第28話 ゴブリンの意地
「やばい! 防御を!」
ゴーレムはチャンピオンを止めるのに使っている。
バキューン!
そのとき、敵の魔法の弾道を完全に逆行する一つの弾丸があった。
ハジキが防御を顧みずゴブリンシスターに向け発砲したのだ。
「きゃあ!」
ハジキらしからぬ悲鳴を上げて、彼女はゴブリンウィザードの炎の矢の魔法をまともに食らった。
「ハジキさん!」
「ハジキお姉ちゃん! クリエイトウォーター!」
スイがとっさに使った水を出す魔法でハジキが火だるまになることは避けられた。
水兵服ごと焼かれたハジキの火傷はすぐにオトメが治療した。
あまりに一瞬に色々なことが起こり過ぎて、ユメは呆けてしまった。
ようやく我に返り、敵陣を見ると、ゴブリンシスターはものの見事に腹部を撃ち抜かれ、気絶したようだ。
ゴブリンパラディンが必死に治療を試みているのが見て取れる。
『もし攻撃を行うのなら、回復役から潰しなさい』
これもクリス師匠の言葉だ。彼女は二か月という短い期間でどれほどユメたちに戦いにおいて重要なことを教えてくれていたのだろう。
ハジキはうまく回復役を撃ち抜けたが、本当ならこの指示はユメが咄嗟に出さねばならないものだったはずだ。
『担架! 担架です! 試合一時中断! ゴブリンシスター選手、瀕死につき脱落! 治療のため試合一時中断です!!』
実況が慌ててそう告げる。
なんと、本来は人類の敵であるはずのゴブリンが生かされようとしている。
奴は、いや彼女はナパジェイにとって価値ありと見做されたのだろう。
ゴブリンロードと切り結んでいたヒロイも一旦攻撃の手を止めた。ロードはそれを見て担架で運ばれていくシスターを見送っていた。
その目には、うまく言えないが、感謝が混じっていたように見えた。
『解説のトモエさん、ゴブリンヒーローズ、回復役脱落で不利になったように見えますが、これからの展開、どう見ますでしょうか?』
『女子力バスターズのうまい作戦だったわね。お互いの回復役が健在なうちは泥仕合になりがち。多少のダメージを覚悟してシスターを早めに潰したのは大きいわ。それにしてもゴブリンがここまでの連携を見せていることに観客のお互いのチームを見る目も変わってきたようよ』
『たしかに! 今や優勝に最も近いはずの女子力バスターズをここまで追い詰めているゴブリンヒーローズを応援する声も大きくなってきましたあああああああ! さて、試合再開いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!』
実況がそう叫ぶと、ヒロイはまたゴブリンロードとの斬り合いを始めた。
しかし、先ほどまでほぼ互角の戦いを繰り広げていたように見えた両者だったが、こんどはあっさりヒロイがゴブリンロードを袈裟斬りにした。
「相手がゴブリンだから全力を出さないなんて、失礼だったぜ」
そう言ったヒロイの足元には試合一時中断の間に腕から外したのか、重しのようなものが落ちていた。
「エーコ少将からは『ぎりぎりまで外すな』って言われてたんだけどな。これ以上手を抜いて戦うのは武人として無礼ってもんだ」
『ゴブリンロード選手! 負傷! 重症です! またも試合一時中断! ああっ、火葬を食らって燃え続け、ゴーレムに掴まれていたゴブリンチャンピオン選手も瀕死です! どちらも治療のために担架を! 担架です!』
『ねえ、実況?』
『はい! なんでしょう!! 解説のトモエさん!?』
『ゴブリンヒーローズのみんな、全員ネームドよ。名前を呼んであげないのは失礼じゃないかしら?』
『え、あ、は、はい! わかりました! ゴブリンシスターことコーネリア選手、一命を取り留めたと報告がありました! えーと、ゴブリンロードことガイウス選手も現在治療中! ヒロイ選手に斬られた傷口の縫合が終わったとのことです!』
『どちらもいい名前ね。ナパジェイの歴史に名前を残すかもしれないわ』
『同じく負傷中のゴブリンチャンピオンのグイド選手! 魔法による消火と治療が終わったと報告がありました。こちらは意識があるようです。ヨル選手との決着がまだついていないから会場に戻りたい、と暴れているようです! すごい執念です。ですが、ルール上、事故死を避けるため、彼は脱落でーーーーす』
『そうよ、あれほどの実力者、死なせるには惜しいわあ。まだまだ陛下の御為に戦ってもらわないと』
『コーネリア選手、ガイウス選手、グイド選手が抜け、もう後がないゴブリンヒーローズ! まだ六人健在な女子力バスターズにいかに立ち向かうのか!? まだまだ目が離せませーーーーん! この試合、誰がこんな展開を予想したでしょうか!?』
おいおい、この物語の主人公はゴブリンだったのか?
そんなことをユメが考えたとき、奥に控えていたゴブリンウィザードとゴブリンパラディンがすっとかしずいた。
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