第2話 お客様→元気な吸血鬼君
「店長!おはようございます!」
そう言って朝一番に来たのは、吸血鬼のライト君だ。吸血鬼のはずだが、日光も大丈夫なんすよ、などと言っている。初めて会った時はこんな吸血鬼がいるとは思わなかった。日光大丈夫じゃないよね、絶対。突然、灰になってしまわないだろうか。それだけが心配だ。
「おはよう。ライト君。今日も元気だね」
「はい!俺、朝方吸血鬼なんすよ!やっぱ早起きして散歩するのとか、最高っすよね」
……吸血鬼のイメージが彼によって根本的に覆されている気がする。
吸血鬼とはこのようなものなのだろうか。他の吸血鬼のお客様は日光を極端に嫌い、日傘をさしていたり雨の日に来店していたりするのだが。吸血鬼に朝方もあるのだろうか?夜行性の吸血鬼がほとんどだと思うんだけど。
そう思いつつ、ライト君に話しかけた。
「えぇと……今日は何を買いに来たのかな?」
「あれっす。あれ。なんか人間がよく使ってるやつっす」
あれって何なんだ……。
人間がよく使っているものは無限にあるぞ。
「具体的にどんな物が欲しいの?」
「えー、いい匂いのするものっす。お花の香りとか」
可愛い。可愛いぞこの吸血鬼。お花の香りと言う単語を吸血鬼から聞くとは思わなかった。不意打ちだ……。
さて、ポプリかな?いや、紅茶かもしれないな。それとも、香水?
「洗濯するときに、入れたらいい匂いのするやつっす」
「柔軟剤だね」
吸血鬼が洗濯する光景を思い浮かべるとかなりシュールだ。いや、洗濯は当然すると思うけど。なんだか不思議な感じがするというか。
私はロ元をひくかせながら柔軟剤をカウンターの上に出した 。
「これで全部だよ。どんな香りがいいの?」
「お花の香りがいいっす」
「血の香りとかじゃなくて?」
「ちょ、店長!血の香りって……。怖いっすよ」
ホラー映画の見過ぎっす、と言って目の前で抗議している。
吸血鬼って血の香りとか、あまり好きではないのかな?未だに分からないことの一つだ。血の匂いの柔軟剤は前に悪魔が買っていったことがある。悪魔と吸血鬼ではやはり性質が違うのかな?それとも最近の吸血鬼は血を飲まなくても生きていけるのかな?食生活が変化しているのかもしれない。
「店長!どれ買うか決まったっす!これがいいっすね!」
「早いね。どれどれ……」
私がヴィル君の指差した商品を見ると、 『天使の柔軟剤〜爽やかハーブとフローラルの香り〜』と書かれている。これか。これを吸血鬼が選ぶのか。吸血鬼のチョイスがこれなのか。
「この商品は、実際に天使が作ってて、天使の加護のお陰で使用すると最低でも一週間匂いと柔らかさが長持ちするよ」
「それはいいっすね!節約できそうっす。これ、買っても良いっすか」
ライト君は決断するのがかなり早い。私は商品を選ぶときに一時間くらいかかってしまう。その決断力、見習いたい。
「もちろんだよ。対価はどうする?」
「これとか、どうすか?」
そう言ってライト君がカバンから取り出したのは硝子のネックレスだった。まるで海の色みたいだ、透き通っている。とても締麗で美しかった。さらに、日光に透かすと、輝きは増し太陽の様な色に変化した。
「綺麗……。これ、どこで見つけたの?」
そういうとライト君は顔がパッと輝いた。
「俺が作ったんすよ。結構上手く作れたので」
「凄いね。今度作ってもらってうちで売ろうかな。吸血鬼の硝子細工、みたいな」
「わあ、凄く嬉しいっす!」
ライト君は目を少年のようにキラキラさせながら喜んでいる。
「あざっす、店長!また来るっす!」
「うんまた来てね!」
ライト君はまた来るっす、と何回も言いながら店をあとにした。
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