第11話 銃の遺跡、新たな仲間を加え再挑戦!

 ナパジェイ帝国。「力」無き者は泣く。


 ならば「力」ある者は笑うのか? そんなことは「力」を手にしてから考えよ。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 荒野に乾いた銃声が響き渡った。


 ハジキが、目に付いた冒険者の一人の脳天を、銃で撃ち抜いたのだ。




「おーおー、あたし好みの展開に無理やりしてくれちゃって」




 ヨルがハジキの行動に嬉しそうに前に出て行く。




「あいつらの死体、なるべく盾にしたいから魔法でバラバラにしたりすんなよユメ」




 ヒロイもヨルに同意見のようで、のっしのっしと動揺している冒険者たちの方へ歩いていく。




「仕方ないなあ。まあ、予定を阻むのがいたら、排除は基本かあ。ハジキちゃん、できればもう一人減らしといて」


「…………」




 もう一発銃声が響き、うろたえていた冒険者がもう一人、バタリと倒れる。


 撃ったのは人間のようで、まだ息があるが、額から宝石は発現していない。




「ああ、これでわたくしたち、殺されても文句は言えませんわ」




 一番躊躇しそうだったオトメも、メイスを構えて前へ出て行く。




「あっ、あんたたちね、いきなり撃ったのは!」




 冒険者一行の紅一点がこっちに文句を言ってくる。無理もあるまい。




「私たちはただ洞窟があって、調べようとしてただけなのに、突然仲間を撃つなんて酷い!」




 ユメは相手の言い分は尤もだという思いと、サガが情報を二重に売ったわけではないという二つの思いに胸を馳せていた。




「この洞窟というか、遺跡の情報はわたしたちが情報屋から買ったの。だから無断で調査される前に対策したの」




 正確には、どうするか悩んでいるうちにハジキが発砲してしまったのだが、もう結果は変わるまい。




「このまま立ち去るなら何もしないわ。できればそうしてくれると手間が省ける」


「ふざけるな、仲間の仇!」




 冒険者の一人がユメに向かって切りかかってきた。


 が、その刃がユメに届くことは無く、ヨルが剣で受け止めていた。




「先着順だって言ってるだろ。死体を増やしたくないなら、とっととどっか行けっつってんだよ。さもないと行き先があの世になるぜ」




 ギィン!と敵の剣を弾き、ヨルが牽制する。


 そうしている間に、オトメが白の光の宝石を懐から取り出した。さっきハジキが撃った相手を癒そうというのだろう。




「ハジキさん、急所は外してくれてますわ」


「……ううん、遠かったから外れただけ」




 そんな会話の間にオトメの手から翳された白い光が冒険者の方の傷を治していく。




「な、なんか知らねえが……こ、こいつら……」




 一人、亜人の冒険者が急に慄き出し、仲間の顔を順繰りに見ていく。




「「「こえーーーーーー!!!」」」




 口が利けた三人がほぼ同時に逃げ出す。それでも怪我をした仲間をきちんと抱えていったのは流石というべきか。




「あらあら……」




 さて、ちょっとしたトラブルはあったが、ようやく洞窟の奥を調べられる。


 ユメはちょっといい土の宝石を使って周りの岸壁から土と石の混じったゴーレムを作り出した。




「クリエイト・ゴーレム」




 そして、闇の魔法をかけて、簡単な命令を聞くようにする。




「真理よ」




 ユメがゴーレム作成を担当したので、オトメが魔法で光源を用意する。もう入り口付近には何があるか分かっているので扉の周りを照らせるように前回より大きめの光の玉を灯した。


 ヒロイはずっと馬に余計な負担を強いていた鉄の板を荷台から取り出す。これの防御力を魔法で上げて盾にすればしばらくは耐えられるだろう。


 後はその隙間からの流れ弾に注意しながらハジキが幽霊銃を撃ち落とすだけだ。




「行くよ、みんな」


「おう」




 相変わらず鎮座している鉄製の扉が光源に照らし出される。


 ヒロイが鉄板を構えながら、そっとゴーレムに扉を開かせると、やはりものすごい勢いで銃弾の嵐が飛んできた。


 ゴーレムは銃弾を浴びながらもまだ崩れ去ってはいない。隙間はヒロイが埋めている。


 後ろから、マスケット銃を構えたハジキが幽霊銃の一つに狙いを定めた。




 バキューン!




 カラ。カラ、カラーン。




 何か金属が地面を転がる音がした。


 しかし、銃弾はまだ止まない。




 ゴーレムが少し扉を開け、ハジキが幽霊銃を撃ち落とす!




 何度かそれが繰り返された頃、ヒロイのほうから苦情が来た。




「おい、盾は保つけど、ゴーレムの腕の方がもう使い物にならないぜ」


「一旦出て、作り直そうか」




 そんなやり取りを二、三回は繰り返しただろうか。


 とうとう、扉の奥から銃撃が来なくなった。


 弾切れか、それとも怨念を持った銃は全て撃ち落としたのか。




 それを見計らって、ヨルとオトメがユメの補助魔法を受けつつ、扉を完全に開ききって中へ踊りこむ!


 どうやら、扉の奥は銃の保管庫だったらしい。箱に入れられた銃が所狭しと積み上げられている。これらの一部が付喪神となって、ユメたちの侵入を阻んでいたのだ。


 そこに、オトメが言う。




「では、念のため、『リ・バース・アンデッド』を一つづつにかけていきますわ」


「……必要ない」




 手を差し出して制したのはハジキだった。




「この子達の未練は、戦えなかったこと。そして、今、扉に入らせませいと必死で戦った。だから、もういいの。この子達の望みは、果たされてる」




 自分が撃ち落とし、床に転がっている銃をまるで慈しむ様に拾い上げながら、ハジキははっきりとオトメのほうを向いて、言った。




「じゃあ、他の銃は全部戦利品か?」


「まるまるあのジャンク屋に持っていったらどれくらいの値がつくかなぁ」


「……あの店、こんなにたくさん買い取れない。持って行くなら、無傷のものは軍に持っていくほうがいいと思う」


「なぁるほど。けど、軍が金出して買い取るかねえ?」


「待って。ここの銃を持ち帰るのは確定として、まだ奥がありそう」




 ユメがそういって、扉の奥にあるさらに扉を指差した。


 その奥は、工場のようだった。


 おそらく、戦乱の時代にサーカイにあったような鉄砲鍛冶場がそのまま残されているのだろう。


 この情報を軍に売り、もしうまく生産ラインを復活でもさせられれば大手柄だ。




 ちなみに、銃は一度はナパジェイの戦乱の時代を席巻したものの、その戦乱の混乱のさなかで製法も技術もうやむやになってしまった。だから、軍としては何とか情報を得てかつての銃の隆盛を取り戻せないか情報を必死で集めているのだ。




「戦乱の時代を一変させたという火縄銃がまたナパジェイに蘇るかもしれないぜ」


「銃の詳しい製造法は半ばロステク化してるからな。うまくすりゃ褒賞もんだ」


「……見て。銃の図面が一杯ある」




 ハジキの言葉に、皆が振り返ると、確かにそこにはマスケット銃の図面らしきものが山ほど散らばっていた。




「戦乱時代後期に改良に改良を重ねられ、量産化にいたらなかった銃の図面。これらは価値がある」


「ホントだ。量産化って文字にばってん書いてある」


「……これらの図面、軍に渡しちゃう前に、書き写しても……いい?」




 珍しく、ハジキが上目遣いで、淡々とした態度ではなく、お願いするように言ってきた。




「それは、ハジキちゃん個人のお願い? それとも傭兵としての、依頼の範疇?」


「…………。……お願い」


「だったら、いいよ。一旦ウェッソンさんのお店に持って帰って。銃を軍に持っていくのも、書き写しが終わってからでいいから」




 そういうと、ハジキは初めて、目元を微笑ませた。


 やはり、この子の人生は銃とともにあるのだ。


 なんとか、ハジキが心の真底から笑うために、魔族うんたらの偏屈なコンプレックスを取り除いてあげることはできないだろうか?


 ユメはそう思った。




 そして、荷台を戦利品で一杯にして、代わりに御者台に二人、馬の背に一人座ることでスペースを作り、ユメたちは帰路についた。


 これだけ調べて帰ればサガも文句は言うまい。


 あるタイミングで、ユメは御者台でハジキと隣になったので、軽い雑談をしてみた。




「ねえハジキちゃん。ハジキって名前、親からハジかれたからって言ってたけど、それってもし違ったらどうする?」


「…………?」


「『ハジキ』って銃のことでしょ? 親御さんがハジキちゃんの銃の才能を見込んでつけてたら、すごいと思わない?」


「……多分違うと思う」


「違っても、そう考えようよ。わたしの名前のユメだって、親がなに考えてつけたかなんて訊いたこと無いんだし」




 ハジキはユメの言葉に返事を返さなかった。ただ、自分の長い銀髪に指を通して、すき始めた。




「その魔族の証の綺麗な銀髪だって、親御さんからもらったものでしょ? 恨んでばっかりじゃもったいないよ。少しはいい方向に考えないと」


「…………」




 それきり途切れてしまう会話。


 ただ、最後にぽつりと、ハジキはこう言った。




「……パーティ、傭兵じゃなくて、仮加入ってことにしてもいい?」


「もちろん! 本加入したくなったらいつでも言って。ヨルちゃんも仮加入みたいなもんなんだし」


「……そうなの?」


「うん。『稼ぎが悪いとすぐ抜ける』っていつも言ってるよ。今回ででっかく当たったからしばらくはなさそうだけど。じゃあ、仮加入で、よろしく!」


「……しく」




 そうして話しているうちに、御者台のメンバーが交代になった。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 数日後。




 ユメたち四人に、仮メンバーハジキを加えた五人は帝都キョトーの軍を訪れることになった。




 ちなみに帝都の軍本部はキョトーを象徴する巨塔の中にある。普段は余程名のある冒険者しか立ち入ったりしないが、どうやら、持ってきた物資と情報が情報だけに、直接中へ通してもらえた。




「うおー、冒険者やってて、あの巨塔の中に入る機会が来るなんてよー。ハジキってマジでアタイらのラッキーガールなんじゃね?」


「あたしもスラムにいた頃にはここに入る日が来るなんて思いもしなかったぜ」




 ヒロイとヨルも感慨深げだ。




「ふむ、しばらくしたらその工場跡の検分結果と諸君らの功績を冒険者の宿へ伝える。宿の名前は何だ?」


「『魅惑の乾酪亭』、です!」


「聞いたこと無いな……。念のために場所も教えておいてくれ」


「えっと、裏通りをこれこれこうこう」




 こういう場合の交渉役は一番かどが立ちにくいユメがやるのが暗黙の了解になっていた。


 いくら差別の無いナパジェイとはいえ、パーティを代表するのは種族のマジョリティである人間がいい。


 というか、他の全員が全員交渉に向かない性格をしているというのもあるが……。




 それからさらに数日後。




 今日は仮メンバーとしてハジキも来てくれたので若干強めのモンスターを狩りに行った帰り、いつものように「魅惑の乾酪亭」で一杯やろうと凱旋した日のことだった。


 ハジキは戦力としては凄まじく、手にしたマスケット銃が戦闘中に弾切れを起こせば、すぐに別の銃を取り出し、断続的に敵に攻撃を仕掛けるダメージディーラーだった。




 そんな、五人での戦いにも慣れてきて、このままハジキが正式メンバーになってくれないかなあなんてユメが思いながらウエスタンドアをくぐったとき、




「やあ、おかえり! 帰ってくるのを待ってたぞ!」




 と、妙にテンションの高い亭主のユーリに迎えられたのだった。


 なんでも、サガが見つけた遺跡は銃の鍛冶場としてかなりの規模を持っていたらしく、それにハジキが模写した図面も戦乱後期のかなり価値ある資料だったとのことで、パーティの功績が軍で大きく取り上げられたとのことだった。




「ほれ、報酬だ。ピンはねはしてないから安心しろ」




 大柄なユーリをしてなお大きく見える皮袋の中には高額な宝石がたんまりと入っていた。




「やっほいやっほい! これ山分けしてもじゅーぶんお釣りが来るほどの儲けよ!」


「すげー、こんな大金初めて見たぜ」


「あの猫女に乗せられて正解だったなこりゃ」


「ああ、どうしましょう。神殿への寄付はどれくらいが適切かしら?」


「……私も含めて五等分でいいの?」


「あったりまえじゃん! ハジキちゃんがいなきゃもらえなかった宝石だよ?」




 五者五様の言い方で喜びを表現していくユメたち。


 そこへ、ユーリがやや遠慮がちに声をかける。




「あー、お前たちに軍から伝言を預かってる」


「伝言ぅ? サービスしすぎたから返せとか無いでしょうね」


「違う違う。軍のトップからのメッセージだ」


「は?」




 軍のトップ。


 ナパジェイ帝国の軍のトップは当然皇帝なわけだが、まさか天上帝から直接お言葉を賜るわけがあるまい。


 この場合は軍組織としてのまとめ役、具体的に言えば軍最高司令官ダイサン元帥のことだろう。




「“新進気鋭の冒険者の出現を喜ばしく思う。今後もこの帝国で『力』を示し続けよ”、以上だ」


「それだけかよ、もっと大胆に褒めちぎってくれるのかと思ったぜ」


「でも、名誉なことだよ」


「ですね。ナパジェイらしいほめ言葉ですわ」




 そう言って短い祝辞を受け止めていると、ユーリが続けた。




「実はまだ話は終わってなくてだな、今回の功績で、軍から直接お前たちパーティに依頼が来たんだ。受けるか?」


「軍から直接!? そりゃもうまた報酬がっぽりでしょ受ける受ける」




 ユメは大喜びで亭主の話に乗った。




「それが、孤児院の子供たちの面倒を見るって依頼なんだが……、受けるんだな? 返事しとくよ」


「って、ちょっと待って、モンスター退治とかじゃなくて? 孤児院の子の面倒?」


「なんで軍が孤児院のことなんかに干渉すんだよ?」


「まあ……、孤児院は国家直属の施設ではありますが」


「……私、要らないよね?」




 軍からの依頼のあまりの意外さに、一同ポカーンとしてしまう。




「いや、ハジキもいたほうがいいと思う。『パーティ全員が若い女性、異種族混成、神官もいる。色んな戦い方をする』。お前たちこそがベストなんだとよ」




 亭主ユーリの次いだ句に、ますますユメたちの困惑は深まった。

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