第36話 剣聖の伝説始まる?

コジローも勝算がなく一人で立ち向かったわけではない。


先程、アルマジリザードの体当たりに対してもマジックシールドが有効であるのを確認していた。マジックシールドがある限り、リザードマンの攻撃も、背後から攻撃されたり飛び道具を使われたとしても、何も問題もない。


加えて、なんでも斬れる次元剣がある。刀身を長く伸ばし、振り回すだけで魔物達は草を刈り取るように倒すことができる。剣で受けようと盾で受けようと防具があろうと関係ない。しかも、魔力で刀身を形造っている次元剣はいくら斬ったところで切れ味が鈍る事もない。


ひたすら剣をふるい続けるコジロー。時折、背後から攻撃を受けたりしたが、マジックシールドがきちんと防いでくれる。コジローはマジックシールドがある限り、防御を考えなくてよいのだ。ただ近づいて剣を振るだけで敵は倒れていくのである。これなら百匹二百匹居たとしても問題ないだろう。


カミールも駆けつけてきて参戦した。何匹かリザードマンを斬り伏せたが、アルマジリザードの球体アタックが再びカミールを襲う。


先程は鋼鉄の剣でも歯が立たなかったアルマジリザードの装甲であったが、今回は斬り裂く事に成功していた。そう、カミールが使っている領主に渡された白銀の剣、それは、実はミスリルの剣であったのだ。


ミスリルは、地球にはない金属である。硬度・靭性ともに鋼鉄より高く、しかも鉄よりずっと軽量である。また、魔力を通しやすいという特性も持っている。ミスリルで作った武器や防具は最高級の性能となるが、非常に希少な金属であるため、よほどの金持ちでないと持つことができない。


伯爵が渡した剣は、代々ウィルモア家に伝わる家宝であった。それをカミールに渡したのは、家臣の命を大切に思う心の表れであったのだろう。




リザードマンの半数以上をコジローとカミールが倒した頃には、マロが戻ってきた。

即座にマロの咆哮が放たれ、リザードマンたちの動きが止まる。


ついでにカミールの動きも止まったが。


コジローには効果はない。咆哮はある程度相手を限定できるのである。マロと従魔としてつながっているコジローは影響を受けない。


「マロ、頼む!!」


コジローは叫ぶと、カミールを抱え転移でリザードマンの群れの中から離脱。


直後に放たれる極大サンダーブラスト。


マロの角から放たれた巨大な雷撃がリザードマンの群れをまとめて消し飛ばす。


爆心地から離れていて、吹き飛ばされただけで死ななかったリザードマンが数匹居たが、即座にマロのファイアーアローが降り注ぎ、すべて殲滅された。


フェンリルが一匹いれば、軍隊であっても相手にならないであろう。さすが「神獣」と言われるだけの事はある。




大人しく待っていなかった事を怒るマロに、事情を説明し、宥めるコジロー。ちゃんと隠れていたのだが、見つかって襲われてしまったのだから仕方ない。


しかし・・・マロのサンダーブラストで街道にクレーターができてしまったのは、どうしたものか・・・




◆剣聖の伝説始まる?


サンテミルの城に着いたクリス伯は、急ぎ騎士隊を出動させようとしたが、領主の屋敷まで戻って騎士に出動命令をしているのでは時間が掛かりすぎると判断し、まずは警備隊に現場に駆けつけるよう命令を出した。


城門を守る最低限の人数だけ残し、動ける警備隊はすべて出動、騎士隊は手薄になった街の警備に半数を当たらせ、残りの半数も出撃させることにした。


しかし、警備隊は街道を進んでいる途中で、戦闘を終えて馬に乗って戻ってきたカミールに出会い、引き返すことになったのであった。




マロの攻撃でリザードマンたちが壊滅したあとは、それ以上襲ってくる魔物はいなかった。コジローはブレスレットの索敵能力を起動してみたが、マロの本気のサンダーブラストに恐れをなしたのか、魔物はおろか動物さえも、近くに一匹も居ないようであった。


ただ、一頭、カミールの馬だけが戻ってきた。一度は逃げた馬だったが、主人のために、勇気を振り絞って戻ってきたのであった。カミールとは長い付き合いの馬だそうで、主人に忠実であったのだ。




カミールはコジローに名前と所属を聞き、わけあって先程馬車に乗っていた人物の身分は開かせないと侘びた。本当は領主のクリスであると明かしても問題はなかったのだが、今回はお忍びの移動であったため、クリス自身が開示してよいと指示していない以上、勝手な判断もできないのであった。


カミールは、今は詳しく話せないが、後で必ず礼はするとコジローに言う。


コジローは、勝手に助けたのだから礼はいい、と言いかけたがやめて、もし礼をくれるならアルテミルのギルドに届けてくれと言った。一応コジローも冒険者としてギルドで登録している身である。タダ働きをすることは他の冒険者に迷惑になってしまうと判断したのである。


ただ、街道のクレーターの責任を問われるのならそれは困るので、もしそうなるなら、そちらのほうをなんとかしてくれるとありがたいとコジローは言った。カミールは分かったと笑い、二人は別れたのであった。




カミールはサンテミルに戻り、クリスにコジローの事を報告した。命を救われ、その後たった一人でリザードマンの中へ斬り込み殲滅してみせたコジローに大きな感銘をうけたらしく、きっと彼は名だたる剣士なのだろう、仮に今は無名であったとしても、いずれ剣聖と言われるような存在になるに違いないと領主に熱く語ったのであった。


実際は、リザードマンの半数を倒したのはコジローではなくマロなのだが。


クリス伯は、カミールが無事に帰ってくれた事に感謝し、領主代理としてアルテミルに向かう予定の娘に、コジローに礼を言って報酬を渡すように指示した。


また、騎士達に街道の警備を行うよう命じた。都市の外には魔物が出るのはこの世界では普通の事であったが、危険なランクの魔物がこれほど大量に出没することは、過去にはなかった現象である。一体何が起きているのか・・・?


クリスは騎士達と警備隊、そして冒険者ギルドにも調査を指示したのだった。



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