第46話 スターホール城、制圧
小一時間後、スターホールの城はたちまち気絶した冒険者たちの山で埋め尽くされた。
「おい、ヒロイ、確認を取る相手をお前が真っ先に気絶させたせいでどこまでやっていいか分からなくなったぞ」
ああは言っていたが、一応峰打ちで一人も殺さなかったヨルがヒロイに文句を言う。
「しょうがねえだろ、大口叩くからあれくらいは耐えると思ったんだよ」
「……弾、無駄にした」
ポトリ、と薬莢を銃から出しながらハジキがつぶやく。
ここにいた冒険者……、元、がつきそうな連中の強さは、北伐選考試合の初戦で戦ったチーム・イニティウムよりも弱いのではないかというところだった。
全く普段から戦ってすらいないのだろう。こっちを敵とすら見做さなかったせいで少々不意打ち気味ではあったが。
「しょうがないわ、めんどくさいから気絶した連中は全員城から放り出して、この城はわたしたちのゾーエ北伐の拠点にしましょ。こいつらも釣りや狩りくらいはしてみたいで、食料の備蓄はあったし。頂いちゃいましょう」
戦ってすらいない、と印象付けたものの、食料の調達くらいはしていたらしい。これは朗報だ。こんな雑魚冒険者でも食い扶持には困らない程度に食べものはある。
「六人で住むには広いね。使えそうな奴は起こして留守番させるのはどう?」
スイの残酷な提案にユメは頷く。
「じゃあ目を覚ました順番に回復させて家来にしましょ。さすがにわたしたちも行動は明日からよ」
そして、六人、早めに目を覚ました奴らを順番に脅して、城の番にさせることにした。
「あ、あのまだ目を覚ましてない人たちは?」
留守番の一人がおどおどと訊いてくる。
「雑用」
ユメは無慈悲に言い放つ。
「わたしたちが外へ様子を見に行ってる間、この城に食糧を備蓄したり、快適に過ごせるようにしておくの。特に血の跡は綺麗にしておくように。目を覚ましたらそう言い含めておいて。あんたら六人以外はわたしたちに話しかけるのも禁止よ」
「……は、はいぃ……」
留守番たちは不承不承了解した。
「うんうん、ここはまだ『自己責任』の国、ナパジェイのようね。明日になって本格的に北伐するのが楽しみだわ」
ユメたちは城でなるべく使えそうな布団を探して引っ張り出して自分たちの寝床を確保する。
そして武装を解くと、インナーな格好になって、城の庭で適当にたき火を始め、備蓄されていた魚などを焼いて食べ始めた。
城の外に適当に放り投げて重ねておいた冒険者たちが目を覚ました後も遠巻きにこっちを見てくるだけで何も言ってこない。
ちなみに、港に繋いであるガレー船については「奪おうとしたら八つ裂き」と言っておいたら誰も手を出す気はなくなったようである。
ユメたちが声をかけることを許可した六人の留守番(面倒くさいので一~六号と呼ぶことにした)が、とりあえず、山で採取した山菜やキノコを差し出してきたので、それも夕食にした。
そのうちのひとりが今にも小便でもちびりそうになりながら一応警告してきた。
「お、お嬢様方、このスターホール城より北は完全に未踏の地です。誰が行っても戻ってこなかったんです。もし、お嬢様たちが戻ってこなかったらあっしらはどうすればいいんで……?」
「そのときは、数週間後にわたしたちと同じくらいか、下手したらわたしたちより強い冒険者が来るから、その子に指示を仰ぎなさい。まあ、うちらもそう簡単にくたばりゃしないけど」
「も、もう一人……?」
「アストリットってエルフの女の子よ。北伐選考試合を一人で準決勝まで勝ち上がった子だから、喧嘩を売ったら今日よりひどいことになるわよ、きっと」
「お、お嬢様みたいな強さの女の子が、あと一人……?」
「さあ、話はここまでよ、留守番一号、わたしたちは明日に備えて英気を養いたいの、他に質問が無ければもう話しかけないで雑用たちの面倒を見てくれる?」
「は、はひっ」
人に言うことを聞かせるときはやはり絶対的な恐怖を植え付けるのが手っ取り早い。もし逆らったら命はないことはさっきの小一時間ほどの制圧劇でよく分かったはずだ。
そして、それはユメたちも同じ。
帝都で最強の冒険者パーティとなった自分たちを圧倒するような強大な存在がこのスターホール城より北にいたのなら、どうすればいいのだろう?
その場合は、誰か一人を報告に逃がすことに徹するべきだ。
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