第86話 マドネリ村を襲った盗賊の末路

昨日騒ぎを起こしコジローに撃退された男達が、翌日早朝には再び村にやってきた。


しかも、今度は五十人近い人数である。個々では敵わないと見て数を頼ってきたのであろう。だが、意外にも男達はすぐには騒ぎを起こさなかった。


男たちはマドリー&ネリーの家には行かず、村の中を歩き回り、空き家を物色し始めたのである。近くに居たドワーフに向かってボスが言うには、家を借りたい、自分たちはこの村に住む、移住希望だと言うのである。


ドワーフのジョンは、だったら村長に許可をもらえ、そうでないと貸せないと断った。村長は誰だと尋ねられ、マドリーだと応えるジョン。それを聞いたボスの片眉が釣り上がった。


実は、最終的には村長を殺して自分が村長になって、村を乗っ取ってやる算段だったのである。


だが、昨日の件がある、相手がマドリー、そしてコジローを相手にしなければならないとなると、一筋縄で行かないかもしれない。


とは言え、マドリーとコジローとはいずれ対決する必要がある。そのための策も用意してきてあった。




とりあえず盗賊団はマドリー&ネリーの家に行き、マドリーに移住希望であることを告げたのだが、マドリーににべもなく拒否されてしまった。


ボス:「俺らも行くところがないんだ。手下どもには問題を起こさないように徹底させる。もし問題があったら俺が責任をとるからよ・・・」


食い下がるボスだったが、マドリーは少し考えたものの、やはり拒否の回答。


ボス:「なぜだ?オマエにそこまで言う権利があるのか?」


マドリー:「ここは村と言っても俺の家みたいなものだ。自分の気に要らない奴を家に住まわせたいと思う人間は居ないだろ?」


ボスの見たところ、村の人数はまだ少なく、ほとんどが非戦闘員のようだ。戦えるのはマドリーとコジロー、それと何人かドワーフが居るだけに見える。うまい事言って、村に住み込んでしまえば、あとは数の暴力で実権を握り、村を支配してしまばよいという計画だったのだが、そこまではっきり言い切られると、ボスも返す言葉がない。


「そ、そんな事言わねぇで頼むよ・・・」


とボスが言いかけた時、手下Gが叫んだ。


「ボス!もういいでしょ、やっちめえやしょーよ!」


その声と同時に、五十人の男達が一斉に剣を抜いた。


ボス:「ばかやろー、せっかく俺が穏便に事を運ぼうとしてるってのに、台無しじゃねぇか!」


手下G:「人数はこっちのが圧倒的に上だ、それに・・・」


コジローが前に出て剣を構える。

ネリーがマドリーに槍を投げ渡す。

ネリーも弓を構える。


だが、ボスが言った。


「動くなよ、人質が死ぬぞ?」


見ると、いつのまにか、マルスが手下Pに捕まって首に短剣を突きつけられていた。


即座にコジローが救出に動こうとする。コジローの加速と転移を使えば人質一人の救出は容易いだろう。だが、ボスがコジローの動きを大声で制した。


「あっちを見てみろ!!」


マルスとは別の位置、かなり離れた場所に、別の手下にモニカが捕われていた。


「少しでも動いたら即殺す。武器を捨てろ!」


モニカの首に突きつけられた剣は、深く肌に食い込んでいる。


「オマエ(コジロー)の速さだと人質とっても簡単に奪還されそうだったんでな。だが、同時に二人は救出できんだろ?一人を助けてるうちにもう一人は確実に死ぬぞ?これが知恵ってもんだ。」


ボスは笑った。


「ここには人の法は及ばない、そう言ったのはオマエ(マドリー)だぞ?つまり、俺たちがこの村を皆殺しにしても裁かれる事はないってわけだ。ますますこの村が欲しくなったぜ。」


モニカの首の皮膚は押し付けられた剣で切れ、血が流れ始めていた。本気を示すつもりだったのだろうが・・・


モニカの血を見たコジローは切れていた。


「マロ、マルスを頼む」


いつのまにか城壁の上に居たマロが放ったサンダーアローがマルスを捕らえていた男の頭を貫通する。


同時にコジローが四十倍加速転移斬で、モニカを捕らえていた男の首を斬り飛ばしていた。


コジローは即座にモニカを抱え転移、ネリーに預ける。


「ち、ちくしょー、他の従業員を人質に取れ!!」


ボスが声を掛けるが、誰も動くものは居なかった。


「周囲をよく見てみろ。」


マドリーが言う。


ボスの周囲にあるのは、五十人の手下の死体と、それを取り囲むように立っている数十頭の魔狼の姿であった。ボスを除いた男達全員が魔法の矢に貫かれて死んでいたのである。


「人数も俺達のほうが多かったな。」


ボスは計算間違いをしていた。この村に戦闘員は少ない?否、人型の戦闘員が少なかっただけである。


この村と周辺は数百頭の魔狼が守っているのだ。


「言ったろ?人の法は及ばなくても、別の法で罰せられるとな。」


呆然としているボスに向かってマドリーが言う。


「オマエ、賞金首の盗賊だろ?昨日、街に言って手配書を確認してきた。かなり高額の賞金が掛けられているようだな。」


額に汗を浮かべながら、周囲をキョロキョロ見回し脱出の機を探っていたボス。


「ち、ちくしょー、どうせ捕まったら死刑だ!」


破れかぶれになったボスは剣を振りかざしマドリーに向かって走り出した。


「賞金の条件は別に生きて引き渡す必要はないって書いてあっ・・・遅かったか。」


マドリーの言葉を最後までボスが聞く事はなかった。


コジローの転移斬によってボスの上半身と下半身が切り離されていたためである。




コジローがボスの首を切断し、袋につめてアルテミルのギルドに持っていく事になった。


残りの死体は魔狼達のファイアーボールで骨まで灰にされ、村は、何事もなかったかのように平常運転に戻ったのであった。


襲う相手を誤った愚かな盗賊達の末路であった。。。



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