第17話 5本指の相性診断
昼休みになるとちょっとした変化が訪れる。
いつもであれば佳純やその友人達と一緒に昼食を共にするんだけど、今日は数人の女子が「ご一緒してもいい?」と伺ってきたのだ。さすが佳純は人気があるなと思っているとーーー
なんだか佳純の表情は非常に険しく様子がおかしい。
男子に対しては容赦ないけど、女子に対しては基本的に友好的なはずなのだ。
やって来た中のひとりである早乙女さんは1冊の本を持っていた。
「これをみんでやったら楽しいかと思うんだけど」
そんな事で佳純がーーー
「やる!絶対やる!」
「え!?」
まさかのノリノリモード。
やっぱり早乙女さんとの仲は良好だったのだ。
「昨日の帰りに買った臨時号だよ。今回は主に相性診断的なものが多かったからつい買っちゃった」
ペロっと軽く舌を出し早乙女さんはこちらへ視線を向けてくる。
やば!アニメやゲームみたいに舌を出すのを見るのは3次元ではこれで3人目だ。高校生じゃなくてもそうそういないと思う。
美雲と佳純と早乙女さんは例外なのだ。
美少女にとって舌を出すのは共通の一般常識なのかもしれない。
相性診断か。女子同士でもきっと相性って大事なんだろう。
俺なんかが混ざってしまって大丈夫なのだろうか?一応ひとりだけ男子が混ざってます!と心の中で叫んでみた。
その効果があったか定かではないけど一足先に弁当を食べ終えると、待ってましたと言わんばかりに早乙女さんから雑誌を強引に奪い取った佳純がある1ページを指してくる。
「女性を手の指に例えるならどの指?身近な人で相性を診断してみよう!!だって。当然わたしからね!」
5本の指に例えるって言っても...
しかもあまり考えずにインスピレーションですぐに答えなきゃいけないらしい。
「...う~ん薬指かな?」
「じゃあ次は...わ・た・し」と胸を少し強調しながら前かがみで近寄ってくる早乙女さん。出来れば普通にしゃべりも仕草もして欲しい。目のやり場に困ってしまうので。
「...小指?」
その後も数人の女子に聞かれたけどみんなは人差し指だった。
「それでは結果はっぴょーーーう!!」
まるで有名芸人司会者ばりのノリで佳純が叫ぶ。
それにつられてみんながきゃーきゃー言っている。
...あれ?
これって俺との相性診断しかしてないじゃん。
これはきっと罠だ。俺の深層心理を読み解いて好印象をもった相手は前もって陰キャから自分を守るため警戒できるようにと。
そんな気持ちとは裏腹に順番に発表されていく。
「親指はいなかったわね。お母さん的な存在」
「次は...人数が多かった人差し指ね。友人だって」
人差し指と告げられた数人の女の子たちが浮かない顔をしている。きっとこんな陰キャと友達になりたくないのだ。
それとは対照的に俺はというとーーーやった!友達できたよ!ボッチが長い俺にとってはたとえ相性診断であっても友達は嬉しいのだ。実際は【エアフレンド】でほんとに友達になったわけじゃないけどそれでも嬉しい。心の声が駄々洩れしそうになっていると...
「小指をお願い!」早乙女さんが祈るように懇願している。
「えっと...小指小指。小指はただの小指でした」
「はっ!?」
「「「??????」」」
佳純を除く全員の頭の上には?マークが浮かんでいるし、早乙女さんに限っては聞いたこともないくらい低くドスの利いた声で聞き返す。いつものキャピキャピ声はひょっとして作っているの?
「ごっめーん!冗談よ冗談。盛り上げようと思って」
「なんだ~脅かさないでよ~。びっくりしちゃった~」
「「 ハッハッハッハッハ 」」
お互いに笑っているけど、目が少しも笑っていないので怖い。
ここまで仲がいいと周りを和ませるために緊迫感まで生み出す技術はさすがとしか言いようがない。
さっきの人差し指で重くなった空気を変えようとしてくれたのだ。
カースト上位おそるべし。サプライズのおまけで上位に入った俺とはわけが違う。見習わなくては。
「じゃあ小指ね。小指は...小指は...」その後の言葉がなぜか出てこないので佳純から早乙女さんが雑誌を奪った。
「小指は...愛人!?」
愛の人と書いて愛人。高校生同士で愛人。アイジーン。
いろんな形にしてもさっぱりイメージは湧かなかった。
早乙女さんは困惑してるし、佳純はすごく動揺している。
なんでみんな俺を犯人のように睨むの?冤罪です。
「さ、最後の薬指はどうかな?」このプレッシャーから抜け出すため自分から切り出してみた。
「...そうね。この問題は後で問い詰めるとしてわたしの薬指をみましょう」
問い詰める気満々?俺はやってない!ゲームだって純愛物語とかピュアラブって清い交際ゲームしかやってない!
「薬指は...!?...あの...その...こ・い・び・と...」
最後の方は声が小さくてよく聞こえなかった。
「...む・ら・び・と?」俺が聞き返すと、
「それどこの誰よ!!わたしはRPGの村人Aさんか!!恋人よ恋人!!」
勢いよく反論してきたものの、大声を出したのが恥ずかしかったのか俯いてしまった。
「俺たちは前に占いしてもらって相性がいいって言われたから当然だよな。良かったな(お金高かったしあの占い師が本物で)」
「そんなストレートにみんなの前で喜ばないでよ...」
今日もふたりの世界は良好だった。
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