第10話 お客様→純粋無垢なアンドロイド君と天才辛党エンジニアさんと吸血鬼くん

「お姉さん!おはようございます!」

ニコニコしながら店に入ってきたのは人型ロボットのロドニー君だ。ロドニー君がいると言うことは開発者さんもいると言うこと…。

つまり……。


「て、店長さん……お邪魔します……」


ダニーさんもいると言うことだ!

二人はニコイチ。ファストフード店のメニューで例えるとポテトとハンバーガーのようなもの。ダニーさんはロドニー君のようなロボットが社会に馴染めるのかと言う名目の実験でちょくちょくこの店に来てくれる。……本人曰くそう言ったら仕事をサボれるから丁度いいのだそう。仕事をサボる、デジャブが凄いな。


「この店……やっぱり落ち着きますわ。あー……僕のような人間には研究所みたいなギラついた、能ある鷹でも爪を隠さない人達がわんさかいる所よりもここみたいに和やかな場所が丁度良いです」


「なるほど!そう思っているんですね。僕のデータに追加します!創造主様!」


「やめなさいロドニー……。研究所内で僕が純粋無垢な少年アンドロイドに創造主様って呼ばせてる変態って噂が広まってるんだから……」


「なるほど、そのような噂が……なら人目につかなければいいんですよね?」


……それは違うと思うよロドニー君。普段からやめてほしいんだと思うよ。

その証拠にダニーさんが苦虫を潰したような顔になっている。


「……ずっと思ってたんですけどそのパンパンのポケットに何が入ってるんですか?」


「あー……これ。七味唐辛子とタバスコとデスソースのストック」


……あそこの研究所に勤めている人は何故こうも変わった人が多いのか。科学者であるヴァイスさんも飴でポケットをパンパンにしてたな……。


「ヴァイスもポケットにめちゃくちゃ飴はいってたなーって顔してますよ店長さん」


「え⁉︎」


「冗談です。でも、僕もヴァイスも白衣でポケットパンパンってキャラ被ってません?」


そこは大丈夫だと思う。性格が全く違うし、甘党と辛党だ。ベクトルが違う。まぁ、被ってても僕は全然困りませんけど、と言った。……流してしまったがヴァイスさんと仲が良いのだろうか。呼び捨てだったし。ヴァイスさんと言えば、お料理対決はどうなったのだろうか。色々と深く聞いてみたたいと思ったが、ロドニー君がずっと店の商品であるネックレスを見つめている。じっと、微動だにせずに。……この話はまたの機会にしよう。


「ロドニー君。最近、私の店以外にも何処か行ったかな?」


「僕⁉︎えーっとねー……おねーさんの店以外だったらねぇ、でっかいお屋敷に行ったよ!」


「でっかいお屋敷?」


「そう‼︎僕、創造主様と逸れて迷子になっちゃったんだー……」


「おい、創造主様はやめろ、まじでやめろ。ロドニー、君はそれを聞いた時のヴァイスの反応を見たことがあるのか。いつも目の焦点が合ってないのにあの時だけ急に真顔になって哀れむような目でこちらを見たんだぞ!知らない研究員から貴方がショタコンのダニーさん!って言われる虚しさが分かるかロドニー⁉︎」


「……それは知らなかったなぁ!データに追加しておきます!」


「そう言う事じゃないんだ!」


ダニーさんが店のカウンターを叩く。本気でロドニー君に言っているんだろうな。必死だ。ヴァイスさん、急にすん……ってなるからな。確かにあの顔で見られてしまったら耐えられそうにない。しかも、知らない人からそんなことを言われるのは辛いと思う……。しかし、ロドニー君はダニーさんの必死の懇願に構わず、話を続ける。


