第3話 カレー占い
「あんた毎朝の『バッチリテレビ』で今日の占いコーナーちゃんと見てる?」
「男子高校生はあんまり見ねーだろう普通は」
「相変わらず素人は……」
眉間のシワを摘むような仕草をされて毎度の事だけど、イラッっとくる。
毎日の占いコーナーをワクワクしながら見る自分を皆さん想像できますか?
「近頃のもやし系男子が女子を攻略する方法。それは占いしかないでしょ!」
「力説してるとこ悪いんだが、もやし系じゃなくて草食系だからそれ。もやしは安くてシャキシャキ食感がたまらないけど個人的には空芯菜炒めの方が好きだから」
「あんたのタイ料理好きはわかったわよ!占いとは関係ないけど」
「先生にはタイ料理も占いも関係ないんだが?」
気付けば俺たちの目の前に先生が立っていた。
そういえば授業中だった。
「「すいません……」」
昼休みになるといつものように女子達がお弁当を持ってこちらに集まってくるがーー
「みんなごめん!今日はこれと学食のカレー食べる予定なの」
「これってさすがに可哀想だよ佳純ちゃん」
「これはこれよー!」
いやいやそこで小指を立てるのは間違ってるぞおい。
いったいどこで覚えたんだよこのポンコツは。
「ほら!急がないと混んじゃうわよ!」
「へーいへーい」
「返事は1回!」
「へい!」
「はいでしょそこは!」
強引に腕を掴まれて食堂へ連行される。
「あのふたり…特に佳純ちゃんが美化委員の活動後からさらにべったりになってない?」
「本人も無意識みたいだし気になるけどそっと見守ってあげよう」
教室ではそんな会話がされている事を俺たちは知らなかった。
「それで?この大盛りカレーライスでどう占うんだよ?」
「いま聞いちゃう?それを占う前にいま聞いちゃう?まったく……」
「素人だからな」
決めゼリフを先に言ってやった。
すると……頬を大きく膨らませてふて腐れ気味に抗議をしてくる。
「先生食べ終わったら教えてくださいね」
「す、素直じゃない。じゃあ後で教えてあげるざます」
かけてもいない眼鏡をかけ直すような仕草をするおちゃらけた彼女は少しだけかわいい。
気を取り直して大盛りカレーライスにかぶりつこうと辺りを見渡すとーー
食堂にいる生徒の視線はほとんど俺たちに注がれていた。
校内最上位のカースト美少女と冴えない底辺にいる俺がふたりで昼食を共にしているのだから珍事件なのだ。
みんなの関心はそれだけではなかったらしい。
あの喋る狂気の彼女が、次々といろんな表情をする事に驚いている。
喋る狂気って……口からレーザー光線でも出すのかよ。
「おい。なんだかやけに視線を感じるんだけど俺なんかと飯食べてていいのか?誤解されるぞ?」
「私は自分のしたい事をするだけ。周りなんか気にしないわ。あんた陰キャのくせにチキンね〜」
「俺のはビーフカレーですが何か?」
お互いに謎の不適な笑みを浮かべ合いながら、ようやくカレーをつつく。
食べながら聞くと自分もやってみたいから占いの結果は後で見てみようって事だった。
「ところでなんでお前まで大盛り?」
「負けたくないじゃない」
いったいコイツは何と戦っているんだろう?
「じゃあお腹も空いたし食べよっか?」
「だな。占い方が分からないから自分の食べ方はもちろんお互いの食べ方も良く見ておこうぜ」
カレーの食べ方なんてみんな一緒だろうと思ったらまったく違うらしい。
俺はご飯とルーを代わりばんこに真ん中から食べている。
一方彼女は端のご飯をちょこんとスプーンですくい、これまた端のルーを同じスプーンですくい食べる分だけ混ぜてから食べていた。
いつもの豪快な彼女からすると、外見の美少女ぶりに相応しくなんとも可愛らしい食べ方だ。
「な、なにニヤニヤずっと見てるのよ。そんなガン見されたら恥ずかしいじゃない」
「悪い悪い。かわいい食べ方するから」
突っ込まれた事がさらに恥ずかしくなったのか、耳は赤くなり目が右往左往して泳いでいる。
「ば、馬鹿なこと言ってないでこっちの大盛りカレーも手伝いなさい!やっぱり量が多いわ!」
「むぐぐ!?ぷは。ビックリするから急に人の口にスプーンを突っ込むな。しかも甘口かよ」
「へへーーんだ。そっちのは辛口だっけ?ちょっと毒味してあげてもいいわよ」
「毒だと〜。ならばこの辛口を喰らえ!!」
彼女の口に辛口の洗礼を浴びせてやった。
辛さに悶えてやんの……っておいほんとにレーザー光線出すなよ。実際はご飯粒だけどこっちに飛ばすな。
そんなやりとりをしているとなんだか周りがやけに静まり返っている。
お昼の食堂は大人気で毎日いつでも満席。今日も急いで窓際のテーブルを確保したのだ。
「「あっ!?」」
どうやら人の目など一切気にしない奔放なコイツでも気付いたようだ。
俺たちはらぶらぶカップルがするであろうあの儀式。いわゆる『あーん』を無意識のうちにお互いに、しかもこんな大勢の前で披露していたのだ。
しかも……これって間接キスじゃね!?
