第7話 占い専門誌

 「佳純おはようー。昨日はありがと。いろいろ楽しかったな」 


 「あ、快斗おはよう……うん。そうだね」


 「なんか元気ねーな?どうした?」


 「あのさ昼休みに話があるんだけど、屋上で待ってるからふたりでお昼食べよ?」


 「ああわかった。体調悪いなら無理するなよ」


 昨日はあんなに元気だったのに今朝はまったく元気がない。

 気になるのはまったく視線を合わせてくれない事だ。

 いったいどうしたんだ……?


 ーーー昼休み


 

 無言でお弁当を食べ続ける彼女。

 結局お互いに食べ終わるまで言葉を交わすことはなかった。

 

 「午前中も無口だったしいったいどうしたんだよ?」


 「快斗……わたし……聞きたい事があって。昨日の洋服ってひょっとして女性に選んでもらったの?」


 「な、なんでそれ知ってるんだよ?」


 「やっぱりあれ……快斗なんだ。番組で言われてたから。その……彼女とはやっぱり親しいの?」


 「まじか。親しい……かな。絶対バレないからって言われて一瞬出ただけなのに……服か。昼間と同じ服着てたらそりゃ気付くよな。佳純…今日用事あるか?ちょっと放課後時間くれ。あまり知られたくないけど、関係をハッキリさせておきたい」


 「関係…?わかった……」


 なぜか彼女は絶望的な表情を浮かべて俯いている。

 洋服を自分でコーディネートしなかった事がそんなにショックだったの?

 センスのかけらもない俺には無理だろ。

 秋葉系ファッションしか知らないし。

 勝負ハッピ姿は自信あるけど。

 

 しかし……佳純があれを見てるとは……。

 早めに手を打っておかないと面倒な事になる。

 俺は1通のRINEを素早く送った。


 * * *


 「ここは?」


 「まあ…とりあえず入ってくれ」


 ここは都内にある雑居ビル。

 通常の高校生であればこんな薄暗い怪しい場所には近付きさえもしないだろう。


 俺たちは地下にある固く閉ざされたドアの鍵を開けて中へと入って行く。


 「も、もしかして秘密を知ってしまった私の口封じのために人に言えないようなこんな事やあんな事をさせてビデオで撮って脅す気でしょ!業界って怖いところらしいから……」


 はい?

 怯えるどころか妄想全開で自分で言って顔が真っ赤になってるけど?


 「それとも私に忘れられないくらいの快感を与えて一生性の奴隷にするのが目的なのね!」


 聞いてるこっちが恥ずかしくて悶えてしまいそうになるからもうやめてー。


 「はたまた私にーー」


 「ストップストップ!電気つけるからちょっと待って待って」


 これ以上言わせたら後で彼女が再起不能になる可能性が高いのでここらで止めておく。

 なんだかやってもいないのに自分が犯罪者の心理になりそうで怖い。

 電気をつけて明かりがつくとそこはーー


 「スタジオ?ひょっとして私に無理矢理いい声出させて録音ーー」


 「待った待った!まったく……ここは俺が手伝ってるバイト先のスタジオだよ。アニメの吹き替えを録画するところだよ」


 すると部屋の入り口の方から物音が聞こえ、スタジオのドアが開く。


 「ヤッホー快斗!言われた通りに来たニャン!」


 笑顔で猫マネポーズを取る美少女がそこには立っている。


 「急に呼んで悪かったな。ちょっと緊急事態がはっせーーおいいきなり抱きついてくるなよ!人前だぞ?」


 「いいでしょ〜。私達の仲じゃな〜い」


 やめろって佳純が鬼のような顔して……ない?

 なんだか寂しそうな顔をしている。


 「あんた達の関係をハッキリさせたかったんでしょ?」


 「じゃあ快斗と別れてくれる?」


 勝手に話をふたりで進めていくなよついていけないだろ。


 「二股なんてまっぴらごめんよ。女に二言はないわ」


 「……やったー!!いいのー。快斗はどうせわかってないんだから黙ってて!」


 俺が間に入ろうとするが怒られてしまった。

 佳純が俺を睨んでいるけどまったく状況が把握出来ない。


 「じゃあそーゆーことで!私は鈴木美雲(すずきみくも)。」


 「え?鈴木って……」


 「ああ俺の双子の妹なんだよ。アニメの人気声優で最近だとアイドルっぽく扱われてる。俺も吹き替えとか歌をバイトを手伝ってるんだ。ほらうちの学校バイトはいいけど芸能活動はうるさいだろ?バイトだから大丈夫だと思うけどいろいろ面倒に巻き込まれたくなくて。何より目立ちたくない!」


 佳純はポカンと口を開けて呆気にとられている。

 そりゃそうだ。人気絶頂のアイドルが目の前に突然現れたのだから。


 「だ、騙したわね〜。快斗のことじゃないわよ!」


 不穏な空気を感じて仲裁に入ろうとしたらまた怒られた。

 ひょっとして怒られキャラ?


