第6話 占いデート
日曜日のお昼時ともなれば、若者に大人気のカフェは人で溢れている。
俺達の現在いるお店も例外ではない。
ただ一つ違いがあるとすれば、周りの賑やかな雰囲気の中でこのテーブルだけは静まりかえっている事ぐらいだ。
「相性がかなりいいみたいで良かったな?」
「…………」
「勝手に物事が進むらしいって理想だよな?」
「…………女の影」
俺の問いかけはなかったとばかりにさながら殺し屋のような目つきでこちらを睨んでくる。
ごめんなさい。まだなにもしてないので冤罪ですが……
「それはきっと純恋や妹の事だろう?なんなら占いでモテ男目指すのやめようぜ」
占いでモテるなら全国の陰キャはみんな妄想の恋人なんて作らないだろ。
ポニーテール美少女のミクちゃんだけは特別だけど。
「それは……究極の選択ね。占いの素晴らしさをもっと知ってもらいたいもの」
どんだけ占い中心の生活をおくってんだよ。
「それなら目的を変えようぜ。モテ男になるためじゃなくていい男になる為の自分磨き的な?」
わかってる。自分でもなにを言ってるのかさっぱりわからない。
「そ、そうね……私がいればもうモテる意味ないものね。男を磨いて寄ってくる子がいるなら断ればいいだけだしね」
納得しちゃうのかよ!?
その上お断り前提になってんだけど?
男女の友達関係って難しいんだな。
さっきまでの殺人鬼のような目つきがトロンと遠くを見つめて潤い穏やかな表情を浮かべている。とても同一人物とは思えないほど一変してご機嫌のようだ。
俺にとってはモテる意味あるんですけど……まあ2次元と違ってメリットをさほど感じないのでよしとしよう。
何より佳純が怖いんだもん。男にはない日があるからイライラしてる?女子友って難しい。
他に友達いないんだけど。グハッ!
ひとりでダメージを削られているとーー
「お待たせいたしました〜。らぶラテとBLT サンドです」
店員の女の子が持って来たのは、BLTサンドと大きなカフェオレボウルに入っているカフェラテが1つだけだった。
BLTサンドは2つにカットされているからシェアするのはわかるけど、この大きなラテはなんだ?
「らぶラテにした方が安くて量も多いんだってよ。ハートのアートもお二人のらぶらぶ度が大きくなりますよ!って言われて変更しちゃった」
少し恥ずかしそうに一生懸命説明する彼女がなんだか可愛らしかったのでーー
「グッジョブ!」
俺には似合わない返事をする。
周りはカップルだらけで同じカフェオレボウルを注文してるから羨ましかったのだろう。
佳純は「らぶらぶだね」と言って上機嫌に周りのカップルを祝福していた。
しかしこれって……大きすぎてまるで力士の盃みたいじゃね?
陰キャの俺がラテを眺めていると、周りの女子達はハートのアートをスマホのカメラで一生懸命撮っている。
もちろん佳純も例外ではなかった。
「すごいよこのアート!ハートに矢がささってる〜!かわいい〜。一緒に飲んだら快斗の心臓も射抜いちゃうね」
か、かわいい顔して恐ろしい事をさらっと言ってるな。
さっきのお化け屋敷(実際は占い)の壁に掛かってたボーガンで心臓を貫く気なのか。
「それよりこんなカップルだらけのとこで、俺と同じカフェオレボウルシェアしていいのか?お前くらい綺麗な奴と(誰か)付き合ってんだろ?」
「な、なにいきなり直球かますのよ!?付き合ってるからに決まってるでしょ?見せつけてやるんだから!そ、そんな綺麗なんて……不意つくなーー!」
マジかよ!?
彼氏は心配でずっと見張らせてんのか?
ボーガンで俺の心臓狙ってるの彼氏の方かよ。
うっかり俺にバレちゃってるし。
しかもわざと嫉妬させてヤキモチ妬かせたいらしい。
まじで射抜かれるのやだからもうやめて。
カーストの頂点やっぱこえーよー。
綺麗なんて俺が言ったもんだから口説かれてると誤解されないか心配で急にキレてるし。
それにしても……
さっきからやたらと視線が突き刺さって痛い。
「ふたりでこれて良かったね?」
「そうだな」
ある意味3人じゃねーか。
「これ飲んだら何処行く?」
「悪い4時からバイトなんだよ」
しまった。用事があるだけでいいのにバイトの事漏らしちゃった。アイツに怒られる……
「そうなんだ……残念。なんのバイト?どこでやってるの?見に行っていい?」
「家族の仕事を手伝ってるだけで、映像関係的な?特殊な場所だから関係者しか入れないんだよ。悪いな」
「……ふーん」
なにか疑われてる?嘘は言ってないよ?
