第10話 佳純家
「じゃじゃーん!ここが我が家だよ」
「うお!でけーな!……じゃなくてなんで佳純の家に連れて来られてんの?」
「それ聞く?普通聞く?ほんと陰キャは野暮なんだから」
ただお互いのまゆ毛を整えるだけなのにここまで言われるって事は、おそらく女子にとってのまゆ毛は他のものには変えられない特別な意味のあるものなのだろう。
「まさかラブコメゲームでお決まりの、親不在とかないよな?」
「そんなゲーム知らないしやった事ないし。いるに決まってるでしょ!だれに紹介すると…まったく…何しにきたのよ?」
「まゆ毛整えに?」
……言ってる自分が恥ずかしい。誰かツッコミ入れてくれ。
「だ、だよね〜?まゆ毛まゆ毛」
まゆ毛を連呼しながら目を逸らし口笛を吹いている。
「警察ですか?ここに不審な女子高生がいますので至急……」
「待って待って!白状するから通報だけは…」
『ポーン!まもなく16時ちょうどをお知らせします』
「時報ダイヤルじゃない!!ハメたわね!」
そんなやりとりをしていると、門の方へとひとりの女性がやってきた。
「まあまあまあいらっしゃい。お待ちしてたのよ。佳純からいろいろ聞いているわ。さあさあ入って入って」
凄く綺麗な女性がニコニコしながら家の中へと招き入れてくれた。
「ひょっとして……」
「うちのママよ」
やっぱりそうか。あまりにも若く見え、その美しさにもしかしてお姉さんかと思ったほどに佳純と似ている。
お待ちしてた?
今日突然誘われたはずなのになにかおかしい…
明後日の方向を向いて口笛を吹いているけど、全然吹けてないからそれ。
「と、とにかくまずは私の部屋へ逃げましょう」
手を引かれ小走りで2階の方へと連れて行かれる。
今逃げるって言ったような…
し、しかも……俺があっさり女の子と手を繋いでるだと〜?
アニメだと3話目くらいだよ?ゲームだとほっぺを叩かれるルートだよ?
佳純の部屋だと思われるドアを開けて手を繋いだまま入ると、佳純は突然フリーズする。
顔は真っ赤になりなにやら呟いている。
やばい!なにか呪文を唱え出した!
彼女は実は魔法少女だったのか!
「焦って私から繋いじゃった……」
どうやら魔法界との境を繋いでしまったらしい。
……うん俺の脳内が現状を把握出来ず勝手に現実逃避してる。
「さっきからいったいどうしたんだ?」
「ママに……快斗の話をしてたら紹介しなさいって言われて……しかも手違いで初めての彼氏だと思われてるの……ごめんなさい」
話を聞けば娘の初めての彼氏に興味がありすぎて、ここ数日暴走していたらしい。
「別に謝る事じゃないだろ。俺から彼氏じゃなくて友達ですって言えばいいだけ……ってどうした?」
「きっとバレたら殺される……快斗が」
「そんな大袈裟な。しかもなんで俺?」
「私を躾けたから……つい嬉しくて言っちゃったの」
えーと……躾るって犬や猫じゃあるまいし、そもそも嬉しいって表現をされても。ドMなのはわかったけど、そもそも身に覚えがない。
これはどんなフラグが立ってるの?
正解ルートがまったく見つからない。裏ルートですか?
「ママを騙すしか生き残る道はないと思って。私と同じで思い込みが激しくて……」
思い込みが激しいのを自覚はしてるのか。……抗議の声を上げようと思った途端、なにやらドアの向こうで足音が聞こえ人の気配がする。
すごい殺気だ。乙女系のFPSゲームなんて聞いたことないです。射殺されないよね?
「や、やっぱり彼女の家とか部屋って緊張するな。お、落ち着いたら後でお母さんを紹介してくれるかな?」
「そ、そうだね。後で勉強終わったらゆっくりお茶しに1階に連れて行くね」
ふたりで話を合わせるとものすごい圧力がスーっと消えてやっと普通に呼吸ができる。アサシンですか?お母さん。
「なんとかごまかせたけど…ところで勉強するの?」
「まさか。まゆ毛でしょ」
そこはまったくぶれないのね。
ようやく当初の目的のまゆ毛占いを始めることになった。
雑誌によると男性と女性で幸運をもたらす形は違うらしく、今回は俺のまゆ毛だけ整えることに。
言われるままに椅子に座り準備をする。
準備と言ってもマスクと眼鏡を外し伸びきった前髪を上げるだけである。
「じゃ、じゃあどんな運気上昇の型にしようかしら?」
やけに息が荒くなりとにかく顔が近い。
あまりに近くて俺の鼻に唇が当たりそうだし、なぜかいい匂いがしてくる。
「ハァ、ハァ……」
「お、おい気合い入れすぎだろ。それにモテ男を目指すんだろ?」
「なに言ってるのよ!そんなにモテたい……あ、そうだったわね。チッ!?」
何故か不機嫌そうに舌打ちをされながらもようやく目的を思い出した佳純は、優しく俺の頭を撫でると表情を一変させて笑顔になった。
「やった…目的達成…」
「占いで目標達成のためにも早くやろうぜ!」
ガタン!!
「ホホホホ、お茶でもどうぞ」
気付いた時には紅茶とケーキを持って部屋の中央まで来ていた。ほんとにクノイチかと思う程の速さだ。
そして椅子に座っている俺と目が合うとーー
「佳純ちょっと来なさい」
真剣な顔をしてふたりで部屋を出て行った。
『なんで彼はわざわざイケメン隠してるのよ?気付かずパッとしない男だと思ったじゃない。とにかくあんな上玉絶対に逃しちゃダメよ』
ドアの向こうでヒソヒソ話してるつもりだろうけど全部聞こえてるし本音がダダ漏れですよお母さん。
イケメンかは分からないけど、目立ちたくないんです。陰キャですから。
しばらくすると不自然な笑顔を浮かべた親子が部屋へと戻ってきた。
「じゃあ後は若いふたりでお楽しみという事で…失礼するわね」
まるでお見合いの仲介役のようなセリフを残して部屋を出て行った。
お楽しみって……高校生の娘を持つ親の言葉とは思えず最後が気になるけど気に入られたようだし安心安心?
肝心のまゆ毛はどうなった?と思いながらも椅子に座わりながら心を落ち着けるのであった。
はぁ〜まだ帰れそうにないらしい……
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