第33話 恐怖の森秘魔法
チーム・ラストアライブはアストリットの即時ウッドフォーク召喚を警戒してか、まずは魔法による補助に徹している。
そして、女性の人間の魔法使いが魔法が届くぎりぎりの距離からファイアボールを叩き込んだ。
そこで初めてユメはアストリットが出すウッドフォークとやらの姿が見えた。アストリットは足元に種を蒔き、地面から「木人」が生えた。
それはまさしく「木人」としか表現のしようのないもので、ファイアボールを食らってもものともせず、まずは一体、ラストアライブに突っ込んでいく。
その間にアストリットは石畳にさらに何粒もの種を蒔き、合計十体ほどのウッドフォークを生み出した。
そのウッドフォークたちは木の幹を棘のような、あるいは鞭のような形に変えて遠く離れたラストアライブを攻撃した。
ヒュヒュヒューン!
速い!
ユメにはその動きが目で追えなかった。
ラストアライブの大柄な男性の前衛が、その攻撃を食らって吹き飛ぶ。そして、棘状の幹が容赦なく、その体を貫こうとした。
一人づつ、確実に片付けるつもりだ……!
ユメは今までアストリットというエルフの少女が相手をウッドフォークで攻撃してすぐに召喚解除していたのは、それで充分だったからだと悟った。
チーム・ラストアライブはその姿をさらし、攻撃方法を見せるほどの相手だと判断したのだろう。
現に、幹は、もう一人の前衛のオーガの亜人と思しき男性冒険者が振るった剣で一瞬で切断されてしまった。それに鞭状の幹の攻撃を食らった方もすぐに自分で自分に回復魔法をかけ、鞭をあえて自分の腕に巻き付けさせ、腕で引っ張り、ウッドフォークを自分の側に引き寄せた。
そして、魔法使いたちがそのウッドフォークを風の刃で粉々にしてしまった。
なるほど、これはたしかにトモエの言う通り、見ごたえのある試合だ。
ユメがそう思った瞬間、その考えはすぐに打ち消された。
アストリットが元居た場所にいなくなくなっている。いつのまにか、そっくりのフードを被った同じくらいの背丈のウッドフォークと入れ替わっていたのだ。
その足元の石畳が割れている。
アストリットは? 彼女はどこだ!?
ユメが目で追った時にはすでに彼女は敵陣の只中にいた。
フードを脱いだ姿は草色のシャツとズボンだった。
そして、その手から、正確には服の袖の中から植物の弦のように見えるツタを無数に生やし、チーム・ラストアライブ全員の首に巻き付けた。
ただし、絞め殺さない程度の力で。
そして、アストリットは懐からナイフを取り出し、一人の心臓の辺りに当てる。
「降伏を勧告する」
そのときには彼女が呼び出したウッドフォークたちがラストアライブの周りを取り囲み、それぞれが木の幹で胸の辺りを狙っていた。
「ぐ……」
胸にナイフを当てられたラストアライブのチームメンバーがなんとか喉から声を絞り出す。
「もう一度言う。負けを認めなさい」
「わ、わかった……!」
「リーダー!?」
「これ以上は無理だ……、勝ち目がない」
それを聞くと、アストリットは、即座に全員の戒めを解き、ナイフを懐にしまう。
『決まりましたああああああああああ! アストリット選手! またしてもどうやって移動したのか分かりませんでしたが、チーム・ラストアライブをくだしてしまいましたあああああああ!!』
「負けそ……」
ユメはアストリットの戦いを見て、ぽつりとつぶやいた。
『解説のトモエさん! いったいアストリット選手はどうやったのでしょう!? 何故あそこまで離れていたはずの距離を一瞬で移動できたのでしょうか?』
『彼女は自然物なら完全に何でも操れるみたいね。石畳の下の土も自然物。その中に木の根を生やして地中を移動したんだわ。それにしても、この会場の石畳、壊れやす過ぎやしないかしらあ?』
「おい、ユメ。あんな化け物が次の相手だとよ」
しばらく呆けていたユメはヒロイの言葉で我に返った。
「あんなのまともにやり合ったら勝ち目がないぜ。なんでもありじゃねえかあいつ」
「ええと、どうしよう?」
ユメは正直迷っていた。決勝戦にこのまま出場するべきだろうか?
そこへ、師匠たるクリスがやってくる。
「たしかに、あの子は強過ぎね。だから少しヒントを出しておくわ」
「師匠!」
「あの子があそこまでぼこぼこ植物を使いこなせるのはそれに適した環境が与えられているから。植物が生えなくなる条件は、なーに?」
植物が生えなくなる条件?
土が無くなること?
日が照らなくなること?
ユメは思案したが、すぐには分からなかった。
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