「そしたらね、でっかいお屋敷があったの!中にお人形みたいなメイドさんが居たんだけどすっごい無愛想で……」


「メイドさんがいたのか⁉︎くっ……見てみたかった……」


「ダニーさんのその喰いつきは何なんですか……」


私は少し息を漏らした。ダニーさん大人しそうに見えて意外とこう言う所あるからな……。ってダメだ。話が脱線している……。


「ええと……それでどうなったのかな?」


「困ってたら、すっごい厨二病患ってるみたいな人が来て……。喋り方がすっごく古風だったんだ。真似するとね……『冷徹メイド!我輩の客人に無礼を働くでない!』こんな感じかなぁ。あ、めちゃくちゃいい人だったよ!僕を客人って事にしてお屋敷を案内してくれたんだ!でっかい書斎で本とか読み聞かせてくれたよ!」


……。ロドニー君よ、この世界に厨二病患ってるみたいな人は沢山いるぞ……。なんせ魔法使いもいれば悪魔や天使もいるからな……。獣人だっているし……。何でもありだ。というか、なんだその規格外の空間。

そんなお屋敷なんてこの街にあっただろうか。



「その人に食事を共にしないかって言われたんだけど、食事の機能は備わっていませんって言ったんだ。そしたらね、その人が驚いて『じゃあ貴様にこれをやろうぞ!喜ぶがいい!』って言ってこれをくれたんだ。それで、お礼を言ってお屋敷から出たよ。またいつでも遊びに来ていいよって言われた。メイドさんは帰り際にお気をつけてって言ってくれたよ。で、少し歩いたら創造主様がGPSで僕の居場所を探してくれてたみたいで迎えに来たんだ」


「だから創造主様はやめなさいって……あぁもう……」



ダニーさん……大変だな……。

それがこれだよ、と言ってロドニー君は石のようなものを見せてくれた。

宝石のように見えるが……。


これは……。


これは……⁉︎



「あー⁉︎店長さん⁉︎それって『命の空咳』ですよね⁉︎どこでそれを手に入れたんすか⁉︎」


「うわぁ⁉︎え、君、従業員の子かな⁉︎いや、客か‼︎」


見慣れない人を認識したせいでダニーさんがプチパニックに陥っている。ほんとこの人、人見知りがすごいな。初めて来店した時もロドニー君の後ろに隠れていたことを思い出す。ロドニー君のは子供ほどの身長しかないのに。むしろダニーさんは壁か?と思うくらい高いのに。


私は、話し込んでいて気がつかなかったお客様に挨拶した。


「いらっしゃいませ、ライト君」


「店長さん久しぶりっす〜!えぇと、初めまして!吸血鬼のライトっす!」


「わぁあ!僕はロドニーだよ!超高性能人型ロボットなんだ!白い白衣を着ているのは僕の創造主様だよ!」


「だから……あー……ダニーです。しがないロボットエンジニアです」


もう諦めてるだろダニーさん……。すっごい目の死に方をしてるよ……。

気づいて、ロドニー君。

君、超高性能なんだよね⁇


「店長さん、ロドニーが貰ったこれってそんなに凄いものなんですか?」


そうなんですよ、と私が言う前にライト君が反応した。


「ダニーさんっすよね⁉︎これはめちゃくちゃ貴重なモノなんすよ!この『命の空咳』はすごい能力を秘めているんす!これが作れる吸血鬼は限られていたんすよ!」


「君思ったより喋るな⁉︎っていうか、これって吸血鬼しか作れないの?しかもいたって過去形だよね?」


「その通りっすダニーさん。聞いて驚きますよ。これは吸血鬼の心臓で作れるんす」


「は?グッッッッロ。え?死んじゃうでしょ?」


……存在は知っていたが、めちゃくちゃ詳しいなライト君。なんでなんだ。というか、心臓だったのか……初耳だな。そう考えるとダニーさんの言う通りグロテスクだ。相当趣味が悪い。


「そこなんすよダニーさん。この『命の空咳』は力の象徴であり、命を守るものだったんす」


「……ええと、それを持ってたら身代わりになってくれるとか⁇」


「!おしいっすロドニー君。死んでも心臓に宿った魔法というか、呪術に近いなにか……、その力でストックを持っている限り生き返れる。使った石は割れて使い物にならなくなるみたいな感じっすね。」


……。でもこれは力の象徴だったって事だよね……?

