第19話 牽制からの進展と変化
前書き
やっと人間関係が動き出したかな……。
少しずつ、だけどそれが今は大事。
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しばらく一人机に伏せていると今日初めての来客がやってきた。本の返却かなと思い顔をあげるとそこには白雪と水巻が立っていた。二人共泣きすぎて腫れた俺の顔を見て、困った様子だったが優しいのか何も聞かないでくれた。
「少し時間いいかしら?」
「うん」
「貴方は一体誰?」
ん? 白雪は何を言っているのだろうか。
全くもって意味がわからない。誰と言われても俺は住原空哲以外の何者でもない。ただ水巻があたふたしている感じからして白雪の機嫌も悪いと見える。まさか俺知らないうちに白雪にまで怒らせる事をしたのだろうか。もしそうだとしたなら今すぐ死にたい。こんな時に育枝だけでなく白雪にまで怒られるとか俺もう……末期な気しかしない。そう思うと俺の目からまた涙が零れはじめた。
「もしかしてタイミング悪かった?」
「いや、気にしないで」
俺がいきなり泣き出したもんだから流石の白雪も少し声が柔らかくなった。
別に気を使わなくてもいいのに。
そしてあろうことか、ポケットから取り出したハンカチで俺の涙を優しくふいてくれた。
「うそ……信じられない」
水巻は目を大きく見開き、開いて閉じなくなった口を両手で隠しながら俺を見ていた。
こんな状況なのに俺の心はドキドキしている。
それも近くで心配そうにして俺の顔をチラチラと見てくれる白雪の少し困った顔が余計に俺の心を刺激してくる。
「バカね。無理なら無理って言いなさい」
「ごめん」
「別にいいわよ。小町ゴメン。先に帰ってていいわ。私は住原空哲が落ち着いてから少し話したい事を話してから帰るから」
「わかった、なら七海お幸せにね」
すると、白雪の目つきが怖い物へと変わる。
「あれ? 怒った?」
「えぇ」
「ふ~ん、いいの? 隣に住原君いるけど?」
俺は急いで『頼むから、余計な事は言わないでくれ』と言おうとしたとき。
「悪かったわよ、は、早く帰りなさい」
「は~い。何か意外だったなぁ~」
そう言いながら水巻が図書室から出ていく。
それによく見ると白雪が照れているようにも見えなくもない。
「うん……?」
そのまま今度は俺の隣に来て、綺麗な細い指で俺の顔を固定してさっきより丁寧に涙を拭いてくれる。白雪の優しさに俺の心はますます白雪を好きになっていく。それに細い指から伝わるひんやりとした感覚がまた何とも最高だった。
「それで何で泣いているの?」
俺は正直に答えるか迷った。
だけど少しだけ話す事にした。
「育枝と喧嘩した」
その時だった。
白雪が少し何か考え始めたかと思いきや、
「喧嘩って、もしかして……」
ボソッと白雪がそんなことを漏らす。
俺が首を傾けると、
「……あぁ、気にしないで」
と牽制してきた。
「少しだけ話しを聞いてくれないか?」
「えぇ、私で良ければ」
白雪は近くにあった椅子を近くまで持ってきて座り、そのまま俺の話しを真剣に聞いてくれた。俺は育枝とは兄妹の事はなしにして、育枝の心配を無視して自分勝手な行動をしたこと、そして育枝の気持ちを何一つ理解できていなかったことを伝えた。
俺の話しを聞く白雪の顔は原稿と向き合っている時と同じぐらいに真剣な表情で途中相槌を打ちながら黙って最後まで聞いてくれた。そして俺が話し終えると、俺の気持ちが落ち着いたタイミングを見計らって口を開いた。
「それは彼女も怒って当然だわ」
だよな……。
俺が育枝の立場だったらと考えると多分俺も育枝が同じ事をしていたら絶対に止めたと思う。だってそこにあるのはリスクだけなんだから。白雪には俺が元Web小説家と言う事も話しの都合上話した。
「そりゃそうだよな……。俺本当に最低な彼氏だよな……」
俺が反省していると、白雪は先ほど俺が渡したプロットをカバンから取り出し見せてきた。
「これを見た時、私はいい意味でゾッとしたわ。だからそのお礼に力を貸してあげるわ。それに私達友達でしょ。ただし条件があるわ」
「条件?」
「戻ってきなさい。本当の本の世界へ」
「えっ…………?」
それって。
俺にもう一度本を書け、と言うことなのか。
「誰も今すぐ書けとは言ってないわ。だって住原空哲は私とは違って素人なのだから時間は沢山あるわ」
だからなんで白雪はこうして俺の心の中を読めるんだ。
「それは顔に出ているからよ。私は普段から人の視線や表情の変化に対してとても敏感なの。小学生の時に色々あってその影響なのだけれど、その時からとても敏感なの」
つまり俺は知らず知らずのうちに表情に出ていたのか。
って事はもしかして俺が白雪の好きなのもバレているのか?
