10:45 アケノ駅


「ついたー!」


電車に揺られること10分弱……くらいしか

経ってないのに普通電車だとなんかゆっくりに

感じるの不思議なんだよな。

特急や準急と違って各停だからその分タイムラグがあるのは分かるんだけど……。


「おにいちゃん早くいこっ!ミライさん待ってるんでしょ?」


「そうだな。取り敢えず、駅の周辺を大きく

回って反対側に……」


「お待ちしておりました、園長さん」


「んっ?」


声を掛けられた方を見ると赤い和傘を携えた

女性がいた。


「あぁ、大和じゃないか」


俺たちに声を掛けてくれたのは

緋彩ひいろ 大和やまと

首もとに菊の形あしらったネックレスを着け、

髪をポニーテールに結ったまさに大和撫子

という言葉が相応しいといえる女性だ。

このアケノから少し歩くとあるアケノ港内にある食堂旅館「ヤマト」の経営してる。


余談だが設計図や外観の見た時はどうみても

ホテルだろと思ったが……、

本人曰くホテルではなくあくまで旅館らしい。

「ホテルじゃないです!旅館です!」

ってオーナー本人が何故か必死になって否定してたんだから多分そうなんだろう。


「なんで駅前に?」


「ミライさんから、アケノ港まで園長さんの

お供をするようにと言われまして。では、早々に向かいましょうか」


「あぁ、頼むよ。行くぞホワイトサーバル」


「はーい!」


ルートはキザンブリッジとタカラバシの横を通って大回りする形になる。

道すがら大和から聞いたが、どうもミライさんが俺一人で来るのに話し相手が居ないのもどうかと思って丁度お休みだった大和を俺の所に寄越したらしく、

大和もホワイトサーバルが着いてくるのは想定外だったらしい。

こればかりは俺も想定外だったからしかたない。

ホワイトサーバルも大和とあっさり打ち解けたみたいだし、良かった良かった。

話してる様子はまるで本物の姉妹にも見える。


……まぁ肝心の俺が空気になりつつあるという点に目を瞑ればどうってことないさ。


「……あれ?あそこに誰かいるよ?」


「えっ?」


タカラバシを過ぎた辺りでホワイトサーバルが何かを見つけたようだ。

よーく目を凝らすと確かに誰か座っている。

一人は……ウミネコでもう一人は

麦わら帽子を被って、黒いシャツに

オーバーオールを着た、緑がかった銀髪の

ボブカット……。


「あれ、セイちゃんとウミネコじゃん」


青雲せいうん そら

釣りとお昼寝を趣味としているのんびり屋さんな女の子だ。

因みに海の魚なら概ね捌けるしなんなら河豚の調理免許も習得してるんだそう。

ウミネコとは釣りしてる最中よく話し合うらしく結構仲は良い。

あとネコ科の娘にも結構好かれていてよく一緒にお昼寝してたりする。


「あぁ。ちょうど釣りに行くと言ってたので

材料の調達をしてもらってるんです」


「うーん、ちょっと久々に話したくなってきちゃった。二人とも先に行ってて」


俺はセイちゃんの元へ歩を進める。

あっ、ウミネコどっか飛んでった。


釣りに集中してるセイちゃんの方に近づき

少し離れて隣に座る。

向こうもチラリとこちらに視線を向けてきた。


「どう?釣れてる?」


「まだ流石にボウズですね~。

釣糸垂らしてそんな経っていませんし」


ふぁ~……と欠伸をしながらも握った竿を

離さず此方に答えてくる。


「何か狙ってたりする?」


「いいえ。今日は五目釣りですよ~」


五目釣り……特に狙いを絞って釣るわけではなく適当に釣っていく釣り方だ。

この時のボウズとはホントに一匹も釣れてない事を指す。

余談というか豆知識だが、狙いの魚がいる場合、その魚が釣れなていない状況を

(仮に他の魚がどれだけ釣れていようと)

