第35話 ここは俺に任せて早く行け2

背後からアルマジリザードが体当たりをかけてきていた。


しかしコジローに向かってきたその球体は、コジローの背中に当たる前に、薄っすらと光る小さな板に阻まれ止まった。ゼフトに貰った防御用の魔道具、マジックシールドが発動したのである。


コジローは振り向きながら次元剣を一閃。


騎士の剣では歯が立たなかったアルマジリザードの装甲であったが、次元剣の敵ではなく、簡単に両断されてしまった。


「おお・・・!」


騎士が呟く。


そのまま、コジローはリザードマンの蹂躙を開始した。次元剣は相手の鎧も盾も剣も豆腐のように斬り裂いてしまう。長く伸ばした剣の間合いで、相手の攻撃は届かない。しかも、コジローは加速(8倍速)を発動している。高速で振られるコジローの剣を前に、リザードマン達は全滅を免れなかった。


見れは、前方の戦いも人間たちの勝利に終わったようだ。


「ありがとう、助かった。私はカミール、サンテミルの騎士だ。貴殿は?」


「コジローだ、何が起きた?」


カミール:「分からん、突然、リザードマンの集団に襲われたんだ。以前はこんなことはなかったのだがな・・・」


前方から騎士が駆けつけてきた。馬車に乗っていた男も一緒である。


「助太刀感謝する、私は・・・」


男が言いかけたが、何故か言葉と足が止まった・・・・


目を見開き、街道の奥を見ている。


振り返ると、新たなリザードマンの集団がこちらに向かってくるのが見えた。


その数・・・100匹、いや200匹近く?!アルマジリザードの姿も見える。


「く、クリス様、早く逃げてください!ここは我々が食い止めます!」


「いや、俺も戦うぞ!」


クリスと呼ばれた男は剣を抜いた。キレイな装飾のついた剣である。刀身は細めで白銀色に輝いていた。あのような剣で戦えるのだろうか?


コジローは、


「大丈夫だ、ここは俺一人で十分。いいから早く逃げてくれ、あんた達が居るとかえって足手まといだ。」


と言い捨て、向かってくるリザードマン達に向かって走り出した。


「さぁ、クリス様は早く!」


これ幸いと騎士たちがクリスを引きずるように馬車に連れて行った。


「大丈夫です、あの者を一人で戦わせはしません、我々も戦います!」


もう一人の騎士が言ったが、カミールと名乗った騎士が


「いや、この先も待ち伏せがあるかもしれない、護衛が必要だ!お前はクリス様を守れ!」


と言った。


クリスはなおも渋っていたが


「伯爵が死んだら領地はどうなるのです?!領民は?!」


とカミールに一喝された。


「すまん・・・これを使え」


クリスは持っていた剣をカミールに渡し、馬車に乗り込んでいった。




クリスと呼ばれた男、彼はクリストファー・ウィルモア伯爵。このウィルモア領の領主、ウィルモア辺境伯その人であった。今回はお忍びでの移動だったため、護衛の騎士を二人しかつけていなかったのだ。


クリスの片腕として頼りにしていた騎士カミールを一人残していくのは断腸の思いであったが、カミールの言う通り、自分が居なくなれば領民がどうなるか。前領主が病気で目が行き届かなかったため、各地で悪政が蔓延っていた。クリスはその改革の真っ最中だったのである。今止まれば、領民の苦しみはさらに長く続くだろう。


そういえば、先程助太刀してくれた青年は、自分が領主であると知っていて、自ら犠牲になって自分を逃してくれたのだろうか?


走り出した馬車から後ろを振り返ると、先程の青年がリザードマンの群れの中で剣を揮っているのが見えた。後ろからカミールも駆けつけているが・・・


だが、あの青年は自分一人で大丈夫なんじゃないか?とクリスは理由はないがそんな気がしていた。「足手まとい」とまで言ったのは、我々を逃がすためだったとも思えるが・・・


振り返って見れば、青年が剣を振るたびに、右へ左へリザードマンが斬り飛ばされて散っていく様が見える。あれならば、もしかしたら?


だが、魔物たちの数は、やはり多い。

クリスはカミール達が生き残れる事を祈るしかなかった。。。



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