第39話 告白
「私ね、ずっと好きだったんだよ空(そら)の事が」
「うん」
過去形つまり昔はって事なのか。
しかも空哲ではなく空。
「私ずっと前から一度も会った事がない【奇跡の空】の事が大好きだった。そして恥ずかしくて中々素直になれなかったけど空哲君の事も本当は異性としてずっと前から大好きだったの! 本を読む姿がとてもカッコイイなといつも心の中で思っていました。私があの日言っていた新条空は空哲君の事です! これが私の本当の気持ち! だから私を空哲君の彼女にしてください!」
顔を真っ赤にして叫ぶようにして、ストレートに想いをぶつけてきた白雪の言葉に俺の頭が一瞬フリーズした。
「やっぱり白雪七海も気付いていたんだ。私と同じように本の世界にいるそらにぃが考える事を止めていなかったことに。そしてそれが今の【奇跡の空】だって事に」
そうかつて私と貴女が愛した男はもういない。
だけどかつて愛した男以上に今は魅力がある【奇跡の空】――空哲がいる。
そして多分貴女も私と同じで最初は【奇跡の空】の作品に恋したんだと思う。
それから作品から作者、作者から本人へと心がどんどん揺らいでいったんだと思う。
だから黙ってはいたけど、そらにぃの言う、私が好きな人=【奇跡の空】って言うのはあながち間違いではなかった。そう、大筋は間違っていなかった。そして私が見る限りだけど、それは目の前の女の子――白雪七海にも言えるのではないかと思う。
すぐ近くで見ていた育枝の瞳から涙が零れ落ちる。
私だけが知っている秘密。そして私の人生をこんなにも豊かな物に変えてくれた大切な人。いつも家では見ているだけで幸せになれる私の最高の兄――恋人。そんなカラフルな優越感に慕っていた心が急に涙で色を落としていく。
恋の神様は最後の最後で住原空哲でもなく住原育枝でもなく白雪七海の味方になった瞬間だった。
しばらくすると騒がしかったクラスが沈黙し、緊張感に包まれる。
「チェックメイト」
水巻はボソッと呟く。
なるほど。水巻は俺に協力する振りをして白雪の味方だったってわけか。
流石に逆告白は考えていなかった。
だけどすげー嬉しい。
後は俺の素直な気持ちを伝えるだけ。
人生は物語とよく似ている。
読者が思いつきもしない連続に驚かされ続けるように、人生もまた自分が思いつきもしない連続に驚かされ続けるのだから。
結局俺のこの二週間の努力はある意味無駄だったのかもしれない。
だけど努力したからこそ今の俺がいて、白雪が告白してくれる最高のイベントが発生したのかもしれない。
「七海、本当に俺でいいのか……?」
「は、はい! 空哲君がいいです!」
赤面しながらも白雪がハッキリと答える。
人前では落ち着いているイメージが強い白雪が珍しくテンションが上がっているのか、声のトーンがいつもより高い。
「もうあの時の【奇跡の空】はいない。それでもいいのか?」
俺は確認するように質問をする。
もうあの時、白雪が好きになった【奇跡の空】はいない。
「うん。だって私あの日から本当は気付いていたの。私が本当に好きなのは【奇跡の空】だけど違うって。私が好きなのは住原空哲本人だって。私の本を読んでくれて、それでいて更に良い作品にはするにはって考えてくれる空哲君――【奇跡の空】が今は大好きなんだって」
白雪は俺の目を見て、ハッキリとそう言ってくれた。
だったら男としてもう正直答えるしかない。
「俺はずっと前から――」
白雪が唾を飲み込み、胸の前で祈るようにして手を組む。
「七海のことが――」
俺は素直に自分の想いを伝える。
「大好きだった――」
白雪の表情が明るくなっていく。
「だけど、俺はある事に気付いてしまったんだ」
「あること?」
俺は一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
白雪の顔が不安に包まれる。
「本当は誰とどうしたいかって。でもずっと迷ってたんだ。血は繋がっていないけど兄妹だからそうゆうのはダメだと思って。でもそれこそが俺の偏見であり、間違いだって気付いたんだ。七海もこの気持ち何となくわかってくれると思う……物語の主人公はいつも周りじゃない自分の気持ちだけに素直な事に。そう周りは気にしたらダメなんだ。だからゴメンな。そして俺は今この瞬間、俺の気持ちに素直になる事にしたんだ」
そして俺は後ろで見守ってくれている育枝の方に身体を向ける。
「育枝?」
「な、なに?」
「俺はお前が大好きだ!」
俺は自分の想いを素直に伝える。
そこに中傷と呼ばれる物が今後生まれる事になったとしても俺はもう逃げない。
「育枝がいつも隣にいてくれる事のありがたみに気が付いた。どんな時でも俺を支えてくれて、俺の為に辛いことでも一生懸命頑張ってくれる育枝に気付けば心が惹かれていた。だけど弱虫な俺がそれを受け入れたら世間からまた冷たい視線を受けると思って拒んだ。そのせいで今まで沢山傷つけて、迷惑までかけた本当にごめん。これからも沢山傷つけて、迷惑もかけてしまうかもしれない。だけど俺はもうお前を失いたくない。もっと言えば俺の隣だけにずっといて欲しいんだ! 俺をこれからも支えて欲しいんだ!」
これが俺のありのままの気持ち。
育枝は目を大きくして、驚いている。
こうしてみると、やっぱり今の育枝は最高に可愛い。最初は香水をつけ、髪型を変えているからだと思っていた。だけど違った。本当はずっと憧れていた女の子がここまで尽くしてくれている事がどうしようもなく嬉しかった。そして今日またそんな女の子を昼休み失った。だけど今回はまだ間に合うと確信があった。
そして育枝に気持ちを伝える前に、育枝の目の前で白雪に今の自分の想いをぶつけないと成立しなかった。だって育枝は俺が本気で今も白雪を好きだと思っているから。そして俺もこの気持ちとは踏ん切りを付けないといけなかったから。
何より【奇跡の空】が望んだ俺が主人公の結末は本当に好きな人と最後結ばれる事だった。そう俺が一番辛い時期にいつも側にいてくれたのは育枝だった。そんな育枝に大好きって言ってもらえる度に内心とても嬉しくてドキドキしていた。だから【奇跡の空】はトラウマと向き合い最後は意味がなくなってしまったプロットを書き上げる事に成功した。
俺は正直白雪に惹かれ恋をしていた。
でも今は違う。
義兄妹とかもう関係ない。
俺が今異性として好きなのはただ一人。
「育枝大好きだ! 俺ともう一度……今度は本当の恋人になって欲しい!」
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後書き(という名のご報告)
明日からのエピローグ二話で完結(予定)です。
もうしばらくお付き合いください。
それとここ最近忙しいせいと感想の返信などが(すぐに)出来ない可能性がありますが、ご理解の程よろしくお願いいたします。
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