 「じゃあお付き合いはこれで終わりだね〜。あは」


 「うううう……」


 なんで佳純がうなだれてるのか分からないが、お互いの第一印象はあまり良くない。

 

 「ミクちゃんて……快斗の好きなキャラクターそのまんまの外見なんだね?」


 「佳純ちゃんもポニーテールに白いリボンなんだねー」


 「「うふふふふ……」」


 やっと笑いあって打ち解けてくれたか。


 「仲良くなったみたいだな」


 「「うっさい!!」」


 なんでまた怒るんだよ。しかもハモってるし。仲良いじゃんか。


 「それより快斗もいい加減諦めて同じ事務所に所属しようよ〜?マネージャーからも説得頼まれてるんだから〜」


 「やだよ絶対。見かけも心も陰キャだしとにかく目立ちたくないって何度も言ってるだろ」


 すると美雲がニヤリと笑う。


 「佳純ちゃん……快斗の眼鏡外したとこ見た事ある?」


 「委員の時に……一瞬だけ。ちゃんと見た事はないけどコイツは外見より内面がいい奴だからどうでもいい」


 え?あの時見られてた?コイツってどいつ?俺?

 でも……内面を褒められるのはかなり嬉しい。


 「合格!見た目すごく可愛いのに見る目あるじゃない。友達として引き続き付き合ってあげて。友達として」


 美雲なんで友達2回言ったんだよ。

 佳純なんで失敗したーみたいな顔すんだよ。

 嫌々の友達みたいで地味に傷つくから。ガラスのハートがヒビどころか木っ端微塵だから。


 「じゃあそろそろ私は事務所戻らなきゃだから行くね。このお兄は相当な鈍感野郎だから他の女子から良く見張っておいてね。眼鏡は外さない約束になってるから。じゃあ快斗おうちに帰ったら一緒にお風呂ね!じゃあ!」


 お風呂なんて小学生から一緒に入ってねーだろ。

 そんなの誰も信じるわけねーし。


 「ふ、双子って高校生でも一緒にお風呂入るんだ?とんだブタ野郎ね」


 はい!純粋な子見つけましたー。

 信じきって耳まで真っ赤になってるじゃん。

 それに死んだ魚のような目で俺を見ないでくれ餌のブタじゃないから。動物は大切にしよう。


 「入るわけないだろ。美雲に揶揄われたんだよ。なんでかわかんねーけど」


 「私への挑戦って訳ね。こうなったら意地でも快斗から離れないんだから。彼女としてじゃないけどよろしくね。必ず返り咲くわ」


 ……美雲に言われてどうやら監視役としての自覚が芽生えたらしい。


 「それじゃあそろそろ……」


 「何言ってるの!こんな時は占いよ!」


 こんな時ってどんな時だよ?


 * * *


 

 ……その後俺たちは本屋で買った雑誌を手にそこから程近いカフェに入った。

 スタジオを出てからは佳純の容赦のない質問攻めにあったのは言うまでもない。


 「なるほど。あなたの好きなキャラがアニメ化される時に美雲ちゃんがミクの声優オーディション受けて、ブレイクしたのね。私はてっきりとんだシスコン野郎が妹にキャラ設定を強要してるのかと思ったわ!」


 「そんな誤解される言い方店中に聞こえるように言わないでくれ……しかも後半だけ大声で」


 店中のみんなが俺を見てヒソヒソしてる。


 「わざとだもーん。絶対元鞘に戻るんだから」


 元鞘ってもともと何かあったのか疑問だけど、今は聞く雰囲気ではないのは俺でも肌で感じてやめておく。


 今回購入した雑誌は占い専門誌である。

 1日1占いをする気らしい。

 ちなみに1日1膳みたいって言ったら怒られた。


 じゃあ今日はこれね!

 

 『夢占い』


 夢で出てきた内容で占うらしいけど……そんな都合よく占いって見れるの?


 「はい。私が使ってるアロマ分けてあげるから今晩はリラックスして寝てね。それとこれも」


 スマホの着信音が鳴る。佳純からのメッセージが届き開くと佳純の写真だった。


 「これで洗脳……誘導して夢を見やすくなるといいけど」


 最初に洗脳って言ったよね?素早く言い直したけど。


 「じゃあ私の方は……快斗眼鏡外して」


 「えっ!?」


 「数秒でいいから外して」


 俺は渋々と瓶底眼鏡を外した。


 佳純が俺のありのままの素顔を見て……フリーズ。

 少し待っても何処かへダイブしてるらしくなかなか戻って来ないので声をかける。


 「佳純どうした?」


 ハッと我にかえると、さっきまでずっと俺の顔を見てた瞳は右往左往し頬がピンク色に染まる。

 自分ではまあまあイケてる陰キャと思っていたけど、目も合わせてくれなくなるほど興味ないらしい。傷つくな…。


 その後もあまりにも佳純がボーッとして眠そうなので早く帰って夢を見れるようにと切り上げた。

  

 さあ今夜はどんな夢を見られるのやら。


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