第4話 お客様→サボリ魔天使ちゃんと生真面目天使さん

「店長さん!また来ちゃいました!」


「アリアちゃん……。お仕事は?」


「もっちろん、サボって来ました」


今日もか、と私に思わせたのは天使であるアリアちゃんだ。

いつも金色と灰色が混じった輪っかを携えて、白いワンピースを着ている。私はあまり天使を見かけたことはないのだが、基本的に金色の輪っかに白い服を着ているようだった。だが、アリアちゃんの輪っかは灰色が混じっている。

彼女は堕天しかけているのではないだろうか。


「今日は何をお求めで?」


「決まってるじゃないですか」


アリアちゃんは自信満々に、さも当然であるかのように言った。


「上質なサボリ空間とお菓子と飲み物!そして話し相手!」


そうかあ、っていつもの事なのだが。

アリアちゃんはお仕事が随分と嫌いらしい。

私の店に何か買いに来るというわけでもなくサボリ場所としてここに来るのだ。

まあ、私はそれでも構わないのだけれど、アリアちゃんの上司の人に物凄い目で睨まれるからなあ……。

いっつもこの店まで迎えに来て甘やかすなって言われるからなあ。

まあ、そんなことを考えつつもサボリ空間は提供するし、お菓子と飲み物もちゃんと用意してるし、話し相手にもなるし……。


「はい、お菓子と飲み物」


「わあっ、いただきます」


彼女は、クッキーを口いっぱいに頬張った。まるでハムスターみたいだ。サクサクと言うリズミカルな音が店内に響く。アリアちゃんがこうして美味しそうに食べているだけで癒されるな。これが天使の浄化能力なのだろうか。私は紅茶を口にした。ふわりと香る薔薇が心地よく、程よく私の体に染み渡ってゆく。


「アリアちゃん、たまにはお仕事してみようよ」


「嫌です!めんどくさいんですもん!あのクソ上司もうるさいですし!そんなことよりもっと楽しいこと話しません?」


「例えば?」


「そうですね……店長さんが雑貨屋さんになろうと思ったきっかけとか聞いてみたいです!私の転職のきっかけになるかもしれません」


「私が雑貨屋さんになろうとなろうと思ったきっかけねえ」


「そうです!さあ、教えてください!何となくは駄目ですからね」


彼女が果たして転職できるのか否かはさておき、私が話すのを楽しみにしている彼女を無下にするわけにはいかない。が、この話をするにはかなりの時間がかかる。話すと長くなるのは、困る。もしも、アリアちゃんの上司の人が迎えに来た時、私の話の途中だから帰りたくないと言われてしまうと確実に怒られてしまう。私が。甘やかすなと怒られてしまう。少し怖いのでそれは避けたいところだ。それに今日は心の準備もできていない。私にとって、幼少期の話をするのは少し気恥しい事なのだ。

そんな理由で、彼女には少し悪いが今日は話さないことに決めた。


「何となくじゃないけど、時間かかるしなあ。今日はちょっと」


「そ、そんなぁ~……教えてくれたっていいじゃないですか~」


アリアちゃんは肩を落とし、唇を尖らせていた。


「それに、ちょっと恥ずかしいからヤダ」


「えぇ~……ヤスさんみたいにケチなこと言わないで下さいよぉ」


「アリアさん、私になにか」


アリアちゃんの後ろに、いる。そして来るのが相変わらず早い。

いつの間にか来ていたのはアリアちゃんの上司であるヤスさんだ。ヤスさんは金色の立派な輪っかを携えて、白い燕尾服に片眼鏡と言う見た目からして真面目そうな天使だ。その予想を裏切ることなく、彼は性格も真面目だ。そのような性格だから、アリアちゃんとそりが合わないのは至極当然のことであった。


「うっわ名前読んだら出てくるとかゴキちゃんと同じじゃないですかめっちゃウケますね」


「アリアさん、仕事が溜まっているんですよ仕事が。さっさと帰りますよ」


「断固拒否します!まだお紅茶が残っているので」


ヤスさんの瞳孔がさっきからずっと開きっぱなしになっている。相当頭にきているに違いない。アリアちゃん、上司の人を煽りすぎだよ。


「店長さん」


「はっ、はい」


「毎度毎度、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


そう言った後、彼は私に深々と頭を下げた。

いや、そこまでしてもらわなくても……!

何だかとっても申し訳ない気持ちになった私に、一生頭下げてればいいんですよと言うアリアちゃん。

アリアちゃんはせめて反省してくれ。頼むから。

ヤスさんにアリアちゃんの言ったことは聞こえなかったが頭をすっと上げ私の方をギっと見て肩を掴んだ。

突然の出来事だったので心臓が飛び出そうになった。


「店長さん!アリアさんを、甘やかさないで頂きたい!」


「店長さんは何も悪くありません!ヤスさんが厳しすぎるんです」


「君がほぼ毎日ここに来ているからでしょうが!大体君はいつもー」


ヤスさんによる長い長いお説教が幕を開けてしまった。

このお説教はお客様である吸血鬼のライト君が来るまで延々と続いた。








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