第45話 スターホールの城にて
件の城までは海岸についてから歩いて十分ほどだった。ナパジェイ政府は、コンサド島の、ゾーエのここまでにしか手を出すことができなかったのだ。
おそらくリモーアの港から資材を運び込んでよく分かりもしない土地に、現地人の妨害があるかどうかもわからないままとりあえず築城したのだろう。
こんな魔除けみたいな意味ありげな形のお堀にしたのも、きっとまだ見ぬゾーエの地が怖かったのかもしれない。
そして、この五角形の城を足掛かりにしてゾーエに少しづつナパジェイの国土を広げていくつもりだった。しかし、それも数十年前のこと。
いかなる理由でか、ナパジェイは、いや、天上帝はこのスターホール以降のゾーエ入植を諦めている。
そして、とうとう、ユメたち女子力バスターズもスターホールの城に辿り着いた。
辿り着いてしまった。
城門には槍と甲冑で武装した門番がいた。
「何者だ!?」
ナパジェイの共通語で誰何される。
よかった。
とりあえず、言葉が通じなくてコミュニケーションが取れないという事態だけは避けられたようだ。
「わたしたちはナパジェイ本島から来た冒険者です」
ユメが応えると、門番は「またか……」という顔になり、肩をすくめた。
「どうせゾーエで一旗揚げようと期待してきた冒険者だろう。現状を教えてやるから、とりあえず中に入れ」
ひとまず、ここで殺しに来る様子はない。
促されるまま門をくぐり、六人はこの城にいる人数の多さにまず驚いた。
ゾーエに来た冒険者はこのスターホールの城を通り過ぎ、北伐しているのではないのか?
たむろしている冒険者風の男たちは、まずこちらが全員女で、全員年端も行かない少女であることに驚いているようだった。
兎にも角にも、城の中に通された一行は、城中で最も身分が高いと思われる中年の人間の男性に引き合わされた。
「私がこのスターホールの城主、ブヨーという。まず、そなたたちの名と目的を聞いておこうか」
名前の通り、ぶよっと太った情けなさそうな城主はさして偉そうでもなく、ただただ億劫そうに訊いてくる。
「わたしたちは冒険者パーティ、女子力バスターズ。わたしが代表のユメです。目的は、ある程度察しられておられるようですが、ゾーエをナパジェイの国土とし、その成果を天上帝に持ち帰ることです」
ブヨーはあの門番と同じように肩をすくめてうんざりした顔で返してきた。
「見たところ、そなたらは皆若い。子供まで混ざっておるではないか。命を粗末にするではない。今のうちに回れ右し、『何の成果も得られませんでした』と軍に伝えるのだ。そして本島で冒険者を続けるがよい」
「『ゾーエ北伐パーティ選考試合』のことも、なにも聞いていないのですか?」
「なに? 選考試合?」
ユメはゾーエへの北伐の任を与えるパーティを選考するために帝都で試合が開催されたこと、そして、自分たちがその試合で優勝したパーティであることを伝えた。
すると、ブヨーはいきなり爆笑した。
「ぶははははは! いつまでも成果が出ないから、本国から接待役でも寄越してきたのかと思ったら、お前たちみたいな女の子が帝都の冒険者選考試合で優勝!? 冗談にしては面白すぎるので真実なのか確かめてよいか?」
ユメを始め、女子力バスターズの面々は、むっ、となり挑戦を受ける旨を告げた。
「この城には北伐を諦めたとはいえ、それなりの実力を持った冒険者パーティが詰めておる。彼らと戦って倒してみるがいい」
詰めている、とブヨーは言ったが、おそらくここより北上して死ぬのも、本島に帰って恥をかくのも嫌な連中がこの城に残っているのだろう。
「分かりました。倒す、と言いましたが、殺してもいいのですね」
「よっし、そういうことならあたし一人で全員斬り殺してやるぜ」
そう言って、ヨルが立ち上がる。
「はっはっは、威勢のいいお嬢さんだ。ちなみにこの城にいるのはみんな男だ。性欲を溜め込んでいるから、負けたときにどうなるか考えてから斬りかかるんだな」
よく考えるとそれすなわち、女性の冒険者たちは皆勇敢にも北伐したのではなかろうか?
ブヨーは余裕の笑いを崩さなかった。
しかし、ヒロイが突然立ち上がり、尻尾で一撃されると、「ぶはっ!」と言って気絶してしまう。
さて、「狩り」の時間だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます