第44話 ゾーエ入港
自分たちは今、国からの正式ミッションを受けてゾーエを目指しているのだという自覚がユメの胸に改めて強く去来した。
とはいえ、緊張し過ぎても本来の力は出せない。道中は軍人が守ってくれるというのなら、自分たちはいざゾーエに着いたときのためにリラックスしておこう。
そう決めてユメは馬車にしては揺れが少ない荷台で冒険譚を読み始めた。
オトメなどは恋愛ものの要素も出てくる冒険譚を読んでいるらしく、ときどき涙ぐんでいたりする。
スイは道中で自分が持ってきた冒険譚は全部読みきってしまったらしく、ユメが持ってきた冒険譚を貸してくれと言ってきた。
実は自分で写本したので内容は完全に頭に入っている冒険譚を渡すユメ。そう、それはトモエが写本を依頼してきた冒険譚で、タイトルを「雷光の六人」という。
あの、フォーメーションの勉強になりそうな冒険譚だ。丁度いいだろう。
ハジキは相変わらずずっと銃の整備をしている。そんなに銃ばかり弄っていて飽きないのだろうかと思うときもあるが、それがハジキという少女なのだ。
ヒロイとヨルはあまり本を読む習慣がないからか、揃ってのんびり寝息を立てている。ユメも今読んでいる冒険譚がひと段落したらライトの魔法を消して横になろうかとかそんなことを考えはじめる。
そんな、平和な行軍が一週間ほど続き……。
途中でモンスターに襲われることもなく、ユメたち女子力バスターズを乗せた馬車はとうとうリモーアの港に到着し、手を振る護衛たちと御者と分かれ、ガレー船に乗り換えた。
ユメはガサキの港町を出発してからしばらく馬車に乗って船でナパジェイ本島に上陸したのだが、他の五人は船に乗り慣れているのだろうか?
結論から言えば、誰も船に酔ったり吐いたりすることもなく、主にヒロイとオトメが舵を漕ぎながら海を進めた。
漕ぎ手はヒロイとオトメが務めてくれたがさすがに力があるとはいえ二人に任せきりは悪いと思ったのでときとぎ代わった。
しかし、これが想像していたよりも重労働で、ユメはすぐにヒロイかオトメに任せてしまう。
むしろ子供のスイの方が初めての体験に無邪気に楽しく漕いでいたくらいだ。
そんなこんなあった五~六時間ほどの船旅で、ガレー船はゾーエ南端の街、スターホールの港に辿り着いた。
スターホールの港はいくらまだゾーエがナパジェイの国土ではないと言え、「ゾーエの港」だけでは将来的にいくつできるか分からないので、ナパジェイ帝国が唯一ゾーエで建物を建て、地名をつけた場所である。
それというのも、海岸に海から見ただけで分かる五角形の堀を持った大きな城を建てたからで、ゾーエのコンサド島に唯一ナパジェイ政府が入植できたエリアである。
なので、ゾーエに上陸した数々の冒険者はまずはその五角形の城を訪ねるのが通例になっている。
しかし、それ以降の全ての冒険者の消息が全く途絶えているのが現状なのである。
単に力が足りなくて住人に殺されているのか、それともなにかの罠に嵌って帰って来られていないのか。もしかするとナパジェイ本島より居心地が良くて居ついてしまっているのかもしれない。
その謎を解いてナパジェイ中枢に報告するだけでも充分な“成果”足り得る。
それほど謎に満ちた土地なのだ、ゾーエは。
ガレー船が波にさらわれてしまわないように念のため、碇と鎖でしっかりと港につけて、六人はこれで何人目になるかもわからないナパジェイ本島からコンサド島への上陸を果たした。
少なくとも軽く見渡した限りでは人の影は見えない。
ユメとしては、いきなり矢の雨で歓迎されても仕方ないと思っていたのだが、今のところ、そんな様子はない。潮風に吹き晒された大きな五角形の城が見えるだけだ。
「ねえ、ヒロイちゃん、とりあえず、あの城を訪ねてみる、でいいのかしら?」
「いいんじゃ……、ねえか? てかお前が判断しろよ、リーダー」
「ん……、やっぱりわたし、女子力バスターズのリーダーなんだね。わかった、みんな、あの城を目指すよ。道中は勿論、入ってからも足元、天上、壁、とにかく全てに注意しながら入ること、いい?」
ゾーエに降り立って見ると、思ったよりも寒かったので六人とも荷物の中から上着を取り出して羽織る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます