第29話 王の始動

「まさか私の出番が回ってこようとはな」


『あああーーっと、今まで動かなかったゴブリンキングことカエサル選手! ついに前に出ました! 自分の身長ほどもある大剣を構えます! 脇に控えるウィザードのウィトゥス選手、パラディンのドミニクス選手もまだ無傷です! さあ、試合再かあああああああああああああああああああああああああああい!』


 そのときにはもうヒロイは補助魔法の時間切れでユメたちのところへ戻ってきていた。


 しかし、ヒロイがハンデを付けて戦っていたとは。さっき言っていた『外す』とはあの腕輪のことだろう。試合中もずっと修行のためにつけていたのだ。


 いったん六人揃った女子力バスターズ全員にユメは言う。


「ヒロイちゃん、お疲れのところ申し訳ないけど、回復して補助かけ直すからパラディンの相手を頼める? ヨルちゃんはキングをお願い。ウィザードはわたしたちが遠距離から何とかするわ」


「おうよ」


「あたしにも補助くれよな」


「もちろん。全部かけ直しよ」


 ユメが効果時間が切れたリーンフォースを二人にかけ直し、オトメにも防御魔法をかけてもらうと、ヒロイとヨルはまた敵地に突っ込んでいった。


 ヒロイがゴブリンパラディンの剣をミラーシールドで弾くと、バチッと火花のようなものが散る。どうやら、ドミニクスとかいうあのゴブリン、剣に魔法をエンチャントしているらしい。


 ヨルはキングにしては小柄なカエサルとかいう偉そうな名前のゴブリンに斬りかかる。しかし、大ぶりな武器を持っているにもかかわらず、当たらない。ヨルともあろうものが二刀流をゴブリンキングにかすらせもさせられないのだ。


「……ユメ、ウィザードを狙い撃つよ」


 ハジキがいつもの黒鉄製の銃を構え、ウィトゥスなんて名前らしいウィザードに狙いをつける。


「うん、でもきっとそれに合わせて魔法を撃ってくる。さっきみたいな相打ち狙いはやめて」


「……できるだけ」


 バキューン!


「ダーク・ウォール!」


 ウィザードはなんと闇の壁でハジキの弾丸から身を守った。

 しかも、何度撃ってもまた同じ魔法で守ってくる。


 これでは弾丸の無駄遣いだ。

 ユメはまだゴブリンをなめていたことを再認識した。


「ここが使い時! ミックス・ブラスト!」


 そのとき、スイが突如として混合魔法を使った。


「だ、ダーク・ウォール!」


 混合魔法は闇の魔法壁では防げない。なぜなら、炎と氷、風と土、そして光と闇が打ち消し合う反作用を破壊力に変えた魔法だからだ。


「グ、ギャアアアアアアアア!」


「全部D級宝石。死にはしないよ」


 あっけらかんとスイは言う。たしかに、食らったゴブリンウィザードも死にはしておらず、気絶しているだけのようだ。


 そもそもよくもまあD級宝石で混合魔法を発動させられたものだ。宝石というものは級が低くなる程、純度が下がってそれぞれに込められた魔力の誤差も大きくなるので、混合魔法は高級宝石を使った方が安定するものなのだ。


 そして、それこそがユメがあまり混合魔法を使いたくない理由でもあるのである。


 現にウラカサを倒した時以来、ユメは一度も混合魔法を使っていない。


 さておき、これで敵はあと二人。


 そう思ってヒロイの戦いぶりを見ると、ゴブリンパラディンの腹を尻尾で一撃して吹き飛ばしていた。エーコ少将もスパルタなことに尻尾にまで重しを付けていたらしい。


 気絶。

これでパラディンも脱落だ。


 あと一人、キングだけがヨルを追い詰めていた。


 あれほどの素早さを持つヨルが、ゴブリンキングの速さについていけず、次第に押されていた。

 そこに、ヒロイが加勢する。


 しかし、それでも状況は好転しなかった。


 キングは後ろに跳び、一旦二人から距離を取ったかと思うと、


「グォオオアアアア!」


 なんと、ドラゴンもかくやというほどの炎を吐き出した!


 それでヒロイとヨルは全身にやけどを負い、戦闘の疲労もたたってか床に膝をついてしまう。


 拙い。こちらの前衛が崩れた。


 ハジキが炎の中に銃弾を撃ち込む。


 だが、キングは胸に「ぬううううん!」と気合を入れると、弾丸に耐えてしまった。


 どうやら、上位魔族同様、皮膚が信じられないほど硬いらしい。

 ゴブリンとはいえ、「王」とはよく言ったものだ。


「ユメお姉ちゃん! もう一回ミックス・ブラストの許可を! 宝石は目から!」


「ダメよスイちゃん! これは殺し合いじゃない、試合なの! ウラカサの時とは違うの!」


 言っている間にキングはヒロイとヨルの脇を抜け、自分が吐いた炎をかいくぐながら距離を詰めてきた。

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