第17話 自己解決


「スランプって聞いた。何も書けない状態だって。これ、水巻から色々聞いて俺なりに作ってみたから参考にしてくれたら嬉しいです、なら、また」


 ――めっちゃ緊張した。

 やっぱり俺から話しかけに行くのはかなり勇気がいるな。


 俺は後日図書委員の仕事に行く前に俺を迎えに来た育枝と一緒に白雪にコピー用紙を一方的に渡した。これは白雪の為であって水巻の為でもある。そして今日水巻を通して白雪が学校に来ることは予め知っていた。俺はあれから水巻と連絡を何度も取り合いながら出来る限り白雪が何処でどうやって悩んでいるかを聞き続けた。俺に才能なんてない、だからあくまで一人のファンとしてこんな作品があったら面白いのではという提案書みたいな感じでシナリオを書いて渡してみた。そこには三パターンのシナリオを書いた。


 一つ目は王道で作品のタイトル通り主人公が妹と幸せになっていく王道ルート。


 二つ目は主人公がダブルヒロインを好きなまま話しを進めて行くこれもまた王道ルート。


 三つ目はライバルヒロインを更に増やし最後に主人公が皆の前でその一人を選ぶルート。


 本当は他にも考えられる可能性は幾つもあった。だけど俺は敢えてこの三つのルートだけを提案した。そうあくまで俺はファンの一人。誰もが簡単に思いつくルートしか書いていない。これを見て白雪は少しガッカリするだろう。でも恋愛感情以前に作品に関しては俺の私情を入れて作品が変わる事は絶対に阻止をしなければならない。それは読者として当然の配慮である。


 とは言うが、所詮プロから見た素人目線のシナリオ等たいした価値などないだろうが、ないよりかはマシだと思って真剣に書いたのだ。何故かって? そりゃ決まってるだろ。俺も男だ。好きな人の好感度が少しでも上がる可能性があるならそれに乗らない手はないだろう。そう作品へは手を出さないが、白雪自身には手を出す。そしてこれを機に実は水巻だけじゃなくて住原空哲も頼りになるなと思われるようになり、そのままいずれ告白されるわけだ!

 どうだ、この不純な動機を上手く隠した完璧すぎるアピールは!!!!

 更には水巻には協力する変わりに、何か合った時はフォローを頼むと予め保険もかけてある。


 あはははははは……俺ってばこうゆう事に関して言えば天才かもしれない! と豪語していると、育枝が鋭い視線を向けてきた。


「そらにぃ?」

「うん」

「多分バカな妄想をしているんだろうけど、一応言っておくけど、私の案だからね?」

「……っ! わかっております、育枝様」


 そうこれは全部育枝の案なのだ。

 あれから家に帰った俺は育枝にあの後の事を全部伝えた。

 すると育枝がこれは利用するしかないと提案をしてきたのだ。


「ふ~ん。本当にわかってるの? まぁ、白雪七海の好感度が上がってくれればそれでいいけどね」


 チラッとこちらに視線を向けて、微笑む育枝。


「そして最後の最後でやっぱり妹離れ出来ないそらにぃって言う展開が私の願望です!」

「おい! サラッと怖い事を言うなよ」

「あはは~冗談冗談。だから気にしないで。それにしても私いい彼女だよね。そらにぃの好きな人へのアタックにここまで協力してから」

「もう、俺には育枝が何を考えているかがわからん」

「そう? まぁ、そらにぃはおバカさんだもんね。でもそこがそらにぃの場合可愛いんだよね」


 そう言って嬉しそうにして廊下を歩く育枝。

 きっとこの状況が育枝にとっては楽しいのだろう。

 言葉だけで聞くと小馬鹿にされている感じがするが声のトーンを聞けばそうじゃない事がわかる。


「可愛いって俺は男だぞ?」


「知ってるよ。でも私そらにぃ以外にはめったに言わないよ?」


 だから俺はいつも通り返事をした。

 だってその理由を俺は知っているから。まぁ機会があればいつか話すとしよう。


「知ってる」


 そのまま図書室の鍵を開け、中に入ると図書委員専用の受付の椅子に座ってくる育枝。

 まぁ今日は雨で人も少なさそうなので何も言わない事にした。


「それにしても誰も来ないね」

「まぁな。大体雨の日は皆すぐに帰るからな」

「なるほどね~」


 育枝はスマートフォンをいじりながら話しかけてくる。

 俺は見てて器用だなとつい思いながらも、自分も返却された本の整理をしながらだし似たような物かとすぐに自己解決した。

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