そうゆう事はつまり……。


「自分が倒した相手の心臓を取り出して、作ってたって所かな?」


「流石店長さん、勘が鋭い!そうっす。昔、魔界では領土争いが酷かったんすよ。そこで名を挙げた吸血鬼だけがこれを作ったとされているっす。今ではつくり方が不明なんすよ。もうわからずじまいっす。まぁ、今そんなことしたら普通に捕まっちゃいますからいいんですけど」


「ならそのお屋敷の人は余程のお金持ちか珍品コレクターか……」


「案外、ロドニー君が会った人は魔界の一国を仕切ってたかもしれないっすね!古風な喋り方だったみたいだし。魔界では魔王が出てきてから一国の主は権力を失って人間界に逃げたとされているっす。一番有名なのがルーク・ヴァン・アルバルトっすね」


「確かに厨ニ病っぽい」


「いやいや!すっごい強くて有名なんすよ!なんなら一人で一国に突っ込んで勝利を収めたらしいっすから……まぁ、人間界に逃げたのを、未だに天使が追ってるって噂ですけど」


……すごく強かったと同時に、破天荒な人だったんだなと言う印象がうかがえる。それにしても天使は本当に様々な仕事をするんだな。アリアちゃんの言っていた危険な仕事とはこのような仕事なのだろうか。確かにそんな強い人ばかり相手をしていたら、誰だって命を落としてしまう危機感を抱くだろう。


その時ふと、ロドニー君が口を開いた。


「店長さん……そんな貴重なのを僕が持っていていいのかな。僕なんかが……」


「いいんだよ、ロドニー君が貰ったんでしょ?」


「うん」


「なら、それはもうロドニー君のものだよ。その人も、ロドニー君に持っていて欲しいんじゃないかな?」


静かに首を縦に振ったロドニー君に、石をに返した。ロドニー君の手は冷たく、無機質そのものだった。こうしてみると、彼が人間ではないのをはっきりと感じる。

ロドニー君は自身の胸の部分を開き大切そうにそれをしまう。私はこの光景は何度見ても慣れない。思わず目を背けそうになる。中には他にも写真のようなものや指輪などが入っているのは知っていた。おそらく彼の、宝物なのだろう。ライト君が驚いている。


「ロドニー君って本当にロボットなんすね……なんか、凄い光景っす…‥」


「ロボットだよ!ね、創造主様」


「俺が作りましたー生産者の顔ー……」


もう諦めてるな、ダニーさん。表情が無だ……。死んだ魚の目をしている。ダニーさんはさて、と言って立ち上がった。


「ロドニー。そろそろ行くかな」


「はい!創造主様!行き先は?」


「……決めてない」


決めてないんかい!っと思わずツッコミそうになった。だめだ、ツッコミスキルがまた上がってしまう……!


「なら、隣の店に行きませんか?」


「何の店かな?ライト君?」


「ブックカフェっす!三人で経営してるんすけど、すごいんすよ。店長さんはモテモテで、いつも女の人が周りにいるっす。モナさんは料理を作ってくれるんすけどそれが最高で……。紅茶を淹れるのも上手いんすよ。ビアスさんはおススメの本を紹介してくれるっす。本ソムリエみたいな。ビアスさんが勧めてくれる本は超面白いっす」


