第4話 キノコ占い

 最近の私はいったいどうしてしまったのだろう。

 ま、まさか……これが上半期最大の占い結果である『運命の出会い』なの?


 しかもよりによってあんな陰キャ……


 出会いはクラス替えの隣の席になっただけのごく平凡なものだった。

 先に席に着いていたアイツは見るからに陰キャの中の陰キャ。なにやら熱心に雑誌を読んでいた。


 どうせコイツもヘラヘラして媚びてくるに決まってる。

 

 高校に入学してからやたらと男子から声をかけられるようになった。

 それというのも中学では幼児だの小学生だのと言われていた私だったけど3年生の秋頃から急激に成長していったから。


 最初のうちはちやほやされて満更でもなかった。

 ただ…見かけが変わるだけで次々といろいろな人が声をかけてくるから昔の自分を否定されている気分にさせられた。


 やがてモテるようになった私を妬む女子が現れた。

 

 『男子に色目を使ってる』


 そんな噂が流れるようになった。


 もちろん勝手に告白してくるだけで私には特別な感情などないのに。

 いつしか男子は私を特別扱いして媚びを売るようになった。

 私の内面を見ようともせず、こちらの気持ちを理解しようともしない。外見だけで相手を選ぶような男子に興味がなくなった。なくなったはずなのに……


 いろいろ考えても仕方ないか。

 平凡だった高校生活が楽しくなってきた事だし、明日もいろいろ占っちゃおうっと!


 * * *


 「快斗おっはよー!」


 「おう佳純。朝っぱらから超元気いいな」


 「天気も良いし絶好の占い日和だからね!」


 え?占いって天気とか関係あるの?幸楽日和的な感じ?

 占いって案外奥が深いんだね……


 「それで今日は何するんだよ?」


 「今日はキノコ占いだよ!!」


 「キノコ?カレーみたいに占うの?」


 「違うよーん。私の尊敬するマツタケ先生が占ってスマホサイトで公開してるのよ」


 マツタケ先生のキノコ占いって。

 ここは笑うとこだよね?笑っていいんだよね?

 でも尊敬してるらしいし…俺は今何に試されてんだ?


 「へー!マイタケ先生もいたりして」


 「……マイタケ?だとー」


 なんだこの緊張感は!?

 背筋が凍りつくような張り詰めた空気で理解した。

 たった一文字違うだけで触れてはいけなかったらしい。

 マツタケとマイタケは値段が何倍も違うのだから、きっと比べてはいけないのだ。


 「マイタケは昔から苦手で食べれないのよね」


 「それだけかよ!二番煎じの先生とかそんなエピソードあんのかと思ったよ!」


 「えへ!ごめんね」


 軽く舌をだして彼女は笑う。最初より女の子っぽく感じるのは気のせいだろうか?


 「じゃあアイポン出して〜。それでキノコ占いのサイト開いたら日別、月別、上半期の占いが出てるから生年月日を入力するだけよ。上半期の方は星座で調べてね。確か快斗は獅子座だったわね」


 「俺が獅子座なのよく知ってるな」


 「ぜ、前世占いの時に誕生日聞いたじゃないの。モ、モテ男にする為にちょっと気になって調べておいただけよ」


 ほんとに人のために一生懸命なやつだ。

 モテ男になりたいとは未だに思えないけど、今日も付き合ってやるか。


 「まずは上半期の占いからだな」


 占いによると獅子座の人は本気で信用されればとことん最後まで向き合っていく傾向にあるらしい。

 これまでの時間を大切にしつつ、これからの時間を大切にする事がもっとも重要になるらしい。


 俺そんな大それた人間じゃないし信用されるわけねー。

 とことん最後までってギャルゲーはエンディングまで必ず見てますはい。ただの陰キャですから。

 これまでの時間を大切にって陰キャの俺の時間なんてとても声に出して言える内容じゃないんだけど……


 「ほほーう。最後まで…昔の時間も将来も大切に…」


 「なー?なんで俺の占い結果そんなに細くメモしてるんだよ?」


 「ほぇ?こ、これは傾向と対策よ!」


 ラノベ以外でほぇ?って返事するリアルなやつ初めて見たよ。

 傾向と対策ってまるでテスト勉強並みの気合いの入れ方だな。やっぱりマツタケ先生ってすげーんだきっと。


 「ところで佳純の上半期の運勢はどうだったんだよ?今回は自分だけ逃げるの許さねーぞ。全部白状してもらおうか」


 「な、なによ!私の全てを知りたいなんてこのスケベ!変態!」


 やめろーーー!!