それはマズい。もしそれがバレたら即振られてしまう……。
いや大丈夫、本当に大丈夫? いやきっと大丈夫だろ……?
マズイ。だんだん不安になってきた。
「それで書くの? 書かないの?」
「なら……気が向いた時にでも」
「うん?」
「少なくとも心が落ち着いたら短編だったら書く……かもしれない」
俺は白雪の「だからなんでいつもそう曖昧なのよ?」と言う視線に勝てなかった。だって白雪からそんな目をされたら断れない。
白雪はそのまま俺の顔を真剣に見て、そこに嘘がないかを見極めている感じがした。
「本当に同一人物なのかしら……」
白雪はボソッとそんな事を口にした。
そしてすぐに、
「まぁいいわ。まずは連絡先を交換しましょう。それで相談相手にも今後なってあげるわ。可能ならアドバイスしてあげるわ。だから気軽に連絡してきなさい。私は私のやり方で貴方を救ってあげる」
てかこれ現実なのか!?
いや白雪の連絡先って言ったらクラスではあの水巻しか知らないと噂されている程とても激レアな連絡先だぞ!?
幾ら気分が落ち込んでいるとは言え、そんな事を言われたらテンションがはち切れんばかりの勢いで急上昇なわけで。
今まで何人が連絡先を聞いて断られ、何人いや何十人の男子がこうなったらと告白し振られてきたことやら!
そんな白雪が自ら進んでこんな俺の連絡先を聞きたいとは! これは夢なのか!?
俺は自分の頬っぺたをつねる。とても痛い……つまり現実!
フフッ……アハハ!
ようやく俺の時代がやって来たのかもしれない。
そう、いつもなら育枝ともこのテンションのまま仲直りできてしまいそうなぐらいに俺は一人舞い上がっているはずなのだが……やっぱりいまいち気分がのらない。
やべっ……白雪の「早くして」と目で訴えてきている事にようやく気付いた、俺。
スマートフォンを差し出すと、それを見て白雪が連絡先の入力をしていく。
「ったく世話が焼けるわね。まぁこれくらい安いものだけれど」
「うん、ありがとう」
「一応言っておくけど仮にも彼女がいるんだったら、もう少しビシッとしなさい」
まさか育枝との喧嘩がこのような形で白雪の友達としての仲を深める進展イベントに繋がるとは。恋は好きになった方が負けだと言うが……正にその通りだと思う。
『ほら今がチャンス! 少しは状況を考えて! 私を使うなら使う!』
突然聞こえてきた育枝の声に俺は我に返った。
(そうだった、危うく恋の毒に完全に犯させてしまう所だった)
てか頭の中でも俺怒られるのかよ!
やっぱり俺一人じゃダメだわ。
「今日は話し聞いてくれて助かった。今度お礼する」
「そう? 別に大したことじゃないけど」
「そうなのか? だって原稿で確か忙しいはずなんじゃ?」
「えぇ、さっきまではね。でも今は……ある人の考えを見て、第四のルートが見つかったの。それも私だけにしか書けないルートがね。だから文字起こししている間は多少忙しくて学校は休むけど、住原空哲ぐらいの相手だったらいつでもしてあげるわ。本当は……今日そのお礼を言いたかったの。じゃあね、空哲。気軽に連絡してきなさい。いい? 絶対してくるのよ」
そう言って白雪はカバンを手に取り、図書室を出ていく。
俺は気付いていなかった。
白雪が俺の事を名前で呼び表情がいつもより柔らかくなっていたことに。
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後書き
空哲だけでなく、育枝や白雪の心情にもご注目を頂ければと思います。
特に第二章、第三章は……。
(あくまで作者の独り言。この調子でいけばいい感じに完結するのかなと……)
今日で第一章が終わり明日から第二章へと入ります。
もしよろしければ、ブックマークや評価をお願いします。執筆のモチベーションに繋がります。
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