第3話 お客様→武闘派魔法使いさん

「おい!いるか店長!」


「いくらお客様でもドアを破壊するのはいただけないなあ」


昼、店を掃除していると派手な音と共にドアが破壊された。

ドアの修理代って結構かかるんだよなあ、と思いつつそこにいる人を見ると思っていた通りの人物が腕を組み、仁王立ちをしてそこに立っていた。


クレアさんだ。


クレアさんは見た目は見目麗しく上品なのに対して、中身はかなり残念な魔法使いだ。お嬢様のような見た目とは裏腹にかなり男っぽく、口が悪い。

魔法使いとして仕事をする際は、三角帽子に黒い無地のワンピースという如何にもな恰好をしているらしいが、この店に来るときはいつもらしいジャージだ。本人曰く、ジャージが動きやすくドアを蹴り飛ばしやすいらしい。彼女はデザインよりも、機能性を重視するタイプのようだ。


私は目の前の豪快なお嬢様を見て、深く息を吐いた。


「クレアさん、毎回ドアを蹴り飛ばすのは勘弁してください」


「そこに壁があればそれを乗り越えてゆかねばならない……」


「いい感じに言っても、駄目ですから」


クレアさんは冗談通じねえな、とかなんとかブツブツと言いながら店の中に入った。それから、ドアの残骸に魔法をかけていく。


すると、まるでパズルのピースが正しい場所にはまるようにドアは元通りになった。文句を言いながら元に戻すのなら、初めからドアを木っ端みじんにしないで欲しいのだが……。


クレアさんのことで頭を悩ませていることなど知らないであろう彼女は、ツカツカと私のいるカウンターまで来て妙に深刻そうな顔をしながら口を開いた。


「今日は欲しいものがあるんだ」


「何ですか?」


「……ネックレス」


その時、私には電流が流れるような衝撃が走った。

クレアさんはアクセサリーを付けない、という訳ではないがネックレスをしている所は見たことがない。以前、ネックレスは首に絡まる気がする上に、ジャラジャラして戦闘時に邪魔だと言い放っていたはず……。


「急にネックレスって、一体何が……?」


「明日、魔法使いが集まってパーティーを行うんだと。行く気はなかったが……。

師匠に誘われたからな」


「お師匠さんに」


「ああ!迷惑な話だ!でも、折角参加するんだ。だから明日くらいは、その……少しお洒落して、行こうと」


彼女は段々と消えそうな声でそう言うと、林檎みたいに真っ赤に染まっていた。

そんな彼女に私は思わず笑みが零れた。ネックレスか。



「私に任せて!今でも超麗しいクレアさんをもっともっと素敵にするネックレスを持ってくるから!」


そう言って私は店の奥に入った。

ネックレスは、一番奥の棚の下の方にあるはずだ。



「クレアさん!お待たせしました!」

私は両手に持っていたネックレスをカウンターの前に並べた。クレアさんは待ってましたと言わんばかりにネックレスの一つ一つにくぎ付けになっていた。私が最後のネックレスを置くまで、丁寧に見ていた。


「これだけかな。明日着ていくのってドレス?ワンピース?」


「ドレスだ。お嬢が貸してくれるんだ。昨日相談したら着せ替え人形みてえに色々着替えさせられて大変だったぜ。明日着るのはレースがいっぱい付いた白いやつだ」


物凄く、そのドレスを着ているのを見たい。お嬢が誰なのかは分からないがドレスをたくさん持っているとなると、本当にどこかのご令嬢なのだろうか。気になる。

ああ、できる事ならば、そのパーティーに行きたい。

しかし、私はしがない雑貨屋店長。

魔法使いのパーティーに参加する権利などない。


「残念だなあ」


「ん?どうした?店長」


「あ、いや、なんかイメージ変わるなって。いつもはカッコいい感じだから」


「う、うるせえ!いいだろ!明日だけなんだから!」


やはり真っ赤な顔で彼女は答えた。

それから、彼女は目の前のネックレスを見つめた後私に困った顔を向けた。


「店長、どれがいいか全然分かんねえよ……」


「うーん、白いドレスなら、色が付いてた方が良いかもね。レースがいっぱいなら、シンプルなデザインの方が映えると思うよ」


「おお。流石だ。店長」


彼女が宝石のようにキラキラと輝く目で、尊敬のまなざしを向けてくるが、ごめんよ、私もファッション初心者だ。そこまでお洒落でもない。


彼女は私のアドバイス(?)を受けたあと、ネックレスをまたじっと見ていた。

彼女は何かを選ぶとき、自分に合うもの見定めて買うのだ。


「決めたぜ店長。これにする」


そう言ってにかっと笑った彼女の手には、海のような色の、あのネックレスがあった。


「いいと思うよ。綺麗でしょ、そのネックレス」


「ああ、透き通った海みてえな色だ」


ライト君のネックレスは、クレアさんの手に渡るようだ。

今度彼が来た時に伝えよう。きっと喜ぶだろうな。


「対価はパーティーの次の日でいいか?」


「うん。パーティー、楽しんできてね!」


「もちろんだ!ありがとうな、店長!」


そう言ってドアを蹴り飛ばし彼女は帰っていきましたとさ……。


修理、しなきゃね。



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