第50話 巨大蟹の弱点
いくら魔境ナパジェイでも、その中でも謎の地域ゾーエでも、こんなとんでもない化け蟹が降ってくるような事態に遭遇する想定はしていなかった。
一瞬はこの異常事態に呆然としていたヨルが、やっと短刀を抜き、斬りつける。
しかし、その甲羅は硬すぎた。
歯が立たない、とはまさしくこのことを言うのだろう。カキン、カキン、とヘル・ウォールズの鎧に斬りつけたときのように刃が弾かれるのだ。
「おいリーダー! 指示をくれ! あたしにゃ何をどうしたらいいかまるで分からねえ!!」
「そ、そんなこと言われたって!」
「畜生! 足の関節さえも斬れねえ! どんだけ硬いんだこいつ」
ヒロイも刀を抜いて斬りつけたが、あまりの硬さにハサミから逃げ回るのにやっとになっている。
蟹……カニ……カニの弱点……?
「って、蟹食べたことはあるけど、弱点なんて知らないわよ!」
ユメは自分の思考にツッコミを入れる。
そもそも本来は海や川にいる水生生物である蟹がなぜこんな森の中に現れたのだろう。
「スイちゃん! 火よ! 森ごと焼き払うつもりで奴を火の海で包んでやって!」
「了解! ファイアストーム!」
スイの放った炎の魔法を浴びて、周りの木や葉ごと巨大蟹が火に包まれる。
グルヮアアアアア!
それは、蟹の鳴き声なのか、と言いたくなるような声を上げ、巨大蟹の色が変わっていく。
よかった。やはり熱には弱い!
しかし、蟹の動きはそれだけでは止まらなかった。
ピカーッ、と目が光ったかと思うと、蟹の全身が光に包まれ火傷が癒え始めた。
「あれは、まさか光の回復魔法!?」
オトメが叫ぶ。
蟹はまた元気にハサミを振るった。
ヒロイとヨルがそれぞれ刃で受けたが、それだけだった。
バキューン!
そこに、銃声が響く。
言うまでもない。ハジキが発砲したのだ。
その銃弾は巨大蟹の目玉を捉え、また蟹らしくない悲鳴が轟く。
だが、被弾していない方の目が光を放つと、目玉の傷が癒えていった。
「……ユメ、目、だよ。目があの蟹の弱点」
「目?」
「……スイと同じ。あの目から力を使って魔法を使ってる。それに、銃弾が通った。目なら刃も効くはず」
ハジキがらしくなく長く喋っている。
たしかに、オトメの言うように光の回復魔法を使っているのなら体内に宝石でも持っていない限り、自分の命から使うしかないが……。
実はスイに限らず、人間の体の組織の中で最も宝石に近いのは眼球なのである。
眼球内の、表面奥にある水晶体と、内部を占める硝子体。これらは人間の体の中で例外的に液体でもないのに透明な部分で、ある意味宝石に近いと言える。
眼球の構造はどの生き物でも大して違わないはずだ。
「ヒロイちゃん! ヨルちゃん! 目よ! そいつの目を集中攻撃して!」
「よっしゃ!」
「おうよ!」
やることさえわかれば、二人の剣士の動きに迷いはなくなる。
ヒロイもヨルも、巨大蟹が振ってくるハサミをかわしながら敵の目を集中的に攻め始める。
ハジキも負けじとその合間を縫って蟹の目玉に正確に弾丸を当てていく。
ユメは光線状の炎を巨大蟹の目玉に当て、オトメは時折ハサミの一撃を食らってしまっているヒロイとヨルの回復に回った。
途中、蟹が目からビームのようなものを照射したが、それはヒロイの持つ魔法を反射する盾で逆に目に当て返す。
グおオオオオオオオオオ!
また、蟹が蟹らしくない声を上げて痛がった。やはり、この蟹は「魔法」を使っているのだ。
「今夜のメニューはカニクリームコロッケ!」
スイがそういう詠唱で氷の矢を飛ばし、グサグサと何本も蟹の目玉に突き刺す。
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