それを聞いたロドニー君の顔がパッと輝いた。


「楽しそうだね!創造主様!僕そのお店に行きたいなぁ」


「……モテモテの店長が羨まし……気にくわ……気になるがそこにしようか」


何にも隠せてない……。

というか、セノさんはやっぱりモテモテなのか……。ハーレム状態なんだろうな……。ううん……。気になってしまう……。

今度、食事でも誘ってみようかな?前に誘ってもらったけれど結局話が流れちゃったし。どうせいつも一人だし。



そう考えているとライト君がそれに、と続いた。


「もっとお二人と仲良くなりたいと思って!ここであったのも何かの縁です!」


「う……眩しい……。圧倒的光属性……」


「成る程、これが縁ってやつかぁ!僕のデータに付け加えておくね!それにライトさんのデータも入れとくよ!よろしくね、ライトさん!」


ロドニー君が目を輝かせながらそう言った時だった。店のドアが勢いよく開き、そこには見慣れた人物が立っていた。かなり急いで来たようで息が整っていない。

いきなりどうしたのだろうか。


「ダニー!ロボット開発戦略部の奴が探してたぞ!」


「ヴァイス、頼む。見つかりませんでしたって言っといて」


「えぇっ⁉︎そんな適当でいいんすか⁉︎」


ライト君……ダメだよこんな大人になったら……。いや、探してるのなら緊急の要件でしょ、と思ったがあえて口に出さないことにした。ヴァイスさんの顔がすぐむすっとした顔になる。


「ダニーは俺様の言うことを少しは聞け。貴様を連れ戻したら苺パフェが俺のモノになるんだ」


「食べ物につられるなよヴァイス……甘い物なら好きなだけ食べられるさ」


「でも創造主様……何処で食べるんですか⁇」


ロドニー君は困惑した目付きで、ヴァイスさんはきょとんとしてダニーさんの方を見ている。

そんな二人に、ダニーさんは得意げな顔で言った。


「隣のブックカフェだ!今からこのライト君とロドニーと行く予定だったんだ。あー……残念だなぁ……。ライト君に食事奢って、ロドニーには好きなだけ本を買ってあげようと思っていたのに……。しかも、君さえ良ければデザートを奢ろうと思っていたのに……残念だなぁ〜……僕を呼んでるなら帰らないと。折角誘ってくれたのにごめんねライト君」


静かに息を漏らしながら仕方ないね、と肩を落とした。……ヴァイスさんの方をちらちら見ながら。やったー!好きなだけ買ってくれるんだ!とロドニー君は無邪気に喜んでいた。可愛い。ライト君は悪いっすよ、と言って焦っている。




「……俺様も行きたい」


ヴァイスさんが蚊が鳴くような声でポツリと言った。ダニーさんはそれを聞き逃さなかった。

露骨に表情を歪ませる。


「おやおや〜?君には苺パフェがあるのでは⁇仕事はどうなさるんですか〜?」


「ずるいぞその言い方は!貴様が奢ってくれるなら別だ!本当に奢るんだな。俺様は店のデザートを全種類頼むぞ」


「僕の財布の底が見えそうだけど、仕方ないね」


そう言って、ダニーさんは肩をすくめた。二人とも仲が良さそうに見えるが、仕事は本当に大丈夫なのだろうか……。怒られないか?いや、この人達は怒られても全然反省しなさそうなタイプだからいけるのか。


「じゃあ四人で行こうか!ブックカフェへ!」


「本当にいいんすか……?やっぱ悪いっすよ」


「創造主様はミニマリストであまり物を買わないのでお金は大丈夫ですよ!僕が保証します」


「いいんだ少年。こういう時は素直に奢られろ。俺様との約束だ」


「いやヴァイスお前が奢るわけじゃないだろ」


仕事をサボってカフェに向かう科学者、エンジニア、超高性能ロボット、明るい吸血鬼は店を出て行った。



……。買い物してない、だと……。まぁいいんだけどね。



後日、ライト君から話を聞くとダニーさんはあの後、本当に皆んなが好きなだけ注文したものを奢ったらしい。話は弾み、皆んなで本を読んだり頼んだものをシェアして食べたりしたそうだ。

ちなみに、ヴァイスさんとダニーさんは同期でライバルらしい。お互いリスペクトしあってて仲良いなって思ったっす、とライト君は言っていた。

この四人は思った以上に楽しかったため、次の予定も計画しており、水族館に行くのだとか。

楽しそうだ。



モナさんが、オムライスにデスソースやタバスコをかけまくっていたダニーさんに密かに激怒していたのをビアスさんがなだめていたのはまた別のお話。

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