第三章 仲直り
第29話 最後に勝つのはこの私
――ある女の子の昔話。
むか~しむか~し、ある中学校に一人の可愛い女の子がいました。
女の子は小さい頃から容姿が整っておりとても綺麗でしたが、人見知りのせいで中々友達ができませんでした。
それから女の子は周囲と壁を作り始めた頃を境にいじめを受けるようになり不登校になりました。
そんな時、女の子がある物に興味を持ちました。
それは本の世界。
本の世界は外の世界とは違い、夢と希望に溢れており主人公とヒロインが最後は幸せになるものばかりの夢のような世界でした。
そしてずっと落ち込んでいたけど私もいつかはこんな風に幸せになりたいなと少しずつ心情にも変化が現れ始めました。
そんな時でした。
不登校になった娘を心配していた両親は娘にタブレット端末を買ってあげ、そこでネット小説も読んでみてはと提案しました。
両親の思い通り女の子はすぐに興味を持ちました。
毎日新作が生まれるネット小説は正に楽園のようだと女の子は感じました。
その中で女の子は一人のWeb小説家の作品を見つけます。
その作者は毎回短編を短い期間で完結させる作者でした。
当時はまだ無名と言っても過言ではありませんでしたが、女の子はその作者の作品が好きになりました。言葉では言い表しにくいですが、自分とは違った観点から物事を見て、それでいてどこか説得力があるなと感じたのが好きになったきっかけでした。そしてあるWeb小説家が創作した短編を全部読み終わった頃、ある作品が新作で更新されました。その作品とは『いじめ』をテーマにした作品でした。女の子はその言葉に反応してビクッと一瞬怖くなってしまいましたが勇気を出して読んでみる事にしました。たった一話の短い作品、だけれどもその作品はとても凄い力を持っていました。それは女の子だけでなくすぐに世間にも証明されました。テレビ番組、新聞記事、小説サイト、沢山の小中学校と多くの人達に影響を与える事になりました。そして社会的に注目を浴びたWeb小説家は中学生で自分と同い年である事をテレビを通して女の子は知りました。その時はとても信じられませんでした。だって自分と同い年の人があんなに凄い作品を書けるわけがないと思い込んでいた為です。だけど世間は違いました。そのWeb小説家を賞賛し、褒めました。その時、女の子の中で運命の歯車が音を立てて動き始めました。私もこの人のように本で誰かを救える人間になりたい。
女の子の両親はすぐに彼女が望む物を用意しました。なぜなら今まで何かをしたいと言っても何処か熱を感じられなかった女の子が人生をかけてやりたいと急に言い出したからです。当然人生をかけると言葉だけかもしれないと最初は両親も思っていましたがそれは行動にも出たのですぐにわかりました。
『お母さん! 私今日から学校に行く!』
たった一つの作品――出来事が女の子の全てを変えました。いじめは受け入れるから悪化するので無視すればすぐに収まると知った女の子は本を持って学校に行くことにしました。その後いじめを無視して本を読んでいるとあの作品に書いてあったようにいじめはすぐになくなりました。そうたった一つの作品が社会現象を起こしていたからです。全国の小中学校でアンケートを取った結果十八%いじめが減ったのです。そう女の子だけでなくいじめをしていた小中学生にも大きな影響を与えていたのです。それから女の子はいつか自分もこんな風に多くの人に良い影響を与える作品を作ると心に誓いました。
それから来る日も来る日も毎日本を読んでは書いてを繰り返しました。
そしてWeb小説家【奇跡の空】がいる投稿サイトで同じ土俵に立ち、投稿活動を続けました。それから数日後、女の子は自分が書いた作品を【奇跡の空】が読んだことを感想を通して知りました。
『とても心に残る作品でした。特に主人公が幼馴染に告白するまでの流れがとても良かったです』
感想はとても短かったし、具体的な事は何一つ書かれていなかったけど。
女の子はその感想を貰った時に胸の中が熱を持ち高まり、とても幸せな気持ちになったのです。
それからも作品を更新するたびに足跡を残してくれる【奇跡の空】に想いは募っていくばかりでした。
だけどある日女の子はショックを受ける事になります。
【奇跡の空】の作品に沢山の応援コメントや評価とは別に誹謗中傷と取れるコメントが大量に書かれていたからです。
――嫌な予感がする
その時、女の子は思った。
そしてすぐにその嫌な予感は現実となった。
【奇跡の空】の活動中止である。
だけど女の子は諦めなかった。
今度は私が【奇跡の空】を助ける番だと意気込み、今まで以上に私生活の全てを本につぎ込みました。徹夜で毎日、毎日。そして全ての作品で【奇跡の空】へとメッセージを送り続けました。
もう一度同じ土俵に立ちたい、立って欲しい。
たったそれだけのために。
そして女の子は知った――誰かの為にここまで出来るのは自分が恋をしているからだと。
会った事がない相手。だけど自分の人生を大きく変えてくれた【奇跡の空】を好きになっているのだと気付いたのです。
【奇跡の空】を好きになり更なる奇跡が起きた。
――本を出版しませんか?
