第112話 ミトの弟妹救出

ミトの妹達の居場所は、ミトもずっと探りを入れていて、およその見当はついているという。


それは、バネダス共和国内の山中に政治的な重要人物を収容しておく施設があるが、おそらくそこだろうと言うことであった。


その施設の近くには鉱山もあるらしい。犯罪奴隷は鉱山に送られて死ぬまで働かされるという話もよく聞く。鉱山の環境は劣悪・危険で、鉱山の業務に従事させられた奴隷は数年で死んでしまうのが通例だという。


ミトは自分が死ねば人質の価値がなくなって妹弟達は助かるだろうと考えていたようだが、用がなくなれば鉱山送りになって、結局死なせる事になったのではなかろうか。


ミトにはコジローが転移魔法を使える事を明かし、弟妹達を救出してやると提案した。


正確な場所はミトも分からなかったが、おおよその場所さえ分かればコジローとマロならなんとでもなるだろう。


人質の安全のため、コジローはマロと二人で乗り込む予定であったが、ミトがどうしても自分も連れて行って欲しいというので、一緒に行くことになった。


とは言え、移動の問題がある。今回はスピードが重要なので、一度施設の付近までコジローとマロが行ってから、ミトを呼ぶという事で納得してもらった。


まず、コジローは転移でミヤルの街近くの森に移動、そこからコジローはマロに乗って国境を目指した。今回はスピード重視である。マドネリ村にスパイが入り込んでいる可能性は低いが、ミトとしてはやはり心配であろうから、一刻も早く解決したい。


マロにしがみついての高速移動は結構体力を消耗するため、コジローはできれば短距離転移を繰り返しての移動のほうが楽なのだが、それだとどうしても最高速のマロには及ばない。今回はスピード重視ということでマロに乗せてもらうことにしたのだった。と言っても、マロも、コジローを背中に乗せた状態ではかなり手加減して全速力というわけではないのだが……。


国境は、街道を外れて森の中、なるべく深いところを走るようにマロに指示した。


国境と言っても、街道には塀と検問所が設けられている場所が多いが、森の中や山中まで国境線に沿ってすべて塀や柵があるわけではない。国境と言っても危険な高ランク魔獣が彷徨いている深い森の中を抜けようとしても魔獣に襲われて死ぬのが関の山なので、そこまでは警戒されていないのである。


だがフェンリルは魔獣の中でも頂点に近い種族である。マロが走っていれば、他の魔獣は強者の気配を察知して逃げていくだけで、襲ってくる事はほぼない。フェンリルの高速移動中に襲う魔獣も居ないだろうし、仮に襲ってきた所で瞬殺されておりである。


山中を走り、いつのまにか国境線を超えたコジロー達は、その後もなるべく森の中を進み、目的の山に入ったと思われるあたりで、一旦止まり、コジローの転移魔法で再びマドネリ村に戻って休むことにした。


さすがに7~8時間マロの背中にしがみついて走りっぱなしは、コジローも参ってしまう。ゆっくり走るのであれば遠乗りも楽しかろうが、荒れた山中を結構な速度で駆け抜けたのである。ポーションを飲んで体力を回復させたが、精神的にも堪えるので、とりあえず一晩休ませてもらう事とした。




翌朝、ミトを伴ってコジローとマロは再び転移で目的の山中へ移動した。


そこで、コジローが「空間識別」を発動しながら、目的の施設と思われる場所を探す。


壁の中などに転移しないよう、移動先を確認する術式が転移魔法には組み込まれているが、その応用で、自分の周囲の空間を、まるで裏側から透過して見るように、コジローは周囲の空間の構造を把握できるのである。


転移魔法のレベルが上がるほどに、その範囲は広がっていくが、コジローの能力では、まだ、ある程度近くまで行く必要がある。


だが、ミトの情報は正確で、程なくして該当の施設が発見できた。


施設は周囲を塀で囲われており、門には門番が居る。定期的に周囲を見回りもしているようである。おそらく、結界魔法も施されているだろう、塀を超えて侵入したりすれば、結界を越えたとしてもすぐに見つかってしまうだろう。


正面から強行突破もコジローとマロであれば不可能ではないだろうが、ミトの弟妹達がどこに居るのか分からないのでは危険である。



ここからはコジローの新しい時空間操作能力をフルに発揮する。


最近、加速が60倍速に到達したあたりから、コジローの時空間を操る魔法は急激に成長していた。


いつぞや、ゼフトに地球に連れて行ってもらった時、地球に直接行くのではなく、亜空間のような場所から透過して地球の様々な場所を見ることができた。


それと同じような事が、コジローにもできるようになっていたのである。


そもそも、亜空間を操る魔法と転移は同じ系統の魔法である。


亜空間を作成し、その入口と出口を別々の場所に設定し、そこを抜けて移動すれば、転移である。亜空間収納は、いわば転移の途中に通過する空間に物を留めているだけなのである。


亜空間は、通常の空間とわずかに次元がズレた空間である。あくまで通常空間に属するが、通常空間からは見る事も触れることもできない。逆に、亜空間からは通常空間を見たり、触れたりすることも可能なのである。


コジローは、ミトを連れて、亜空間に突入した。あとは、施設に重なった亜空間内を堂々と歩いて内部に侵入していくだけである。(マロは外で周囲の様子を警戒してもらった。)


壁も床も透過してしまう、まるで幽霊になったようなものである。




しかし……施設の中を歩き回ったコジロー達であったが、残念な事に、どこにも孤児たちは居なかった。


どうやら、この施設の中には孤児たちは収容されていないようである。


情報が間違っていたのか……?


がっかりするミト……。


だが、その時、マロから念話で連絡があった。マロが施設の周囲を回ってみたところ、施設から少し離れた場所に別の建物があるのを見つけたらしい。


転移ですぐにマロの居る場所へ移動するコジローとミト。


見えたのは、教会のような建物で、どうやら中に子供たちがいるようであった。


何人かの子供たちは、庭で槍や剣を持って戦闘訓練のような事をさせられていた。また建物内部の教室のような部屋でも子供たちが何人か授業を受けているようであった。


再び亜空間から内部を探るコジローとミト。そこで、ミトはついに、妹を発見したのである。




発見してしまえば、コジローにとって救出は簡単な作業である。


施設内の職員は全員ピコピコハンマーで気絶させて縛っておき、子供たちは亜空間の中に避難させる。


亜空間の中で、ミトは無事、妹と再会を果たした。


亜空間に子供たちを全員保護した後、子供たちの荷物を回収し、マドネリ村に転移して任務完了である。


最後に気絶させた職員だけ縛らずに放置しておいたので、そのうち気がついて縛った職員も開放されるだろう。当然通報されるだろうが、その時にはもうコジロー達はマドネリ村である。


どうやらこの施設は、孤児たちを集めて、戦闘訓練を受けさせ、兵士や諜報員として使う計画であったらしい。ミトの居た孤児院以外から来た子供たちも居たようであったが、全員が脱出を希望したので、全員マドネリ村に連れて行ったのであった。


子供とはいえ、中には裏切るものが居ないとは言い切れないが……後でゼフトに子供たちの心の中を読んでチェックしてもらえば悪意があるかどうかはすぐに分かるだろう。




後は……


ドワーフの親方に言って、大急ぎで、村の中に孤児院を建設して貰う必要がある。それが一番大変で時間がかかる作業であったかも知れない。。。


何はともあれ、ミトがバネダス共和国のために戦う理由はなくなったのであった。


ミトは子供たちの保護者として、マドネリ村の孤児院を任せる事になったのであった。。。

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