第7話 森を出た

コジローとマロは、森を出たところにあるゼフトの知り合いの家に向かうことになった。


隠れ家から森の出口までマロの母が送ってくれるらしい。


ゼフトの転移魔法でそこまで送ってくれればよいのにと思ったが、何か理由があるのだろうか?


コジローがゼフトの隠れ家の外に出ると、周囲にはたくさんの魔狼が集まっていた。リーダーである母狼を群れの狼達が迎えに来たのだろうか?


母狼は、体の大きさを変えられるらしい、少し小さくなった、牛くらいか?そして、コジローの前で伏せる。どうやら背中に乗れという事か、コジローが乗りやすいサイズになってくれたようだ。


コジローが跨ると、母狼は立ち上がり、森の中を疾走し始める。

凄い速度だ、景色が流れる。

周囲にいた魔狼達も一緒に走っている。


マロは?と思ったら、ちゃんと横を並走していた。


マロは少し体のサイズが大きくなっていた、どうやらマロも体の大きさを変えられるのだろう。

サイズは大型犬くらいだろうか?頭部にあった膨らみ程度だった突起が、少しのびて小さいながらもツノだと分かるようになっていた。


容姿が変わってもちゃんとそれがマロだと分かるのは、従魔としてコジローとマロの関係が深くなったからなのだろう。


母狼の首の毛を掴んで必死にしがみついていたコジローだったが、だんだん慣れてくると周囲を見る余裕も少し出てきた。地球でバイクに乗って林道を走った時の事が思い出された。


狼の速度はバイクよりかなり速い。コジローの運転するバイクではとても無理な速度だが、魔狼の運動神経なら問題ないのだろう、特に木にぶつかったりすることもなく走り抜けていく。


やがて、森を抜け、草原に出ると、少し先に家が建っているのが見えた。




母狼は森を出たところで止まり、伏せてコジローに降りるように促した。


マロが母狼に近づく。マロは子犬サイズに戻っていた。


母子は鼻を近づけて挨拶し、すぐに身を翻して森に帰っていった。


愛息子の旅立ちにしては意外とドライだな、とコジローは思ったが、


『いつでも呼べばすぐ駆けつけるって』


とマロの声が頭の中に響いた。


なるほど。。。




草原に建っている家に近づくと、庭にゼフトと中年の夫婦が立っているのが見えた。


「ようこそ、マドリー&ネリーの家へ!さぁあがって!」


中年の女性が家に招き入れてくれた。


しかし・・・ゼフトは骸骨の姿のままなのだが、大丈夫なのか?


『この者たちはワシの正体を知っておるので、隠す必要はないのじゃ。』


「あのー、"師匠" は転移魔法でここに来たのですよね?」


『そうじゃが?』


「だったら俺も転移でここまで送ってくれたらよかったのでは・・・?」


『まぁ、そう思ったのじゃがな。』



『後は頼んだぞ』


ゼフトは中年の夫婦に声をかけると姿を消してしまった。


実は、ゼフトも転移で移動するつもりだったのだが、子狼の旅立ちとなるため、母子が最後に一緒に走れるように気を効かせたのだった。




中年の夫婦は、マドリーとネリーと名乗った。


「コジローです、これはマロ。」


あらー可愛いわね!と、ネリーがマロを撫でまわす。マロは大人しく撫でられ、気持ちよさそうに目を細めていた。




家に入り、夕食をごちそうになりながら、夫妻から少し話を聞いた。


マドリーとネリーは、ゼフトに色々と世話になっており、ゼフトの研究に協力したりしているのだそうだ。


しかし、ゼフトはあのような姿である、この世界で言う "リッチロード" と呼ばれる魔物───アンデッドだ。


脳内に記憶された知識を引っ張り出してみる。


リッチとは、魔術士がアンデッド化した魔物であり、中でもリッチロードは、大魔術士や賢者というような存在がアンデッド化した魔物で、強力な魔法を使う危険な存在として恐れられているらしい。


そのような存在と普通に接するマドリーとネリーのような者のほうが、この世界ではおかしいということになるらしい。




実は街の人は、ゼフトがアンデッドであると言うことまでは知らないのだそうだ。だが、それでも死霊魔術を研究する怪しい魔術師であるという噂が流れており、そのような者と交流がある夫婦はあまり好かれておらず、街に居づらくなり森に住むようになったとか。


当然、森にはモンスターが居て危険なのだが、ゼフトの魔法でこの家には結界が張ってあるので安全なのだという。


家の敷地を囲っている柵が境界となっており、魔物がそれを越えようとすると手酷い電撃を味わうことになるそうだ。ただし、人間が越えても大丈夫なので心配はいらないとの事だった。


侵入者を識別できるとは、さすが魔法だ。地球よりある意味進んでいるといえるなとコジローは思った。


この家から街までは馬車で2~3時間ほど。固く踏み固められた一本道となっているが、その道もゼフトが作ってくれたのだそうだ。


ゼフト、意外と面倒見が良いのであった。


ゼフトにも夫婦は研究で利用価値があったからこそなのかも知れないが。




マドリーとネリーには子供が三人おり、上の二人は既に独立して街に住んでいるらしい。


三番目の子は女の子で、家に居るが病気で奥の部屋で寝ているのだそうだ。




食事が終わり、疲れただろうから風呂に入って休むようにと部屋に案内してくれてた。マドリーとネリーの家は意外と大きく、いくつか客室があった。なんでも、たまに客を泊める必要があるので、ちょっとした旅館のようになっているのだそうだ。


大きな風呂があり、マロも一緒に入って良いとのことだったで連れて一緒に入る事にした。

脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入ろうとすると、マロが鼻先を押し付けてきた。見るとゼフトにもらった短剣───次元剣───を咥えている。


ああ、このような世界ではそういうものか、とコジローは思い、礼を言ってマロを撫でてやった。

日本に居た頃のような感覚ではダメなのであろう。


魔物や盗賊なども多く、決して治安が良いというわけではないこの世界では、武器は手の届くところに常に置いておくのが当たり前なのである。


それに、希少な剣なのだ、盗まれでもしたら大変だ。


マドリーとネリーが盗むとは思わないが、肌身離さない習慣(くせ)をつけておくのは大事だろう。




マロの体を洗ってやり、湯船に入らせ、自分も洗って入る。


温泉ではないそうだが、風呂に浸かるのは疲れた体にとても気持ちよい。マロも気持ちよさそうだ。


コジローはいつのまにかウトウトしてしまっていたところ、マロに突付かれ目を覚ます。


危ない危ない、寝落ちしてしまうところだった。さっさとベッドで寝よう。


急いで部屋に戻りベッドに入ると、マロも一緒にベッドにあがり、枕の横で丸くなった。


マロの背中に体に顔を寄せるとモフモフで気持ち良い。


コジローはすぐに眠りに落ちていった。。。



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