神様お願い――奇跡でも偶然でもいい。私と彼を本の世界で結んで。
――【奇跡の空】にどのような形でもいい、一度会わせて!
そしてここから彼女は奇跡を実感する日常を送る事となった。
故に女の子曰く。
――出会いは偶然であって必然ではない。
「まさか……あれが……。トラウマになっていたなんて。これじゃ……私だけじゃない義妹(いもうと)を含んだ多くの人を助けて……犠牲になったようなもんじゃない……」
高校生となった女の子は教室に戻るわけでもなく一人渡り廊下で泣いた。
もし彼女と別れたと言われた時用に作ったプロットを見ながら一人。
『ずっと好きだったんだよ、空』
――しっかりと相手の目を見て。二人きりの時に。その前の雰囲気づくりも大事。
『そっかぁ』
――相手が頷いたのをしっかりと確認してから、一呼吸開ける。
それから上目遣いで、少しもったいぶって空に期待させる。
『だからこれからは同じ世界で私はプロ作家として空はWeb小説家として創作活動をして時に悩み、時に苦労を分かち合い、時に助け合っていこう。それでいつか私と空だけの作品で世界に挑戦しよ!』
――そのまま迷う空に。
『私ずっと前から空の事が大好きだった。そう空哲の事が! だから私を彼女にしてください!』
――多少強引でも可。
ここが一番大事。
もし振られたても。
『だったらずっと待ってるから』
――ここで彼女候補には入る。キープでもいい。まずは入る事。
「私がずっと好きだった……彼はもういない……。私が尊敬し、憧れた存在はもう……いない。本を読む空哲君も本当は大好き……。私の作品を大切にしてくれる……空哲君も大好き……。泣き虫な空哲君も大好き……。だけど何より創作家の空哲君が本当は大好きなの……」
今まで書かないだけかと思っていただけにショックは大きかった。
それに大好きと言う言葉を言うたびに胸が締め付けられ、涙が零れ落ちる。
「最初はやる気がないのに人を応援するなんて最低だなって思った。だけど違ったんだ……。本当は死ぬほど辛い過去と向き合ってまで頑張ってくれてたんだね。本当は誰よりも優しくて親切なんだね……」
この想いをとても心の中だけで留めておくことはできなかった。
「住原空哲も【奇跡の空】も同一人物……なのにどうしても別の人間と思ってしまう私……最低だな」
白雪は自分を責めた。
もしもっと自分が素直で柔軟な女の子だったら彼女になれていたかもしれない、もしかしたら今も隣にいれたかもしれないと思ったから。
「嫌だよ……。義妹(いもうと)じゃなくて私を選んでよ。意地悪な所全部直すから……。空哲君が望むならツンツンもしないし素直になるから……私の事も……もっと見てよ……」
妹――育枝との仲直りは正直して欲しい。
だけどその先に私自身が割って入れる自信がなかった。
「へぇ~それがあんたの本音なんだ、白雪七海」
突然聞こえてきた声に白雪は驚いた。
授業中に保健室がある校舎とクラスを繋ぐ役割をもつ渡り廊下に住原育枝がいる。
どうして? そんな疑問が生まれた。
だけどすぐに先制攻撃をした。
「だったらなに? 私、育枝相手でも負けないから――」
そのまますぐに立ち上がって、震える手を必死になって抑え育枝の目を見る。
育枝を見ると、女の子は負けたくないと思ってしまった。
似たような境遇を持っていて、少しだけ家が同じな分だけ一緒にいられる時間が多い相手。
だけどそんな相手にもヒロインは必ず勝つと相場は決まっている。
「最後に勝つのはこの私――白雪七海よ」
声が震えた。
それでも今出来る精一杯の強がりをして白雪はその場を後にした。
そして育枝の後ろ姿が見えなくなったところで、不安になりまた泣いてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます