第113話 死霊の森への攻撃
ある日、死霊の森の奥で、バネダス軍の姿が確認された。
ゼフトが張った広範囲の結界に反応があったので判明した。
この結界は、通過した者が居た場合に知らせるだけのもので、侵入を阻むようなものではないが、異常をキャッチしたゼフトが従魔を使役して偵察を出したところ、バネダス軍の兵士の姿を確認したのである。
驚いたのは、バネダス軍は、死霊の森の奥、死の山を越えて侵入してきたのである。
死霊の森は奥深くに行くほど、高ランクの危険な魔獣が生息している。最奥の死の山ともなれば、ドラゴンなどのSランクモンスターが跋扈している領域なのである。そこを人間達が無事に通過できるとは思えなかったため、国境として警備はされていなかったのである。
だが、事実、彼らは侵入に成功した。興味を持ったゼフト自らが姿を消して、調査に向かった。
なるほど、どうやら、魔獣を支配し、コントロールする技術を確立したらしい。その技術を使って魔獣を大量に使役しながら歩を進めてきたようである。
ただ、カデラック王国/ウィルモア領に侵攻してきたというわけではないようであった。
どうやら、死霊の森の中に拠点を作ろうとしているようなのであった。
彼らの目的などどうでも良いのだが、魔獣を使役している技術に少し興味があったゼフトは、彼らを泳がせたまま、少し監察を続ける事にした。
魔獣を使役するのは、珍しい【石化】の能力を持つバジリスクの亜種を使っているのは以前と変わらないようだ。
体を石化するのではなく、心を石化してしまう非常に珍しいバジリスクの亜種を捕らえ解剖し、心を石化してしまう光線を放つ魔導具を開発していたのである。
その後さらに研究が進み、動けなくしてしまうまで心を石化せず、自立した判断力を奪い、命令にだけ従う状態を作り出すことに成功していたようである。
それを使って、山や森にいる魔獣を従え味方につける事で、死の山を超える事に成功したようであった。
――――――――――――――――――
クーデターを起こし、国を乗っ取ったバッタは、バネダス共和国の現大統領を名乗っている。
バッタとしては、王族を皆殺しにしてその地位を盤石にしたいところであったが、王族の中でも特に国民に人気があった王女シーラと王子マルスを取り逃がしてしまった。
刺客として放った者たちもことごとく失敗し、人質にとっていた孤児達は姿を消してどこに行ったか分からないという。
バッタは少し苛立っていた。王女達に今すぐ国を奪い返しに来る力はないと思われるが、もし、隣国カデラック帝国が、力を貸したとしたら……
王女たちを正当な国の元首として認め、自分達のほうを国を乱したテロリストとして認定すれば、軍事介入する大義名分は成り立つので、帝国としても周辺の国を納得させる事は可能であろう。
もちろん、帝国の力を借りてしまえば、王女が国家元首の地位についたとしてもそれは名目上だけのこと、事実上、帝国の属国、植民地のような扱いになるのは確実である。最悪の場合、いずれ併合されて国がなくなる可能性すらある。王女もそれは分かっているはずなので、簡単に帝国の介入を望むことはないとは思うが……・
カデラック帝国は、決して好戦的な国ではないが、必要であれば軍事力を行使することは厭わない。歴史的にも軍事力で周辺の国を併合して大きくなってきた国なのである。隙を見せれば乗っ取られる危険性は高いだろう。ましてや、クーデターによって政権が揺らいでいる今は好機と見ることもできる。
バネダス共和国は山岳地帯を多く含み、資源が豊かであるが、国としては決して大きいわけではない。他国と戦争を繰り返すような体力はないのである。
だが、それを覆すために、現在、とある技術を開発している。それは、魔獣を戦力として使う技術……
その技術はほぼ完成されつつあった。何度か隣接するカデラック帝国の辺境ウィルモア領で実験を行い、一応の成功を収めている。
ただ、結果的に魔獣は全て退治されてしまい、実質的な被害を与える事はできなかったのだが……
城郭都市を魔獣の襲撃だけで攻略するのはそもそも無理があるのだろう。だが、戦争となれば話は別である。戦争に際して、魔獣の群れを相手の陣地になだれ込ませ、疲弊させる事ができるのであれば、十二分に効果を発揮するはずある。
実験は成功、しかし、押し寄せた魔獣が最終的に制圧されてしまったのは、攻撃に参加させた魔獣の大部分が低ランクの魔獣であったためであろうと報告されていた。
たしかに、どれだけ数を揃えたところで、ゴブリンが相手では、広範囲殲滅能力のある高ランクの魔法使いでも居れば防ぎきれてしまうだろう。領土の防衛力として、一人二人はそのような物を囲い込んでいるのは当然の事である。
そこで、バネダス共和国が目を付けたのは、ウィルモア領の中にある「死霊の森」と言われる地域。そこは高ランク魔獣が大量に跋扈している。そこに拠点を作り、高ランク魔獣を大量に捕獲し、魔獣のプラントとして利用することを考えたのである。
だが、それも見積もりがやや甘かった部分があったようであるのだが……。
その石化光線は、死の山にいるドラゴンや魔狼のような高ランクのモンスターには通用しなかったのであある。
ただ、ゴブリンやコボルトよりは高ランクのモンスターを従える事に成功はしていたので、なんとか数を投入することで、大量の被害を出しながらも、高ランク魔獣からはなんとか逃げ切る事に成功していた。しかし、その行軍の消耗は極めて激しかったのである。
だが、山を越え、大分森を進んだ事により、Sランクモンスターとの遭遇は少なくなった。
そろそろ拠点を作り、消耗した体勢を立て直したい。
高ランクモンスターの出る森の奥深くに密かに拠点を作れば発見されないだろうとバネダス共和国の軍部は考えていたのだが……
その森には、非常に危険な魔術師が居るという情報が、隣国までは届いて居なかった。否、前王族は伝え聞いてはいたのだが、革命政府の人間達は知らなかったのである。
魔獣を使役する技術に思ったほど見るべきものがない事が分かったゼフトは、その恐ろしい魔力を行使し、一瞬にして全ての人間と、使役された魔獣を始末してしまった。
そこに居た人間と魔獣は、悲鳴をあげる事もなく、血を流すこともなく、全員が静かに、眠るように死んでいった。
それは、肉の体は一切傷つけることなく、命そのものを、魂を抜いてしまう技である。何をどうしたのかは、おそらくこの世界の魔術師には理解できないであろう。
数千年間、死霊術と生命の根源を探り続けてきたゼフトの技の実験に使われたのである。
ゼフトは、肉体を離れた魂がその後、どこへ行くのかを、じっと監察していたのであった。。。
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