第26話 風紀委員

 ああ、胃が痛い。

 授業も終わり今日は「風紀委員」の彼女とデートする事になっている。

 もちろんイメージが風紀委員なだけで、俺の勝手な妄想なんだけど。


 真面目なタイプって陰キャにとってかなり苦手なんだよな・・・


 待ち合わせの駅に着いたので、あたりを見渡すと---

 うんいた。これでもかってくらい風紀委員とさらには学級委員の雰囲気を醸し出している。


 「お待たせ、待ち合わせは16時なのに早いな」


 ギロリと眼鏡の中の瞳で睨みつけられる。・・・ごめんなさい、私がやりました。どんな犯罪かも分からないけど僕が悪いんです。時刻は15時55分だった。


 「・・・遅い。待ち合わせは16時よ。わかってるのかしら?」


 えええ?遅刻してないのにひょっとして怒られてる?・・・・いえ、僕が悪いんです。


 「・・・えーと、間に合ってるよね?」


 「なに言ってるの?15分前行動が基本でしょ!常識よ常識」


 それが当り前でしょ!みたいな顔をして言ってくるけど理不尽すぎる。だったら最初から15時45分に待ち合わせをすればいいのに。・・・いえ今のは失言でした。僕が悪いんです。

 心の中で何度も反省して謝っていると彼女は呆れた顔をして、


 「そんなに謝らなくてもいいわよ」と少し悲しげな表情で一言呟いた。


 えっ!?まだ声に出して謝っていないのになんでだ?

 ひょっとしてエスパーですか!?・・・風紀委員はなんでもお見通しらしい。恐るべし。


 「じゃあ行こうか?」

 なんとか平静を装って今回の目的地へと向かう事にした。

 もちろん行き先は彼女にも秘密である。


 「・・・猫カフェ?」


 「うん。一度来てみたかったんだよ」


 なぜ委員長を連れてきたかって?(待ち合わせが怖かったので昇進しました。By心の声)

 怖いからすべて猫に相手をしてもらおう!ってのは冗談で、追及したいことがあるからだ。

 注文を済ませて10分が経過した。

 いまだにひと言も会話がない・・・


 俺はすごーく小さなか細い声で話しかける。


 「アニメやゲームに出てくる異世界でお約束の『猫耳』に興味があってさ。あれが可愛くてたまらないんだよ。本物に逢えたらいいのにと思ってせめて猫に・・・」


 ・・・あ、さらにやっちまった。

 猫の耳を触りながら話をしていたら素が出ていきなり暴走し口走ってしまった。オタク万歳!

 ほら見ろ?彼女の肩がわなわなと震えて、目尻のあたりがピクピクしてるじゃんか。

 言葉で殺される覚悟を決めたところで、彼女の口が開いた。


 「・・・そうなんですよ・・・」


 ん、小声で聞こえないんだけど?


 「そうなんですよ!!美少女ゲームばかりやってるキモオタの陰キャだと思っていたけどあなたもファンタジーの神髄をよくわかってるじゃないですか!そもそも猫耳とは萌えの基本中の基本です!エルフの耳は尖っていますが、けっしてモフモフしていないんです!しかし猫耳キャラはどうでしょうか?必ずと言っていいほど美少女の猫耳を主人公がモフモフする姿!猫耳を触られている間のあの切ない表情!どれをとっても一級品のデレですよ?一度でいいからあんな風にモフモフしてもらいたい!・・・って事で私にモフモフしてみませんか?」


 「・・・はい?猫耳なんて持ってるの?」


 「常識ですよ?さあさあ今準備しますので支度しておいてください」


 ・・・なんの罰ゲームだよ?


 気付けば他のお客さんは見て見ぬふりを決め込んでるし、あろうことか猫さえも少しも近づいてない。


 「準備できました!」


 そこにいるのはもっとも風紀委員からかけ離れた存在。

 眼鏡をはずし猫耳をつけて、制服のブレザーを脱いでブラウスのボタンを胸が見えるギリギリまで外した美少女がそわそわしながら待っている。


 ・・・なんだこれ?


 とりあえず・・・「触っていいのか?」


 「モフモフです」


 「え?耳をその・・触って---」


 「モフモフです。あなたも眼鏡をはずしてください。神聖な儀式ですから」


 絶対にモフモフで通すのね。そゆープレイなのか・・・

 俺は眼鏡をはずすとすぐにモフモフした。早く帰りたい。


 「んっ・・・」


 つけた猫耳に感覚なんてねーだろ!と突っ込もうとすると彼女が目を開けて呟いた。


 「これで主人公がカッコよかったら最高なの・・・キャッ!?」


 おいおいこれ以上は俺の脳内CPUは処理しきれないぞ?

 急に女の子みたいな声出しちゃって、って女の子か。


 「あなた・・・ずるい・・・。ファンタジーのまんまじゃない!冴えないふりして異世界転生者でしょ?合格よ!合格!」


 合格いただきました!さあ帰ろ帰ろと帰り支度をしようとすると---


 「モフモフして!もっとモフモフして!」


 店内を見渡すのも怖くて言われるがままに、ただただ猫耳をモフモフし続けていた・・・

 

 ・・・誰か・・・止めてよ・・・

 

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