第21話 新作ゲーム

 「それじゃあみんな揃ったわね。じゃあ打ち合わせを始めるわよ」

 「なんでお前までいるんだよ」

 「あは、てへぺろ」


 向かいの席に座っている美雲につい冷たい口調で言い放ってしまったが、まったくと言っていいほど気にしていない。なんだそれ?可愛いじゃんか・・・双子でも妹だ。シスコン万歳。


 「美雲ちゃんは隠れレアキャラで登場予定だから。もちろん役はミクだけ・・・」

 「やります!一緒にやります!絶対やります!やらせてください!」


 一番の推しキャラ『ミク』の名前が出ると、自分でも驚くぐらい食い気味になってしまった。だってあのミクだよ?出せばメガヒットの主人公ミクが隠れキャラで出るなんて夢のようだ。


 「男の子の主人公キャラが快斗くんの『カイ』よ。ヒロイン5人をメロメロになるまで攻略してもらう恋愛ゲームなの。5人の女の子たちを攻略するとミクにチャレンジできる仕組みで・・・」

 「早くプレイさせてください!なんならいまからでも構いませんから!」


 生まれてこれほど興奮したことがかつてあっただろうか?・・・・うん普通にある。

 新作ゲームやアニメがでるといつもこんな感じだ。周りを見渡せば北川さんとゲーム関連会社の人たち、美雲と佳純に他4人の女の子たちが若干・・・いや正直かなり引いている。

 すると4人の女の子のひとりが怪訝な顔を隠しもせずに手を挙げる。


 「なんでミクちゃんまで登場する目玉ゲームなのにこんな冴えない人が主人公なんですか?それに言っては何ですがこの分野で新たに似たようなゲームを出してもとてもヒットするとは思えないんですけど?」


 俺の瓶底眼鏡とは違う知的な眼鏡をかけて背中まで伸びるストレートの髪をさらりとかき上げながらまるで風紀委員を彷彿させる容姿の美少女が睨みをきかせて不満をぶちまけた。そのお言葉に先ほどまで頂点に達していたボルテージが氷河期を迎えた夫婦の旦那さんのように下がっていく。もちろん結婚をしたことがないので想像でしかないけど。


 「「  快斗なら大丈夫!! 」」

 「むぅ!?」

 「ふんっ!?」


 ほぼ同時に佳純と美雲が答えてお互いに威嚇しあっている。そんな様子をみんなが興味深そうに眺めながらさらにもう一人の女の子が参戦してきた。


 「なんか面白いじゃないですか!!この手のゲームっていつもイケメンが主人公でプレイしてるのを見ると結局は美男美女だから攻略出来て当たり前って思っちゃうんですよね?その点この陰キャ・・・控えめ人ならプレイヤーが共感しやすいっていうか攻略できなくてだっさ・・・一生懸命になれると思うんです!!」


 おい!?いま陰キャって言いかけたよな?さりげなく俺をディスった?しかも悪気がない感じだし仕事ではもう少し言い回しに気をつけて欲しい。

 あどけない顔立ちと元気いっぱいです!みたいな感じで話す彼女もやはり美少女だ。幼さを少し残しているあたりきっと年下なのだろう。顔をひくひくさせながらここは大人の・・よ、余裕でやり過ごす。


 「あとの二人はどうかしら?」

 「・・・わたしは・・・その・・・お任せします・・・」

 「最初から興味ないわ。与えられた仕事をこなすだけよ」


 対極な印象のふたりの反応はある意味俺の事はどうでもいい感じだ。すごく静かな女の子とまったく表情を崩さない鉄仮面のような美少女。放置されたほうがほっとする自分に気付くと少し寂しい気持ちになる。ある程度の意見が出たところで制作会社の人が話を引き取った。


 「じゃあこうしたらどうだろうか?会社としてもミクまで出演させるのだからかなりの額が動いているので失敗するわけにはいかない。必ずヒットさせなくてはいけないのに主人公は無名の新人の男の子。そこで・・・君たちにはリアルで主人公とひとりずつデートをしてもらいたい。そしてその感想やヒロインの気持ち、エピソードを聞きながらフィクション部分も盛り込んだゲームを作っていこうと思う。もちろん主人公は彼女たちを本気で攻略する気持ちでね。もし攻略できなければいったん制作を白紙に戻す。攻略出来たら宣伝としてSNSで情報を少しずつ公開していこうと思う。あ、コンセプトの占いも忘れずにね。占い好きの男子高校生って聞いて珍しいから彼を大抜擢するんだから」


 まさか占い絡みでこの仕事の話がやってきたとは。

 恐るおそる佳純の方を見てみると・・・なんだそのドヤ顔は?『ねっ?』と口元が動いている。

 ・・・がすぐに険しい表情へと変化した。


 「わたしもヒロインで出演できますか?」

 いきなり成り行きで付いてきたのだからそれは土台無理な話だろうと・・・


 「うんその容姿なら問題ない」

 「それならオッケーよ」


 うそ!?関係者並びに北川さんが即答する。やっぱりすげーなこいつ。


 「やった!!快斗はこう見えても『ヒツジの皮をかぶったヤギですから』ひとりじゃ女の子たちが心配だったんです」


 はい!?ヒツジ・・ヤギ・・・想像してみる。メェ~・・・俺ひょっとして可愛いじゃんか・・・。ふつうはオオカミだけど。


 「うん天然枠は彼女で決まりね!快斗くんも良いわよね?」

 「メェ~」


 女の子たちとデートをするプレッシャーから現実逃避をするしかなかった。あ、胃が痛い。

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