第27話 敵もさるもの

 ヒロイとヨルがゴブリンロードとゴブリンチャンピオンを武器を交える。いくらロードやチャンピオンと言えど、あの二人がゴブリンごときに後れを取るとは思えない。


 しかし、まずは大太刀を携えていたゴブリンロードと刃を交えていたヒロイが十合ほど打ち合ったのち、一旦距離を取ってユメたちの元に戻ってくる。


「ちっ、あいつ結構やりやがる」


 ユメは驚愕した。いくら多少強くてもゴブリン相手にヒロイが強さを即認めるとは。


「補助魔法をもう少しくれ。あいつ生意気にもシスターから回復と補助貰ってやがる」


「分かった。じゃあリーンフォースⅡを。速度アップはいる?」


「要る」


「じゃあ、チーターフットを」


 ユメは自分に使える中で一番速度が上がる風の魔法をヒロイにかけた。


「ありがとよユメ。けっ、さっきのヘル何とかならともかく、ゴブリン相手に『外す』ことになることになるかもしれねえ」


 言って、ヒロイはまたゴブリンロードに吶喊していった。

『外す』とは何のことだろう?


 そうこうしている間に、ヨルがバックステップでゴブリンチャンピオンから逃げてきた。チャンピオンの獲物は両手に持った大きな棍棒だ。それを胸に一発貰ってしまったらしい。


「オトメ、回復を頼む。もう一発食らったらやべえ」


「は、はい! キュアライト!」


 オトメがヨルを回復させている間、ユメは問うた。


「ねえ、ヨルちゃん。あいつら、そんなに強いの? ヒロイちゃんも苦戦してるよ」


「ああ、とてもゴブリンとは思えねえ」


 ヨルがそう答えると、敵陣から魔法が飛んできた。


 複数狙いのファイアーボールだ。


 敵のゴブリンウィザードが放ったものだ。ゴブリンにしてはかなり高位な攻撃魔法まで習得している。


 しかし、そのファイアボールがユメたちに届くことはなかった。


 ハジキが赤銅色の銃を仕舞い、青色の銃で撃ち落としたからだ。


 原理はよく分からないが、青色の銃からは氷の弾丸が出るらしい。ただし、その氷は相手のファイアボールで溶けてユメたち中衛はびしょ濡れになった。


「……ごめん。そこまで考えてなかった」


 ハジキが謝ってくる。助かったのは事実なので責める気にはなれない。


 今もゴブリンロードと奮戦中のヒロイ。さっきのヘル・ウォールズからの戦利品のミラーシールドは時々ゴブリンウィザードがときどき放つ光の矢を弾くのに役立っている。


 ヨルにあちこち斬られて手傷まみれになっているゴブリンチャンピオンはそんな傷をものともせずこちらに突撃してくる。


 拙い! ヨルは回避には向いているが盾役には向いていない。


「火葬!」


 ユメが逡巡したその瞬間、スイが母直伝の必殺の魔法をゴブリンチャンピオンに放った。

 しかし、なんと、チャンピオンはその火球をものともせず突っ込んでくる。


 本来なら相手を殺すまで燃え続けるはずの炎。


 その熱さに耐えながら走ってくるのだ。


 そのとき、ユメは自分が相手がゴブリンだからと完全になめていたことを悟った。


 目の前にいるのは間違いなくヘル・ウォールズ以上の強敵だ。


『仲間がうまく戦うための魔法使いになりなさい』


 自分も攻撃魔法を放とうと詠唱したとき、脳裏をかすめた師匠の言葉。


 そうだ。ヨルも、ハジキも、もちろんスイも自分も盾役には向かない。オトメならあるいは務まるかもしれないが、それでは誰かがやられたとき、誰が回復するというのだ。


「それなら、こうだ! クリエイト・ゴーレム!」


 ゴーレム作成は、まさしく仲間を守るための魔法としてクリス師匠から重点的に強化してもらった魔法系統の一つである。


 ユメは地面の石畳に手をつき、ゴーレム作成の魔法を唱える。

 その瞬間、石と土が混じった大型のゴーレムがまさしく、生えた。


 ゴーレムは間近まで迫っていたゴブリンチャンピオンの前に立ちふさがり、その体を羽交い絞めにする。


 ひとまず、危機は去った。


 傷をオトメに癒してもらったヨルが炎に包まれたままのゴブリンチャンピオンの腕を狙って斬りつける。


 腕の切断には至らなかったが、それで敵は棍棒を一つ取り落とす。


 しかし、それで安心はできなかった。向こうにいるゴブリンウィザードとシスターが立て続けに魔法を放ってくる。


 なんという正確さだろう。ヒロイと戦っているロードも、大柄なチャンピオンの体も避け、その隙間を縫ってユメたち一人づつをまっすぐ狙ってくる。

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