第2話 浮気?


 冬が終わり、桜の花びらが舞い散る季節。

 春休みが終わり、今日から新学期と言う事もありクラスは朝からザワザワしている。

 先程始業式が終わり、今は担任の先生が来るまでクラスで自由時間となっている。


 それは緊張と不安。そして新しいクラスに対するドキドキやワクワク感から出来ていた。


 私立蓮華高校。

 進学校であり、制服が可愛いと言う事から地元では女子達から人気がある。俺はただ家から近いからと言う理由だったりするわけだが……。


 周りを見れば去年同じクラスだった人間も何人かいたが、圧倒的に知らない人間の方が多い。その為、俺は今一人寂しく読書をしている。とは言っても俺は本が好きだ。本があれば別に一人でも構わない。のだが。


 隣の席から憐れむような視線を送られているこの状況に俺はどう反応したらいいのだろうか。


 赤の他人を装い無視し続ければいいのか?

 それとも何か反応を示せばいいのかよくわからない。


 まぁとりあえずクラスでは目立ちたくない俺は無視する事にした。

 彼女の視線に答えると男子からの突き刺さるような痛い視線を相手にしなければならない。そのような事になるぐらいなら今は無視しておくに限るだろう。


 本当は少し話しかけてみたい気持ちもあるが、後先考えずに行動してそれが良い方向に進む事はあまりない。これは俺が人生を生きていく中で実体験を通して学んだ事である。それにもし俺と彼女――白雪七海が運命の赤い糸と呼ばれる物で仮に結ばれていたら将来的に何もしなくても結ばれると思っている。運命とは全てが必然であって偶然ではないのだから。


「ねぇ、その本面白いの?」


 人の心を読んでいるのか、人が読書に集中しようとしたタイミングで白雪が話しかけてきた。それも俺にだけ聞こえるか聞こえないかの声で。


「面白いよ」


 俺は本に視線を向けたまま答える。


「へぇ~、浮気?」


 待て。

 浮気ってなんだ?


 俺達は付き合ってもいなければ、将来結婚を誓い合った仲でもない。

 ただ少し話す程度の関係で合って親しい仲ではない。強いて言えば知り合い以上友達未満と言った所だろうか。


「…………」


 何て言えばいいのか、言葉が出てこない。

 俺は本を読む振りをしながら、隣の席に座る白雪に視線をチラッと向ける。

 すると机に伏せるようにして顔だけをこっちに向けていた。


「浮気ではない……というか浮気って?」


「まさか自覚ないの? それは重罪よ?」


 自覚もなにも彼女すら出来た事がない平凡な男子高校生にその言葉はないと思う。

 そもそも浮気とは一般的には、一人の異性だけを愛さず、あの人この人と心を移すことである。

 なので浮気をしていると言う自覚がある方が可笑しいわけなのだが。


「うん。彼女いないから」


「童貞だもんね」


 人の心を抉るように毒を吐く白雪に俺はイラッとした。

 人を童貞呼ばわりするなら、お前はどうなんだと言いたいところではあるが、それはモラルに反する行為な気がしたので自重する。


「……そうですが、なにか?」


「あっ、怒った。うふふっ、すぐに怒って可愛いわね」


「うるさい」


「それで浮気って?」


 話しを戻す。

 これでは埒が明かないので少しばかり相手にすることにしたのだ。


「少なくとも小説を書いているなら、言葉は正しく使え。浮気する相手はいないし、そもそも俺には彼女がいない」


 何を悲しくて俺はこんな事を言わねばならんのだ。

 これでは白雪に彼女いない宣言をして彼女になってくれアピールをしているようなものではないか。事実その意味もあるんだが、それを幾ら小声とは言え、こんな人が多いクラスの中で言う必要はあったのかと思うと、急に緊張して背中に汗をかいてしまった。


「それは私に対する告白? だとしたら大胆ね」


「してない。それで浮気ってどうゆう意味?」


「それ私の本じゃない」


 なる程。

 俺はようやく白雪の言いたい事を理解した。

 恐らく白雪は自分のファンである俺が他の作者が書いた作品を読んでいる事に不満を覚えたのかもしれない。

 作者を一人占めしたいと思う読者が世の中にはいると考えれば、読者を独り占めしたいと思う作者がいても何も不思議ではない。


 先に言っておこう。


 ――俺は白雪が書いた本【も】好きだと!!!!!!!!!!!!!!!


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