ボウズと言うらしい。


「そっか」


ヤマトではごく稀に

『セイちゃん気紛れの一品』の文言が

メニューが書かれてることがある。

セイちゃんが釣ってきた魚で調理された品々の事だ。

勿論出せる料理はその日釣れた魚次第なので

何が出てくるかは明記されてない。


「カヤちゃんは元気にしてる?」


「してますよ~。カヤったら相変わらず懇親的で可愛いのなんのって」


カヤというのはセイちゃんとは2個下の後輩である西山にしやま 花野かやの事だ。

カヤちゃんは懇親的な女の子で、小柄ながらも

頑張り屋な性格なヤマトの看板娘だ。

基本的には仲居を担当してるが料理上手な事もあって厨房に入る時もある。


⏳️


会話も一区切りに、先行してるミライさん達をあまり待たせる訳にもいかないので腰を上げる。


「……っと、ミライさん達待たせてるから

そろそろ行くよ。釣りすんのもいいけど程々にな」


「はいは~い。あっ、またヤマトを利用して

下さいね~。園長さんご夫婦が来たとき用に

良い魚、仕入れとくんで♪」


「はいはい。楽しみにしとくよ」


セイちゃんのいつものからかいを軽く流して

駆け足で合流地点へと向かう。


まったく、夫婦なんかじゃないっての。

少なくとも今はまだ……ね。




先に到着していあミライ、ロードランナー、

澄禾、フルル、そして途中合流したホワイトサーバルは継月の到着を今か今かと待っていた。


「継月のやつおっせぇな~。なぁホワイトサーバル?」


「ね~」


「大和さんは途中で青雲さんを見かけたから

少し話に行ったと言ってましたが……」


大和さんは旅館の事があるからと合流して直ぐに戻っていってしまいましたし……。


「まぁ直に来ると思うよ~、ミライさん」


フルルさんはいつもの事だと言わんばかりに

フライケーキを頬張ってます。


「……噂をすれば……ですね」


澄禾さんが視線を向けた先には此方に駆けてくる姿がありました。継月さんです。




結局目的地に着くのは11時ちょい前くらいになってしまった。


「ごめん、みんなお待たせ」


「おっせーぞ継月!あんまり遅いからここ限定のカレーじゃぱりまん摘まんじまったよ!」


「だからごめんて。向こうでもちょっと色々あったんだよ」


「継ちゃんの分もあるよ」


「ありがと」


フルルがストックしといてくれた海軍カレー

じゃぱりまんを貰う。


「うん、うまい」


「でしょー?」


「そう言えば、ホワイトサーバルさんは何故ここに?」


「一応ミーア曰く、野外学習って事らしいです」


実は電車での移動中、端末で華ちゃんを通してミーアにメッセで確認を取っていた。

結果としては俺の予想してた通り

『今日はそもそも授業を行う日ではなかった』

んだそうだ。

なんでもホワイトサーバルは授業のない日でも今日みたく自ら勉強しにくるんだとか。

で、ちょうど今日が俺がアンインを訪れる日だったから、最近こちらも忙しくて中々作って

やれてなかったホワイトサーバルとの交流の

時間を、俺達がアンインにいる間だけではあるが

『園長を講師とした野外学習』

という名目でセッティングしてくれていた

……ってわけだ。


「この後はどうしますか?」


「特にノープランかな。12時半近くの電車に乗れさえすれば大丈夫だから時間まで周辺を

適当に散策する予定でいたけど……」


少し向こうに立ってる鉄鯨館を見つけた。


「一先ず鉄鯨館で船の展示見てこっかな。

ホワイトサーバルこの娘の野外学習兼ねる形になったし」


形だけでもそれっぽいことしとかないとね。


「お船!!見たい!」


「皆はどうする?」


「特に異論はありませんね」


「ミライさんに同じく」


「あたしも問題ないぜ」


「継ちゃんについてくよ~」


フルルはなんとなく分かっちゃいたけど三人もついてくるのね。別にいいけどさ。


「んじゃ、決まりね」


鉄鯨館


