第6話 子狼がついてきた
逃げようとするゴブリンの最後の一匹を斬った時、近くの木まで一緒に斬ってしまった。
次元剣は太い樹木の幹も一閃するだけで切断してしまう。樹木どころか岩も鉄でも斬れるのである。
すごい。なるほど、この剣と転移魔法があればなんとかなりそうだ。
斬ってしまったそこそこの大きさの木が、ゆっくりコジローの居る方へ倒れてきた。慌てて避けるコジロー。
『木はどちらに倒れるか予想がつかないから、気をつけたほうがよいぞ・・・』
と、ゼフトの声が聞こえた。
森の中で剣を振り回すときは注意したほうがよいかもしれない。
『"加速"も使ってみるが良い』
再度、ゴブリンが十数匹転送されてきた。コジローが「加速」を発動すると、ゴブリンの動きが少しスローになって見えた。
現在のコジローのレベルでは加速の魔法も2倍速程度が限度である。しかし、コジローも少し慣れてきた。次元剣を使えばゴブリン程度であれば十分蹂躙可能であった。
『転移魔法はあまり人に見せないほうが良い。利用しようとする者が寄ってくるかもしれん。奥の手として取っておいたほうがよいじゃろう。』
つまり、なるべく「加速」だけで戦ったほうが良い、と言う事か。
さらに、重力魔法を試してみた。
落ちていた少し大きめ石に重力魔法を掛けてみる。対象の重さを何割か軽くすることができるようであった。魔法を掛けて持ち上げてみると、少し軽くなる。
逆に重くすることもできる。
どちらも効果が持続する時間は頑張っても数十秒といったところであった。魔力が増えれば効果も持続時間ももっと長くなるらしい。
しかし、たとえ数秒であっても戦闘時には役に立つだろう。
ゼフトが今度はコボルトを呼び出した。ゴブリンより賢く、非常に素早いので危険度はアップする。
コジローは重力魔法をコボルト達に掛ける。体が急に重くなり、動きが鈍くなるコボルト。
コジローは同時に加速を自分にかける。
動きの鈍ったコボルト達も殲滅に成功した。
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ゼフトの隠れ家に戻るコジロー。
ゼフトの隠れ家は塀で囲われており、出入口はない。転移で移動するので出入口は不要なのである。
行きはゼフトに転送してもらったが、帰りは自分の転移魔法で戻った。
コジローの転移は、現在のレベルでは、見える範囲であれば転移は可能であったが、"行ったことがない場所へは転移できない" という制約があった。
練度が上がり、魔力量が増え制御が上達すれば、転移魔法ももっと自由に使いこなせるようになるとのこと。
これにて、この世界で生きていくためのレクチャーを終わり、コジローはゼフトの隠れ家を出ることになった。
そもそも、ゼフトはアンデッドなので、隠れ家は生きている人間が長期間住むのには不向きなのである。森の外にある、ゼフトの知り合いの家に行き、そこからは自由に世界を見て回れば良いと言う。
まぁ、当分は好きに生きて、世界を色々見て回ればよいという。そうしているうちに、自然に魔法も熟練していくであろうと。
ゼフトと話したい時はこれを使えと、小さなオーブを渡された。ゼフトは時空魔法の達人なので、距離は気にする必要はないそうだ。オーブは鎖が付いたペンダントになっていたので、首に掛けて服の中にしまっておいた。
また、子狼を一緒に連れて行けと言われた。
実はコジローがゼフトの元に来た時、隠れ家には先客が居た。狼の親子である。
ゼフトの使役している従魔らしいが、妊娠したので、安全な出産場所としてゼフトの隠れ家を提供していたらしい。
ただの狼ではない、魔狼である。頭の上にツノがあり、通常の狼よりかなり大きかった。
魔狼にも種類があり、最上位種であるフェンリルだそうだ。
コジローは、この世界のレクチャーと魔力の訓練を続けていた間、休憩時間には子狼を撫でて癒やされていたのだった。
そのうちの一匹、コジローに一番懐いていた子狼が、コジローと一緒に行きたいと言ったらしい。
名前を付けてやれと言われたので、マロと名付けた。魔狼なのでマロ・・・安直過ぎるが、まぁ良いだろう。
名前を付けてやったところ、コジローとマロの足元に魔法陣が浮かびあがる。二人は淡い光に包まれ、コジローの頭のなかに声が響いた。
『よろしく』
マロが語りかけているらしい。
『契約完了じゃな』
ゼフトが言った。
契約?
『従魔としての契約じゃ、より密接な関係になったとでも思っておけば良い。マロはまだ小さいが十分コジローの力になるじゃろう。』
魔狼の親子もそろそろ森に戻るという。
基本的に狼は群れで生きる、それは魔狼でも同じだそうだ。大きくなったからと言って群れから追い出されるということはないはずであるが、母狼から離れて大丈夫なのだろうか?
『だいじょうぶ』
とマロが言った。
その気になれば親兄弟にはいつでも会えるとのこと。
フェンリルというのは恐ろしく速く移動できるのだそうだ。
フェンリルについての知識を記憶のデータベースから引き出してみると、「一足で山5つ越え、神をも噛み殺す」という伝説があるらしい。
それに、コジローの転移魔法が上達すれば、それこそいつでも戻ってこられるので問題ないのかもしれない。はやく上達して、毎日でも帰れるようにしてやろうとコジローは思うのだった。
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