 お前みたいな目立つ美少女がそんな事言ったらきっとーー


 「なに市川さん!こいつに何かされたの?」


 「いつかやらかすと思ってたんだよ」


 「こんな陰キャと仲良くするからだよ。お前あっちいけよ!」


 新学期からここまでずっと様子を見ていたハイエナどもがここぞとばかりにやってきたじゃねーか。

 初日からお前と仲良くなったから、すっかり男子から目の敵にされてるんだぞ。


 学校中に俺がポニーテールが大好きだとか、3次元より2次元にしか興味ないとか言いふらしてるんだよ?アニメキャラはロリ系が好きとか言いふらしてんだよ?


 でも……それっていったい誰得なの?



 ーーーすると


 「ちょっとキモいから許可なく話かけてこないでよ。目障りだから富士山の樹海で消えてくれない?」


 「ほらお前さっさと消えろってさ」


 「はぁ〜?あんた達がエベレストで行方不明になれって言ってんだけど?」


 なんだかどんどん高い山になってるんですけど?

 エベレストってビックフットいるんだっけ?

 でも俺なんかの為にここまで怒るって、ほんといい奴だな。


 すごすごと退散していくハイエナ達はどうやら餌にありつけなかったようだ。


 「じゃあ今日のキノコ占い見よっか?」


 変わり身さすがに早すぎるだろ。

 やっぱ3次元女子こわ!

 さらに自分の占いの件無かった事になってるけど、俺もエベレスト探索行きたくないからしつこく聞くのはやめておこう。

 いま気付いたけどこんなやつと俺はタメ口聞いてたなんて……

 勝手に呼吸してすいません。

 生きててすいません。


 「そうですね。キノコ占い見ましょうか?」


 「なんで敬語なのよ?」


 「うーんわかんない」


 再びアイポンで今日のキノコ占いを開く。


 「俺の運勢は…来訪者来たるも嵐の予兆なり……へっ?」


 いつから冒険物語になったのこれ?

 ひょっとしてこれから勇者として旅に……


 「ちょっと待ってよ?私の運勢も似たようなもんよ?来訪者来たる時から戦いが始まるだって」

 

 「悪役令嬢なにかやっただろう?」


 「下僕こそ何か恨まれてんじゃないの?」


 「ワタシニハサッパリワカリマセーン」


 「外国人風に言っただけでメチャメチャ日本語じゃない!とにかく来訪者とやらを待ちましょう」



 そして……その時はやってきた。


 ーーー3時限目終わりの休み時間


 「あのー鈴木くんいますかー?」


 廊下からひょっこりと女の子が顔を覗かせている。

 あれは美化委員の……


 探し人を見つけた女の子は笑顔でこちらへと歩いてくる。


 「さっき家庭科で作ったシフォンケーキを持ってきたの。この間のお礼がしたくて」


 たしか2組の高橋さん。

 

 わざわざ他のクラスに手作りケーキを持って来るなんて女子力高過ぎじゃない?

 陰キャの俺でも勘違いしちゃうから恩を返すのもほどほどにね。


 隣の佳純なんかあまりに感激して口をパクパクさせて声も出ないらしい。

 

 「迷惑かけたのはこっちだろ。それに陰キャがうつるぞ」


 「あーその声やっぱやばい。うつされちゃおっかな?なんてね。じゃあお昼にでも食べてね。またね!」


 「ああ!またゴミ拾いで」


 いい事をすると自分にかえってくるもんだな。

 佳純とお昼に一緒に食べるか。


 「嵐の前兆なんて今日はなかったな?」


 「なに嬉しそうな顔してんのよ!」


 「なにぷりぷりしてんだ?そりゃあ占いの成果?があったらやっぱ嬉しいだろ。今回はお礼だからモテ男ではないけど一歩前進だよな?イラスト集へ前進!佳純にガンガン行くぜ!」


 あ、テンション上がって間違えた。

 佳純と占いガンガン行くぜだった。

 早くイラスト集返してもらいたいからな。


 ……おい佳純。

 今まですごくぷりぷりしてたのになんで急に俯いて小刻みに震えてんだよ。

 トイレは我慢したらダメだからね。もう高校生なんだから。


 「わざわざ大勢の前で、(わたしに)ガンガン行くって宣言するなんて、は、反則じゃない!嬉しいけど……」


 「そうか!そんなに喜んでくれるか!俺たちふたりならきっと最後までやり遂げられる筈だよな!」


 「もう!急にぐいぐい来ないでよ。最後までって、高校生なのに…でも快斗が望むなら……」


 い、いったいどうしたんだ?

 怒ってるのかと思えば、ふにゃふにゃになっちゃうし。

 トイレ我慢しすぎてお顔が真っ赤ですよ?


 「じゃあこれからも付き合ってくれ?」


 「はい……」


 こうして俺は自分のあずかり知らないところで彼女持ちになっているらしい。


 こんな可愛い彼女がいるのに気付くのはだいぶ先の話だったとか。

 


 

 


  


 

 


 

 


 


 


 



 



 

 

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