「ごゆっくりどうぞ~」


入口のスタッフから人数分の券を購入し、

経路に沿って館内を進んでいく。


「今は他のお客さんはいないけど、静かに見て回ろうね。走り回っちゃダメだよ」


「はーい」


鉄鯨館には、現存してるジャパリフェリーから

古くはパークが作られる前からあった海洋調査用の船舶までのレプリカが展示されてる。

時代に合わせて改良を重ねられてる物だってある。


「私と継月さんは既にスタッフ御披露目の際に見て回りましたけど、改めて見ても圧巻ですね」


「えぇ、ほんとに」


「船1つ取っても、その時代その時代を生きたヒトが趣向を凝らしているのが良くわかりますね」


「発明もヒトの歴史さ」


ここを作る際に漁った資料に目を通した時は

先人の創意工夫を感激を覚えた。

思わずレプリカの再現に細部まで拘ってしまったのを今でも覚えている。


🕰️


「そろそろ時間だな……」


端末で時刻を確認する40分を過ぎたくらいだった。


「お土産見ていく?」


「うん、そのつもり。二人を呼んでくるよ」


ちょいとここらの土産物も見ときたいし

その辺加味するとこれくらいに立つのがちょうどいいんだ。


「姉さん、ホワイトサーバル、そろそろ

土産物見に移ろっか」


「ええ。ではホワイトサーバルさん、行きましょうか」


「はーい」


澄禾がホワイトサーバルと手を繋いで歩いていった。

その後ろ姿を見ながら、俺たちも後をついていく。


なんか毛並みも相まってほんとの姉妹みたいに見えるな、あの二人。

なんだか微笑ましい……けど。


「なんだ継月、澄禾にホワイトサーバル取られて寂しいのか?」


ロードランナーやめろそのニヤケ顔。


「別に、あの娘は俺の妹って訳でもないし、

色んな子達と仲を深めているのは良いことさ」


でもやっぱり、寂しくないって言えば嘘にはなるのも事実なんだよな。


「子供の成長というのは思うより早いものですよ」


「……そうですね」


「おにーちゃん!フルル!ロードランナー!

ミライさん!はやくはやく~!」


「ごめん、今行くよ!」


途中で立ち止まったホワイトサーバルに急かされつつも、俺たちは土産物屋に入り、

適当な土産を見繕い、土産物屋を後にし、

アケノ駅まで戻った。


「一先ず、ホワイトサーバルの野外学習の任も

コンプリートだな」


「あぁ。ホワイトサーバル、どうだった?」


「たのしかった!」


「良かったですね♪」


「そういや次にくる電車に乗ると余裕もって

間に合うんだろ?」


「あぁ、そうだな」


ホームに降りると12時19分発の各駅停車の

車両が到着したところだった。


「案外、松前さん達もこの電車に乗っていたりするかもしれませんね」


「いやいやミライさん、あの二人の性格的に

それはありえても流石に車両まで一緒になるなんて事……」


ふと横を見ると松前くん達が座ってた。


「「「あっ」」」


〈To Be Continued





「あっ、どうも」


「なんだ、みんなも今から帰るとこだったのか」



「車両も一緒になりましたね」


「そう……だね」


俺は最近読んだ漫画に出てきた言葉を思い出した。


とある男が、自分を助けた神父に問うた


『君は「引力」を信じるか?』


と。


そしてその神父もまた別のある少年にこう説いた。


「『人の出会いとは「重力」であり、

出会うべくして出会うもの』……か」


吐き出された息と共にふと漏れた小さな呟きは、鉄の扉に閉ざされ、次へと走り出す合図に

搔き消されていった。





――――――――――――――――――――


※今回は作者の進捗の関係上

ペロ君

松前君

タコ君


の順にバトンが渡ります。


――――――――――――――――――――

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