第34話 策を練れ

 そこへ、ヒロイとヨルの師匠であるエーコ少将もやってきた。


 ユメはエーコ少将に会うのは久しぶりだったが、相変わらず年頃の女性にしては厳めしい、冗談の通じない頑固そうな顔をしている。

 ミノタウロスの亜人に生まれながら、軍の要職に就くくらいの人物だ。さぞ苦労してきたのだろう。


「エルフとは自然の、森の民。よって自然物ではない鋼を嫌うという。まあ、鉄製のナイフを使うようなエルフだ。役に立つかどうかは分からんが、一応覚えておけ。」


「鋼……?」


 ヒロイの刀も、ヨルの短刀もどちらも鋼だ。しかし、あんなウッドフォークたちを大量召喚してくる相手に果たして当てられるだろうか?


「ウッドフォークを召喚させない方法……?」


 ユメは必死で考えていた。


 そもそも、アストリットは薄い石畳に種を蒔いて、そこからおそらくその奥にある土に発芽させてウッドフォークを召喚している。


 そんなことができるのもトモエが言っていたように石畳が薄いからだ。でなければ、自分他たちが二回戦でやったような地面に穴を空ける戦法ももっと苦労しただろう。


 当然ながら、さきほどエーコ少将が言ったように鋼の上に植物は生えない。


 しかし、石畳を丸ごと鉄に変える魔法など存在しない。


 いくら母との修行の思い出を振り返っても、クリス師匠との鍛錬の日々を思い返しても、そんな魔法があるという話は聞いたこともない。


 さてどうしたものか。


 どれだけ思案しても、恐らくアストリットは体力的に余裕を残しているので、決勝戦は三位決定戦が終わったらすぐに始まってしまうだろう。


「ユメお姉ちゃん! 早く次の試合を見に行こうよう!」


 スイが無邪気にこちらに走ってくる。


「きゃっ!」


 と、足がもつれてもしたのかつるんと地面に滑って転んだ。


「もう……、大丈夫? スイちゃん」


 待てよ、滑らせ……?

 ヘル・ウォールズとの試合で足元に氷を張り、滑らせたことがあった。


 氷……。


『それではーーーーー! チーム・ラストアライブの救護が済みましたのでぇ! 三位決定戦! チーム・ゴブリンヒーローズが入場次第、チーム・ラストアライブとの試合でーーーーす!!

ただし、ラストアライブは連戦となるため、ここで一旦休憩を挟みます! 観客の皆様には退屈させてしまい、申し訳ありません! その間の時間かせ……、いえ、今までの試合を振り返りつつ、三位決定戦の対戦カードについて解説のトモエさんと三位決定戦のカードを見ていきましょう!!』


『あなたねえ、少しは黙れないの?』


『実況が黙ってしまっては実況はおしまいです! さて解説のトモエさん、今までで一番見応えがあった試合はどれでしょう!?』


 どうやら、もう少し作戦を考える時間はあるらしい。


水……。根腐れ。


 鋼……。エルフの弱点。


ユメは頭をフル回転させていた。


(石畳に根は生えない……。なら地面に根が生えないものを敷き詰めてしまえば……)


(ただしその時地面にいる者は動けない……、なら……)


 これまでの試合結果も、三位決定戦の結果もどうでもよかった。どちらが勝とうと、もうどちらとも戦うことはないのだから。


 正確を記すなら、三位か四位になったチームともゾーエへの北伐で一緒になるかもしれないので全く関係なくはないのだが。


 今のユメにはアストリットとの対戦に備えて、こちらの六人全員ができることを考え、ウッドフォークを始めとする植物の力、森秘魔法に対抗することの方がよっぽど重要だ。


 そういえば、アストリットは魔法を行使するのに宝石を使っていなかった気がする。


 森秘魔法とはそもそも宝石の力を必要としないのだろうか。アストリットはユメたちが使うような炎や氷を生み出すような宝石による魔法を使えないのだろうか。それなら、そこに付け込む隙は無いか……。


「あ……」


 そこへ、当のアストリットが試合会場から控え室へ戻ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る