「まあいいか!今日は私もどうしても見たいテレビあるし早く帰るかな〜。月イチで半年前からやってて気に入ってるんだ〜」
「ヘーそんな絶賛するなら俺も今度見てみたいな。じゃあそろそろ行くか?送っていけないけど気をつけて帰れよ?」
「快斗ってほんとに陰キャなの〜?今日一緒にいて女子への気遣いがオタクとは思えないんだけど〜?」
あんまりジト目で俺の目を覗き込まないでくれ。
バイトの話したらつい癖でポロっと言っちゃっただけだから。
「紳士ですから」
「オタクでしょ!」
* * *
ふう。シャワー浴びたらさっぱりしたー。
生まれて初めてのデートで緊張しちゃって、たくさん汗かいちゃったからな〜。学校ではチヤホヤされるけど男子と手も繋いだことないから……
でも超楽しかった。快斗って陰キャだからてっきり引きこもりだと思ってたけど結構センスのいい服着てたりバイトしてるのは驚きだったな。
あ、そろそろユーチューブ の生配信が始まる!
たまたま去年の夏にこのチャンネル見つけたんだっけ。
あの頃は入学してから次から次へと男子に告白されたり先輩に呼び出しされたり、下校中につけられたりで学校が嫌いになってた。
そんな時にこのチャンネルのディオのラブソング聴いてから勇気付けられて、たまたまその歌詞に「どうにもならないならたまには占いに運を任せるのもいいかもね」みたいなのを間に受けて冗談で始めたんだっけ。
それからは優柔不断だった私はハッキリと物事を言えるようになって自分にも自信がついた。
今のわたしがあるのもこのチャンネルのおかげ。
男女ユニットだけど女の子は私と同い歳くらい?
人気声優さんらしいけどアニメをあまり見ない私にはあんまり分からない。
快斗なら詳しそう。うふふ。
男の子はなぜか声だけの出演で絶対に出て来ないミステリアス設定。
超かわいい女の子と外見が釣り合わないから声だけなのかな?人間外見じゃないしほんとにいい声してるから胸を張って出て欲しいと思っていたらーー
『みなさんこんにちは!今日はサプライズで歌ってる最中に一瞬だけカイが映るから楽しみにしてねー』
えええーーー!!大変だ。
今日は瞬きも出来ないじゃん。
もちろん後で再生も出来るけど本物のファンとしては生配信で見てこそだし。一瞬って1秒くらいかな?
ヤバイ!ドキドキして来ちゃったよ……
これは浮気じゃないよね?
他の男の子にときめいてる訳じゃないんだからね。
でも…快斗ごめんなさい。一応心の中で謝っておこう。
いけないいけない歌に集中しなきゃ。
ミクちゃんやっぱり可愛いなぁ〜。
歌も上手いし笑顔がとっても素敵だし。
カイはわざと目立たないように歌ってるけど、ミクちゃんへの気遣いと優しさが伝わってくる。私の理想の男性像なんだよね。
あれ?ミクちゃんが珍しくウインクした!
サプライズの合図かも!?
今日はスマホじゃなくテレビでユーチューブ を見てるわたしは画面にかじりついている。
さあカイいらっしゃい!!
画面が一瞬切り替わるとーー
目には仮面舞踏会でつけるようなマスクをした男性がギターを弾きながら歌っている。
すごいすごい!
カイって生でギター弾いて歌ってたんだ?
しかも顔はマスクでハッキリ見えないけど多分イケメンっぽい感じがする。
だって全体的な感じは太ってないし背もそれなりに高いしーー
あれ!?えっ!?うそ!?
3秒程で画面は切り変わったけど私の頭は切り替わっていなかった。
そこにはさっきまで人生初めてのデートをした相手と同じ服を着ているアーティストが映っていた…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます