第12話 交錯する思惑

 「うん、やっぱり狙い通り前髪さっぱりしたね!」


 「めちゃめちゃ美雲に怒られたけどな。……っておい狙い通りってどーゆー事だよ?」


 相変わらず吹けもしない口笛の真似事をして窓の外を眺めている。


 「と、とにかくせっかくまゆ毛を整えてあげたんだから文句ゆーな!」


 「教室であんまり大声出すなよ。しかもまゆ毛って恥ずかしいだろ……」


 男子が女子にまゆ毛の手入れをしてもらうなんて女子力が高く見られるし、辱めを受けてる感覚しかない。

 案の定男子よりも女子の方が敏感に反応してこっちを見ている。


 ……しかもまゆ毛は占いの為だった気がするけど、俺が頼んで整えてもらった感じになってない?

 教室で宣言され恥ずかしそうに俺が俯いているとーー


 「なんだか…鈴木少し垢抜けた?」


 佳純の友人が俺の顔を覗き込んで声をかけてきた。


 「今日は体力測定だしマスクを外したからだろ」


 「ふーん……それだけにしては……この眼鏡もいっそ外して……」


 「ダ、ダメよ!これを外したら身体中を透視されるわよ!それにあんたも何固まってるのよ!」


 眼鏡を外そうとした友人の手を目にも留まらぬ速さで払うと佳純が俺を睨みつけてくる。


 「俺にそんな羨ましい特殊能力はないはずだが……女の子に真正面から見つめられたら動けなくなった」


 「あんたはヘビに睨まれたカエルか!羨ましいって……そんなに女子の体が見たいならもっと私の体を見なさいよ!」


 「えーと……要約すると透視できるとしたら、佳純の身体をじっくり見ろと?」


 「あっ……」


 自分の失言に気付いたらしく顔を赤くして俯いてしまった。


 「佳純ごめんごめん。鈴木の顔を眼鏡だけ手で隠してみたらイケメンな気がしちゃって。さすが佳純がまゆ毛を手入れしただけあるわ〜」


 「そ、そうでしょ?私のおかげだからね!感謝しなさい」


 どうやら周りの目が相当気になったらしく、久しぶりにカースト最上位の女王がそこには君臨していた。


 「はは〜!あり難きお言葉。姫さまに一生ついていきまする」


 「なに佳純照れちゃってるのよ!あなたらしくのない。乙女か!」


 「だって……一生とか……」


 「鈴木…あんた責任取りなさいよ」


 うぇ!?不意に腹へ拳がめり込んでいる。

 やっぱり3次元の女はこえー。


 朝からこんな平和なやり取りが交わされている一方でーー


 教室の一角では不気味にこちらへ視線を向けているグループがいた。


 通称『りあエンジョイ』


 なぜ「りあ」が平仮名かって?

 それは……


 「また陰キャ中心に騒ぎやがって」


 「りあ?とうとうこの日がきたね?体力測定」


 「俺が陰キャに恥をかかせて、ほんとのリア充教えてやんよ」


 「みんな〜こわいよ〜。でも佳純ちゃんのお気に入りとふたりまとめて恥かかせて静かになってもらおうね」


 【早乙女(さおとめ)りあ】を頂点とするこのクラスのイケメンと美少女のリア充グループ4人組だ。

 クラスには絶対的な美少女の佳純がいるので、2番手として認識されている。


 「陰キャが体力測定で鈍臭いところを見せて恥をかけば、いつも一緒にいる佳純まで今の地位を落とすことになるわ。そしたらわたしがクラスの人気者よ」


 「りあ……心の声がダダ漏れだって」


 「えへへ」


 ただの体力測定が波乱を巻き起こす結果になるとは、この時はまだ誰も知らない。


 「まずは身体測定からだね。快斗覗いちゃダメだからね」


 「いつも透視で体を拝んでるからその必要はないな」


 わざとらしく足元から頭のてっぺんまでゆっくりじっくりと品定めするように眺めていく。

 このパターンが佳純編では最大効果を発揮するのだ。

 ……どうしても佳純を攻略しようと頭が勝手に考えてしまうらしい。


 しかも少し楽しい? 

 なんでだろ?


 そんな考えをめぐらせた為、完全に放置していた佳純は両腕で胸元と下の方を恥ずかしそうに必死にカバーしている。


 アニキャラよりエロくね!?


 「見えるわけねーだろ、冷静になれ」


 「わかってるけど……」


 気付けばクラス中の男子の視線を独り占めしていた。

 普段は他の男子生徒に氷のような塩対応をしているのだからこんなレアな姿を見せる事はない。

 ほんの少しだけ嫌な気持ち?になり声をかける。


 「みんな見てるし着替えに行こうぜ」


 佳純の手を握り教室を後にした。 



 「ちょっと……学校で手繋ぐのはさすがに恥ずかしいよ……」


 「あっ!」


 つい勢いで更衣室の前までこのまま来てしまった。


 クラスの連中は仲が良い姿をだいぶ見慣れているものの、ひとたびクラスを出ればそれを知っているものは皆無だ。


 男嫌いで有名な学校で一番の美少女が、瓶底眼鏡の陰キャと手を繋いでいれば目立たないわけがない。


 「おいあれ…」


 「ちょっと見て…」


 ……予想通りの反応だけど、なんで俺の顔見て笑うんだよ。

 しかも……一緒にいる佳純まで笑われているみたいだ。

 目立つのは嫌いだけど、馬鹿にされるのはもっと嫌いだ。

 それが俺のせいでカースト最上位の佳純まで……


 たまにはラノベ勇者モードの気分でストレス発散するか。


 「よし!発散するぞ!」


 ……ん?

 ……んんん?


 なんで下着姿の女子高生がたくさんいるの?


 「キャー!覗きよー!!」


 「ちょっと快斗!なにどうどうと女子更衣室入ってんのよ!性欲発散してんじゃないわよ!」


 …………うわーーー!!!やっちまった!


 「ご馳走さまでした!」


 「なにさらに御礼言ってんのよ!」


 テンパって失礼しましたと間違えた……


 名実ともにカースト最下位からモテ男になれるんだろうか?

 とりあえず保健室の健康診断へトボトボ歩く快斗だった。

 

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