ここはコイツにも感づかれる前にせめて『あーん』だけを強調して誤魔化そう。
「俺のーー」
「い、今のはノーカウントだよね!絶対ノーカウントだよね?」
「なに急に取り乱してるんだよ。ノーカウントってそもそも『あーん』になっただけーー」
「ファ、」
「ファ?」
「ファーストキスよ!!!」
静まりかえった食堂内にでっけー声が鳴り響く。
コイツなに大声で自爆してんだ!!
しかも俺の考えを吹っ飛ばして、キスのランクを一段階あげやがった!!
あれだけいつも強がってるのにどんだけ乙女なんだよ。
ギャップ萌え?そんな余裕今はない。
「あ、当たり前だろ。これがそうなら全国のみんながペットボトルの回し飲みでファーストキス奪われてるぞ」
「そ、そうよね。せいぜい間接キス止まりよね」
結局振り出しに戻ってんじゃねーか……
いい加減キスから離れろよ。
しかも顔が真っ赤だぞ。俺も顔から火が出そうだよ…
辛口カレーのせい?
「か、間接キスだって相手を意識してるかどうかだろ?」
「な、なーんだ。じゃあアンタみたいないつもボッチでラノベ読んでてアニメ好きでロリキャラに夢中な人なんか全然意識してないから間接きしゅじゃないわね」
動揺しまくって噛んでんじゃねーか。
しかも大勢の前で俺の赤裸々な趣味を勝手に暴露しないでくれる?
俺のライフポイントもうゼロです。
「きしゅ笑。かすみちゃんはかわいいでしゅねー」
若干意識してしまった俺は冗談でも言って誤魔化したつもりが……
顔から湯気が出るくらいタコのようになってるぞ?
茹でダコの新たな作り方を発見したかもしれない。
「か…みちゃ……すみちゃん……」
なにやら呪文を唱え始めてる。
レーザー光線の次は墨でも吐くかもしれないと思った俺は
カレーの残りも僅かだしギャラリーも多いここは急いで退散
する事にした。
「大盛りはさすがにキツイな?そろそろ教室に戻るか?」
「そ、そうね。勝負は引き分けね。カレー占いは教室でゆっくり結果を見ましょう」
「こんな時でもぶれずに勝負を忘れないってやっぱお前すげーよ」
「おまえじゃない……」
小声で何か呟いた?とにかくこの場から逃げるのが先だ。
* * *
教室に戻ると早速占い結果を確認する。
「まずはあんたからね。真ん中から食べるあなたは子供っぽいところがあります。カレーとご飯を別々に食べるあなたは変わり者で何事にも執着しない特別な感性の持ち主です。
ちょっと付き合いにくい面はありますが、本人に悪意はありません。仲が深まれば理解出来る事がたくさん出てくるでしょう」
「まったく……子供っぽいとか、変わり者ってまさに陰キャの申し子ね。理解してあげるから安心しなさい」
えっ?それって意図的に仲を深めてくれるって事じゃね?
また揶揄うネタかもしれないからスルーしておこう。
「じゃあそっちのいくぞ?食べる分だけ混ぜるあなたは倹約家です。セールやお買い物をするのが上手で計画的にお金を使うことができ、貯金もあるでしょう」
「やだ〜!家庭的でいいお嫁さんになるって言ってるようなもんじゃない〜」
体をクネクネさせてほんとにタコかよ。
ご満悦なとこ悪いが……甘いぞ!ふふふ。
「しかーし!好きな人に貢いでしまう事があります。せっかく節約して貯めた貯金を全て使ってしまうでしょう……ってそんな落ち込むなよ?悪い男に引っかからなければいいだけだろ。何より一途な女子ってすごくいいじゃんか。俺は(一途な女の子)好きだぞ」
「い、いきなりなに口説いてんのよ!騙されないんだからね!」
口説いてねーし、騙してねーし。でも今はネジ飛んじゃってるみたいだから乗ってやろう。
「やっぱりダメか〜。モテ男になるにはまだまだらしい」
「100年早いわよ!」
「あと100年も生きられないよね?それじゃシーラカンスだよね?俺は多分人間だよね?」
「馬鹿じゃないの」
やっといつもの表情になったな。
コイツには暗い顔は似合わないし、女王さまのように振る舞うのが似合ってる。
「あ、あのさ、ちょっといい?隣の席でもう他人でもないんだしさっき食堂で呼んだみたいに……名前で呼んでもいいのよ?ってゆーか呼びなさい」
なるほど。アイツだのコイツだの言って先日も美化委員で誤解されたからか?
「命令かよ。承りましたお嬢様」
「うむ。じゃあ…か、快斗はまだまだ占い修行しないとね」
何がじゃあなんだよ?日本語勉強しろよ。
そもそも占い修行って目的見失ってない?
俺は雑誌を返して欲しいだけなんだけど。
「そーいえば今日の『バッチリ』の占い結果なんだったの?」
「そんなの内緒に決まってるじゃない!快斗も毎日見なさいよ」
「ほーいほーい」
「ゴキブリ?」
「ほい」
「そこは、ほいほいでしょ!」
ちなみに佳純の朝の占い結果はーー
「気になるあの人と急接近の予感。思い切って名前を呼んで。ラッキーアイテムはカレー」だったとか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます