第37話 コジロー逮捕さる
それから数日後の朝、索敵のブレスレットの警報が心の中に響き、コジローは目を覚ました。
索敵能力を発動してみると、黄色い光が4つ、コジローの部屋に近づいてくるようだ。青い光は強い魔力を持った存在をしてしている。赤い光ならコジローに対して敵意を持っている者という事になる。黄色い光の場合は――敵意とまでいかないが味方とも言えない、「要注意」といったところか。
やがて、部屋の前に気配が止まり、ノックが聞こえた。
「誰だ?」
ジローが問いかけると、警備兵だと扉の向こうから答えが帰ってきた。
服を着て扉を開けると、警備兵が3人立っていた。警備隊は、町の治安を守る、警察のような組織の者たちだ。元冒険者も多く、町の人間とはそれなりに良好な関係を築いている。
現れた警備兵の一人は、ジローが最初に町に来た時に城門で受付を担当してくれた男だった。
「領主様がお呼びだ。」
警備兵が嫌そうな顔をしながら言った。
「領主が?何の用だ?」
「さぁな、知らな・・・」
後からもう一人、別の男が遅れて現れ、被せるように言った。
「理由など知る必要はない!平民は貴族に指示されたら黙って従えばよいのだ。」
そう言うからには本人も貴族なんだろうか?たしかに少し上等に見える服を着ている。
「早くしろ、領主様のところに行くのだから、武器は置いていけよ。」
コジローは短剣──次元剣──を腰から抜き取ったが、宿に置いていくのも気が引けたので、部屋備え付けのクローゼットにしまうフリをして、マジッククローゼットへと収納した。
「マロも一緒でいいか?」
「あん・・・?犬か、犬など連れていけるか。」
偉そうな男が言うので仕方なく、マロには部屋で待っていてくれと言い聞かせ、部屋を出た。
受付をしてくれた警備兵が
「悪いな。後で餌をやってくれるよう宿に言っておくよ。」
と言った。
偉そうな男は宿の前に止まっていた馬車に乗ったが、警備兵とコジローはそのまま歩いて領主の館に向かうらしい。
「偉そうに・・・」
「聞こえるぞ!」
警備兵も、その男を嫌っている風であった。
領主の館についたところで、警備兵の仕事は終わりとの事で、コジローは館の騎士に引き渡された。
偉そうな男は先に馬車で館に入っていったが、そのまま戻ってこない。
「しばらくそこで待て。」
騎士たちは指示を仰ぎに行ったようだ。
アルテミルの領主の館、そこはかつて、現領主であるクリスが住んでいた屋敷であるが、現在そこにいるのはクリスではなく、代官である。
領主のクリスは10年前、建設途中の都市サンテミルへと移住し、アルテミルは代官に任せたのであった。
代官の名はレメキ子爵。
貴族の爵位は、上から順に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となっている。
領主は "辺境伯" という爵位になる。伯爵ではあるが、ただの伯爵よりは上、侯爵と同程度の地位となる。
平民が武功を上げたりして貴族に取り上げられる時に与えられるのが男爵~子爵であり、伯爵から上は代々続く貴族の家柄を継承する以外は、与えられる事は普通はない。
このレメキと言う男は、先代が戦争武功を上げて爵位を貰ったのを引き継いだ二代目であった。
そして、代官は、昨日突然来訪した領主の令嬢姉妹、リヴロッテとアナスタシアの対応に追われていた。
そもそもこの屋敷は領主のもの、レメキは居室を一室と執務室、それに応接室の使用を許可されているだけのはずなのだが、領主不在の間、レメキは屋敷の主であるかのように好き勝手に使っていたのだ。
姉妹が住んでいた部屋なども物置状態と化しており、とても令嬢姉妹を泊められる状態になっていなかったのである。
とりあえず、来客用の部屋に姉妹を通し、レメキ自身が接待して姉妹を引き付けておき、その間に使用人に大急ぎで晩餐の用意と部屋の準備をさせていた。
姉妹来訪の初日をなんとかしのぎ切った子爵は、心労でヘトヘトになってその日はすぐに眠ってしまったのだが、翌日も早朝から姉妹に呼びつけられ、振り回される事になる。
姉妹はこの街の経済状況を示す書類を見たいと言い出したのだ。慌てるレメキだったが、さらに姉妹は、この街のコジローという冒険者を呼んできてほしいと頼んだ。コジローには少しばかり恩義があり、礼がしたいので丁重にお連れするように、と姉妹は念を押した。
レメキは部下のチリッソに、コジローを読んでくるよう指示したが、その際に、吐き捨てるように「丁重にな」と付け加えた。
それをきいたチリッソは、ニヤリと笑い、「分かりました、念入りに丁重に扱ってやります。」と言って出ていったのである。
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