第14話 体力測定
「垂直跳びか。なんでここまで盛り上がってるんだ?」
「どうやら記録が伸びてきてバスケのゴールまで届くかみたいになってるようよ?」
記録を計測してるうちにどうやらかなりいい記録が出てきて、競い合う形になっているようだ。
「じゃあ俺達の出番だな。佐藤行くぞ」
「よっしゃ!みんな見てろよ」
【りあエンジョイ】の田中と佐藤が前に出る。
そういえば教室で元バスケ部みたいな事を自慢気に言ってた気がするな。
「ふたりとも頑張れー!ほら、りあも応援してあげなよ」
コイツらわざわざ4人で回るのか。女子の前田が早乙女になにか言ってるけど心ここにあらずのようだ。
「快斗も準備しておいてね。あのふたりがこっちをニヤニヤ見て不愉快だわ」
「準備運動しておくよ。跳ぶのは結構得意なんだよ」
佳純が不安そうに俺を見つめてくる。
……俺は運動神経はいい方なんだけど?瓶底眼鏡で球技は見づらくて難しいけどある意味跳ぶのは得意だ。
そんな会話をしている間に何やら歓声が上がった。
どうやら田中と佐藤がゴールに触ったらしい。
まわりに手を上げて歓声に応えるとこちらへとやってくる。
「市川さん見てくれた?そんな運動音痴ほっといて俺らと回ろうよ?」
「気安く話かけないでくれる?それに快斗はスポーツ万能よ!」
「へっ!?跳ぶのは得意だけど……まあいいか」
一緒にいる佳純まで下に見られる訳にはいかないからな。
それにこのルールの垂直跳びは俺には有利だ。
通常は壁に沿って立ち計測するものが、今回は助走もありらしい。
人前で見せるのは初めてだけど……
俺は大きく助走をつけて走り出す。そしてーー
「「うぉおおーーー!!」」
ギャラリーの驚く声が鳴り響く中俺は上から見下ろしていた。
そう、文字通りゴールの上から見下ろしていたのだ。
ゴール下へ降りると佳純と……なぜか早乙女さんまで駆け寄ってくる。
「あんた新体操でもやってたの?あんな助走見た事ないわ。動きは……まるで猿ね」
もう少し褒めてくれてもいい気がするけど……
「俺は人間のつもりなんだが……あれはパルクールだよ。部屋でゲームばっかやってると体がなまるからユーチューブ 見て夜の公園でひとりでいろいろやっててな」
「ユーチューブ って流石は陰キャね」
「だな」
俺と佳純は顔を見合わせて爆笑しているがーー
「すご〜い!超ビックリ〜」
俺とまったく接点のない早乙女さんが近くにいる方がビックリだよ。その喋り方疲れない?
「早乙女さんの仲間はあっちよ?ねぎらってあげたら?」
「市川さん冷たい〜」
ふたりのやりとりを見てゾクっと背筋に寒気が走る。
名字で呼び合ってるとこを見るとカースト上位でもみんなが仲良しではないらしい。
他のギャラリーは俺を指差して、転校生らしい事になっている。さすがにクラスメイトにはバレているけど。
名字は有名な鈴木なんですけど……今まで存在感なさ過ぎてその辺の石ころ程度の認識なのだろう。
「じゃあ次行くよー」
さっさと自分の垂直跳びを終えて、床に線が引いてあるエリアへと向かった。
「あ、待って……」
後ろで呼び止める声が聞こえた気もするけど気のせいだろう。
「反復横跳びなんて高校生にもなってまだやるのね」
「ハンモック横っ飛び?」
彼女は一瞬目をまんまると見開いたかと思うと、腹を抱えて笑い出す。
「なにそれ、あんたまさか反復横跳び知らないの?」
涙を流して笑いながら尋ねてくる。
え?これって一般常識なの?
「悪かったな。やり方教えてくれると助かる」
「そんなむくれないでよ〜。こうやるの、簡単でしょ?」
どうやら線を跨いで左右に動くだけらしい。
あれだけ笑われたのだからなにか仕返しがしたいけど、初めてやるのでそんな余裕はなかった。
どうやら今回は一緒に計測できるらしい。
係の人がスタートの合図をーー
「ちょ、ちょっと快斗?なんでこっち向いてーー」
「スタート!」
こ、これは一言で言えばいろいろ恥ずかしい。
微妙な間隔で佳純と向き合って計測しているのだ。
よく見ると佳純が笑いを我慢して顔が引きつってないだろうか?
「は、早く終わって!もういろんな意味でムリ!!」
なにを言ってるんだ?こっちだっていろんな意味でムリだ。
なぜなら……向かいで計測する佳純の豊かなものが……上下左右へとひっきりなしに動いているのだ。
なんだそれ?スライムでも飼ってるの?
お互いに笑いを堪えながらも、計測を終了する。記録は案外上位だったようだ。
「「あれはないわ〜」」
ふたり同時にそんな台詞を吐いた。
やっぱりふたりはかなり気が合うらしい。
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