第18話 テスト勉強

 進級から約2カ月になる。

 この2カ月の印象と言ったら正直な話、占いの事しか頭に浮かばない。

 何度も言ってるけど俺は健全な男子高校生である。


 しかし今度の行事だけは占いとは無関係だからちょっとホッとしている自分がいた。


 中間テストだ。


 先のランク付けイベントの後に早速ここでテコ入れが行われる。

 今までカーストとは無縁だったのでそんな事実を初めて実感していた。

 上位10位以内から脱落したものはとにかく必死なのだ。

 休み時間や昼食の際でも勉強している姿は普段の生活からはとても想像がつかない。


 「わたし達はいつどこで勉強しようか?」


 本日最後の授業も終わって間もないというのに、隣の席に座る佳純が話かけてきた。


 「やっと授業が終わったばかりだろ。真面目に受けていれば今更焦る必要なんてないはずだが?それとも……授業中に他に夢中になっている事でもあるのか?(占いとか)」


 俺だけが知っていた。

 授業中もコソコソと机の下で何かを見てはその度にチラチラとこちらを伺ってくる姿を。

 きっと占い雑誌を隠し読みしている罪悪感から俺に小言を言われないか恐れているのだ。


 「だって夢中なんだから仕方ないじゃない……(あなたに)」


 口を尖らせて不服そうな顔をしてくるかと思えば、なぜか少し嬉しそうにも見える。


 「……もう……ばか……」


 「………………なんで?」


 授業中占い雑誌に夢中になっているからテスト勉強をしなくてはいけないのに、バカ呼ばわりされてしまった。

 嬉しそうにばかっていう人を初めて見たから少し新鮮ではある。言われて少し心地良く感じるのは何かに目覚めてしまったのかもしれない。

 これがMへの入り口だとしたら踏みとどまらなくてはいけない。


 「じゃあさスタバ行こうよスタバ?そこでじっくり、たっぷり、ねっとり絡みあって勉強しましょう!」


 「別に構わないが…なにがじゃあなんだよ?しかも最後の方はおかしいからそれ!いやらしく聞こえるから!美少女が言っちゃいけないやつだから!」


 しかもなにそのドヤ顔?どこから湧き出てくるのかその自信の根拠が知りたい。どうだ、言ってやったぞ!みたいに勝ち誇っている。


 「・・・もう、すぐ束縛しようとするんだから・・・」


 ・・・だめだ。違うスイッチが入ったらしく全然会話になっていないからこれはバグだ。製造元に連絡して交換を要求したい。製造元はあのお母さんだから無理なのは分かっている。


 * * * *


 佳純の妄想も落ち着き現在はスタバでテスト勉強を行っている。

 ・・・がしかし。


 「30分もせずに終わったね。楽勝楽勝」


 「じゃあなんで来たんだよ?する必要があったのか?」


 もともとカーストの最上位にいる佳純である。自頭は当然いい。

 普段の言動から頭が少し残念な気もしなくはないが、昼食を一緒に取る周りの女子が言うには「鈴木くんがいる時だけだよ。普段は隙も無い完璧超人」と言っていた。


 完璧超人に食いついた俺が「変身できるのかな?」と素で言って、「ア、アニメのことはよくわからない・・」とひかれたのは最近の話である。


 「テスト前にリラックスしないとね?」と嬉しそうな顔をされては反論する気も消え失せてしまった。


 そしてふたりでいつもの占い雑誌を読んで雑談している時だった。

 テーブルの横を通り過ぎようとする3人組の女子高生のひとりと目が合った。

 

 「あれ?もしかして・・・鈴木?」


 まずい奴と出会ってしまった。

 中学の同級生であるたしか・・・田中さんだ。


 「・・・田中さん?」


 「斎藤よ!相変わらずね」


 「ねえ?この眼鏡だれなの?久美の友達?」


 「あっはっは。そんなのありえないでしょ?美雲ちゃんの出がらしの双子のお兄ちゃんだよ」


 あーと言って納得するふたりの友人たち。

 この3人は美雲の通う女子高の同級生なのだろう。しかも田中さん・・もとい斎藤さんは中学では三雲とカースト上位のカルテットを形成していたうちの美少女のひとりだ。


 「へ~こんなおしゃれなカフェにも来れるようになったんだ?これが高校デビューってやつ?前髪も短くしちゃって、しかもいっちょ前に眉毛も整えちゃって笑える!」


 「ま、眉毛のことだけは悪く言うな!大事な人(友達)が一生懸命やってくれたんだ!」


 他はどうだっていい。ただ・・一生懸命やってくれた事を馬鹿にされるのは誰であろうと許せない。


 「な、なによ?中学の時はへらへらしてたのに言い返してくるなんて出がらしのくせに生意気よ!どうせさっきから黙ってるこのブスにやってもらったんでしょ?」


 「・・・我慢。我慢よ佳純。今日の占いでは忍耐があなたを幸せにするって言ってたわ」


 なにやらぶつぶつと独り言を呟く佳純はじっとさっきから小刻みに震えていた。いつもなら真っ先に切れてもおかしくない場面である。


 斎藤が佳純の顔を覗き込んで絶句する。

 我が校ナンバーワンの美少女の顔を見れば当然である。


 「な、なんであなたみたいな人が・・・ははーん。そーゆーこと?」


 ん?どーゆこと?まったく俺にはわからないが・・


 「思わせぶりな態度で勘違いさせて、みんなの前で恥をかかせる気ね。面白そう~!」


 「あなたさっきから何を言ってるのかしら?出がらしですって?この芸術的な陰キャになりきる仮の姿に隠された美少年の事を中学3年間も一緒にいてわからなかったの?」


 いつもの感情的な話し方とは違ってゆっくり冷静な口調で説明すると、不意に俺の眼鏡を取ってしまった。


 「え!?・・・あれ?・・・うそ・・・」


 「お、おい?もういいから行こうぜ。帰ってアニメ・・じゃなくて勉強しないと」


 眼鏡を奪い返してすぐにかけ直し、急いで店を出る。

 後方から「ちょっと待って」と聞こえたような気もするが友人ではないし気にせず佳純の手を引いて足早にその場を去っていった。


 「て、手が・・・」


 「・・手がどうかしたか?ああ悪い。勢いで引っ張っちまった」


 繋いでいた手を放すと少し残念そうな顔をする。

 その離した手をそのまま頭にのせて優しく撫でてしまった。


 「ふぇ!?」


 驚いて変な声を出す佳純に、


 「ありがとな、すっきりしたよ。我慢してえらいえらい」


 さらにサラサラした髪を撫でるとこちらも心地がいい。ゲームでは味わえない感覚で癖になりそうだ。


 我慢をするのは体には悪いけど、時には良いこともあるもんだと思ったふたりであった。

 

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